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突撃!コール隊 〜推しがウザイ!なら世界を変えるまでだ  作者: 鷹雄アキル


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054 ライエスとリリエス


【ライエス/リリエスside】


「私って、誰なんだろう――」


 そんな問いを、自分に投げかけるようになったのは、いつからだったっけ。


 あの日。

 兄が死んだ、あの瞬間――

 胸の奥が焼けつくように痛くなって、それなのに、心は不思議なくらい空っぽだった。


 きっと、私たちは二人で一人だったんだ。

 ライエスとリリエス。半分ずつで、ようやくひとつの"存在"。


 だから、今の私は――

 半分だけの、半分人間。


 本当は、私も一緒に消えてしまえばよかったのかもしれない。

 だって、みんなが話しかけていたのは、いつも兄のほうだったから。


 でも、そのとき――


 私の中で、「ライエス」が目を覚ました。


『リリエスが代わりになればいい。君ならできるよ』


 その声は、静かに、けれど確かに、心の奥に届いた。


「でもね……私じゃ、ダメなんだよ」


 父は泣いていた。

 侍女たちは、私を恐れるように震えていた。

 毎夜、屋敷に響いた泣き声。


 誰も、“リリエス”という名前を呼んでくれなかった。


 ――消えてしまったのは、兄だけじゃなかったんだ。


『大丈夫だよ。一緒にいるから』


 その言葉に、私はすがった。

 いや、もしかしたら――兄が、私の中にいてくれたのかもしれない。


 領都の顔として求められたときも。

 誰かに問い詰められたときも。

 困ったときは、ライエスが、私の代わりに答えてくれた。


 でもそれは――

 ずっと、終わらない“間違い探し”のような日々だった。


 誰も気づかないような細部まで、神経を張り詰めていた。


 言葉遣い。

 立ち居振る舞い。

 服の皺、眉の角度、まばたきの回数――。


 ひとつでもズレれば、私は"いない"ことになる。

 リリエスとしての居場所は、日々少しずつ、色を失っていった。


 それでも――


 私は、この呪われた力を使うと決めた。


 ……それでも、いいのかな?


 ねぇ、ライエス。

 “誰でもない私”でも、

 半分しかない私でも、誰かの役に立てるなら。


 私、きっと――


 いつかは、“リリエス”として生きていけるのかな。


 ……もし、少し前の私だったら。

 きっと全部、あきらめてた。


 誰にも見つからず、誰にも届かず、

 静かに、何もかも消えてしまえばいいって、そう思ってた。


 だけど――


 それでも、もし。

 ほんの少しでも希望があるのなら。


 あの、ちょっと変わった男――コール。

 それに、その仲間たち。


 私を“役割”じゃなく、“人間”として見てくれる彼らがいるなら――


 私は……


 少しだけ、生きていてもいいって――

 そんなふうに、思えるかもしれない。


『大丈夫。リリエスなら、きっとできるよ』


 懐かしい声が、風に混じって聞こえた気がした。




▽▽▽


【コールside@指令所】


「……まさか、そんな」


 指令所の空気が凍りついた。

 でも俺の脳は、まだ現実を処理しきれていない。


 ——あのライエスが、女の子だったなんて!?


 いや、顔立ちは整ってた。かわいい系ではあったけどさ。

 けど、あの堂々とした喋り方に、背筋の通った立ち居振る舞い。

 なにより、あの色男っぷり――どう見ても、「男」だったろ!?


 ……まあ、最初はへっぽこ人形だったけど。


 でも――思い返せば、妙な点はいくつもあった。


 そもそも『ブレハク』に出てきた"ライエス"って、英雄エリオット王子を支える四元素使いの美女魔法使い。つまりヒロイン枠だ。


 外見も雰囲気も別物すぎて完全に別人だと思ってたけど……「女の子」だと考えたら、まさかの"同キャラ"だったのか?


 それに、あの夜——

 ライエス……いや、“彼女”が部屋に来て、あの告白をしたとき。


『リリエスが亡くなったあと、僕が眠っている間、まるで彼女のように話し、動いていた』


 ——逆だったんじゃないか?


 最初から“リリエス”が本人で、“兄のライエス”を演じていたとしたら?


 もともとリリエスだった彼女が、策略に巻き込まれて、嘘を重ねるうちに……

 いつのまにか、兄の名前でしか生きられなくなって――


「……双子の兄を失ったショックで、自分の中に“兄”を作り出しちまったのかもしれんな」


 ボイドが、珍しく神妙な顔でぽつりとつぶやく。


「……だからって、それで済む話じゃねぇだろ。ライエスはルーデリック領の第一継承者だぞ? 今さら“実は姫でした”なんて、通るかよそんな話が」


 カールが冷たく言い放つ。


 たしかに、この国では男子優先の家督制度が根強く残っている。

 けど、過去には例外もあったはずだ。


「……婿を迎えるって道もなくはないけど、問題はそこじゃない」


 カールがスーシー副隊長に目をやると、彼女は淡々と答える。


「ライエス公子には、弟君――カミュ殿下がいらっしゃいます。おそらく、次期当主にはその方が指名されるでしょう」


 ——スーシー副隊長の声、久々に聞いたな。意外と甘い……って、今はそれどころじゃない!


「たしか、カミュ殿下は“四元加護”持ちで、今は母上と一緒にヨルンで静養中だって聞いたけど?」


「あー、それ聞いたことある。なら問題なくね?」


 ボイドが軽く言うと、スーシー副隊長は静かに首を振った。


「……いえ。今回の件が波紋を呼べば、カミュ殿下の継承にも影響が出る可能性があります。

 加えて、“四元加護”の由来がエクリプスに関係しているのでは、という疑念も……」


「でもそれって、ただの憶測だろ?」


 思わずフォローを入れると、カールが冷静な声で遮った。


「問題なのは、事実かどうかじゃない。“そう疑われるかどうか”だ」


 そうなれば、と言って、カールは手のひらをパアッと広げる。

 その動きに合わせて、指令所の空気がピンと張りつめた。


 ……けど、その緊張をあっさり壊すのが、この男、ボイドだった。


「……ちょっと深読みしすぎかもしんねぇけどさ。

 これ、もしかして――エリオット第二皇子の直轄地にしようって動きが裏で……?」


 ボイドが低い声で呟く。


「おいおい、それはさすがに陰謀論がすぎるって!」

 カールが苦笑しながら肩をすくめる。


「だよなー! 冗談がキツいわ」

 俺も笑って返した。


「まったく、うちの隊長がすいません……」

 隣でシンシア副隊長がため息まじりに頭を下げてくる。


 ……が、ただ一人。

 スーシー副隊長だけは、顎に手を当て、じっと何かを考えていた。


「……実際、近衛の一部がエリオット皇子派に入れ替わっているという報告もありますからね。

 意図的かどうかはさておき――偶然とは思えません」


 ——え、マジで?


 さらにとどめを刺すように、うちの猫ちゃんが一言。


「だから〜、ほんとは『魔特退』が来る予定だったんだニャ」


 お菓子をポイッと口に放り込みながら、「なるほどニャ〜」と能天気に言い放つ。


 『なるほどニャ〜』じゃねぇよ! 納得してる場合か!!


 ああもう、ラスクは黙っててくれぇぇぇ!!


 ……これ以上、めんどくさい話に巻き込まれるの、マジ勘弁っ!!


 はぁーーーーー。


「隊長。ため息つくと、カルアに怒られるニャ?」


 ビクッとしてカルアを見ると、案の定。

 眉間にしわを寄せたまま、こちらを睨んでいた。


 ご、ごめん!!!

 だって猫がまた、変なフラグ立てるからっ!!!



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