043【カルアside】ジェフリー・ド・モンフォール。
【カルアside @ 避難所(式典ホール)】
ホールに戻ると、アッシュとジンクスが男ふたりを取り押さえていた。
「こいつらが、クラリスたちが出て行ったあと、ホールの扉を閉めたんです」
アッシュが冷めた口調で報告する。
でも、私の視線は男たちよりも、アッシュとジンクスの二人に釘付けになった。
「アッシュ! ジンクス! どこ行ってたのよ!」
思わず怒鳴って詰め寄ってしまう。
二人は「すいません」と小さな声で謝りながら、気まずそうに目を逸らした。
……まったく。後でたっぷり説教してやるんだから。
私は一度深呼吸して気を取り直し、男たちに向き直る。
「……なんで、扉を閉めたんですか? 開けてって、頼みましたよね!」
つい、語気が強くなってしまう。
「あんたら、軍人だろ? 俺たちを守る義務があるんじゃねーのか? 自分を守るためにドア閉めるのは当然だろ!」
ああ、もう……こんな人たちを守るために命を懸けたかと思うと、虚しくなってくる。
そんな私の肩を、ジェフリーが軽くポンポンと叩いた。
「……みんな、必死なんだよ。許してやってくれ」
それは、まさにジェフらしい一言だった。
チャラそうに見えて、実はどこか聖人みたいなところがあるのよね、この人。
「それに、彼らの言い分にも一理あるしね」
「それ! ジェフが言う!? どれだけ心配したと思ってるのよ! コールだって、みんなに責められて――!」
言っているうちに、不安と怒りと安心がぐちゃぐちゃにあふれてきて、気づけば涙がこぼれそうになっていた。
顔を伏せてごまかすけど、体の震えはどうしても止まらない。
「ごめん、カルア……それに、みんなも。迷惑かけたね」
ジェフリーは静かに、深く頭を下げた。隣のアッシュとジンクスも、それに続く。
私はそのタイミングで通信水晶をタップした。
「コール。ジェフが来たよ」
『……本当か?』
返ってきたのは、少し驚いたような――そして、疑うような声だった。
『本人なのか?』
囁くような緊張を孕んだトーン。
ホッジが慌ててサイドバッグから『おしゃべりさん3号』を取り出し、ジェフリーに手渡す。
彼は「へぇ、ちゃんと完成したんだ」と微笑みながら、装着する。
そして、軽くタップしてから口を開く。
「久しぶりだね、コール」
少し疲れてはいたけれど、穏やかな話し方。紛れもなくいつものジェフリーだ。
そして次の瞬間、通信機が壊れるかと思うような叫び声が響いた。
『お前……どこ行ってたんだよ!! 心配したんだぞ!!』
怒鳴ってる。でも、コールの声は嬉しそうで、温かかった。
「心配かけて悪かった。こっちにも、ちょっと片付けなきゃいけないことがあってね」
『“ちょっと”で済ませていいレベルじゃねーだろ。というか、お前、声が変だぞ。寝てないのか?』
「まあ……寝てないね。正直、気力だけで喋ってる。だから優しくしてくれると助かるな」
『やっぱぶん殴りてぇ……くそ、手が届かないのが残念だわ』
周囲からクスッと笑いが漏れる。みんな、きっと同じことを思ってる。
——やっと、いつものコール隊だ。この、感じ。
『……無事でよかったよ、本当』
「うん。そっちも無事で安心した」
穏やかな空気が流れる。私は、通信の向こうで微笑んでいるコールの顔を想像した。
『アッシュとジンクスもいるのか?』
「うん、大丈夫。一緒だよ」
答えると、通信機越しにフンと鼻で笑う音。
……もう、ほんと嬉しそう。
『ところで……言うことあるよな。きっちり説明してもらうからな』
「わかってるよ」
ジェフリーは肩をすくめ、大きく息を吸った。
「……結果的に、隊のみんなを巻き込んでしまって、本当に申し訳ないと思ってる」
その声に、嘘はなかった。
そして、語り始める。
「……王都の飲み屋で、顔なじみのウェイトレスに頼まれたんだ。行方不明の父親を探してくれって」
コールが小さく呻く声が通信機越しに漏れる。
「調べてみたら、その父親はイクリプスの実験体にされてた。証拠も見つけた。で、そこに関わってたのが……一部の貴族と、魔特退だった」
場が静まり返る。
ジェフリーの声が少し苦くなる。
「だから、俺は単独で工場を潰した。報告は……しなかった。みんなに迷惑をかけたくなかったし、特に……」
『特に?』
ジェフリーは、少し黙ってから、ため息混じりに言った。
「だってさ、コールがこのこと知ったら……魔特隊に殴り込みかけそうじゃん?」
『ば、バカヤローッ! 俺はそんなに熱血じゃねーし、単純でもねー! これでもちゃんと隊長として考えて動いてんだぞ!』
「わーわーごめんごめん! 怒鳴らないで! 通信機、鼓膜やられるって!」
ジェフの軽口に、コールが盛大にため息をつく。
「……でも、本当にごめん。みんなを巻き込んだこと、後悔してる」
さっきよりも、ずっと真摯な声だった。
「で、コール隊としては、どうするつもりだい?」
ジェフリーが問う。その声は、どこか試すようで、楽しげでもあった。
ルクス、クラリス、トビー、ホッジ、アッシュ、ジンクス――全員が息をのむ。
そして、コールが静かに言葉を紡ぐ。
『……まずは、この混乱を終わらせる。俺たちは軍人だ。戦うことで守る。それは、国民であり――仲間だ。そして、この国のみんなが笑って生きられる未来だ』
一拍の静寂。そして、どこか照れたような、でも誇らしげな笑い声が漏れる。
『なあ、知ってたか? 俺たち、最近“最後に残された希望の灯”って呼ばれてるらしいぜ。残党、あらため――残灯。俺たちは、最後の灯りなんだ』
そして、声に熱が宿る。
『犠牲が増えるのを、黙って見てる気はない。なら、やるべきことはひとつだ。全力で立て直して――全員を救う。そして、生かして帰す!』
その言葉に、誰かが息をのむ音がした。
そして――
『その後――、魔特隊への殴り込みだ!!見てろちょびひげ野郎!!』
瞬間、通信機越し全員が固まる。そして呆れ気味の一言。
「「「……結局やるんだ……」」」
そして、
『熱血バカニャ』ラスクがぽつりと呟く。
『聞こえてんぞ、コノヤロー!』
ゴンッ。
ラスクの頭にげんこつが落ちる音が、“おしゃべりさん3号”越しに響いた。
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