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突撃!コール隊 〜推しがウザイ!なら世界を変えるまでだ  作者: 鷹雄アキル


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030【カルアside】ほんと、面倒……


【カルアside@トリオ市街】


 ライエス公子の“加護”が『エクリプス』によるものであること。

 さらに、ルーデリック公爵とその側近たちが、『エクリプス』を持ち込んだ男と関わりを持っている可能性。

 加えて、公爵たちがその男に“操られている”かもしれないこと。


 ……昨日のコールの報告は、衝撃の連続だった。


 これは、加護の存在が政治の軸となっている貴族社会そのものを揺るがす大事件になる。

 正直、荷が重すぎる。


「なんか、面倒なことばっかりだなぁ……」


 つい漏れた愚痴に、隣を歩くルクスがニヤッと笑った。


「やっぱ面倒ですよね」

 

「……聞こえてた?」


 「ばっちり。カルアさんが愚痴るなんて珍しいです」

 

 ルクスがくすりと笑った。


「いや、だって。スケールが大きすぎでしょ、こんなの。コール隊で対処できる話じゃないわよ」

 

「ですねー。こういうのは魔特隊の領分ですし」


 ……なんかカチンときた。


「ねえルクス、魔特隊びいき強すぎない?」


「だって魔特隊ですよ? 若き英雄エリオット王子率いる王都のエリート中のエリート部隊。片や私たちは、残りもの寄せ集め部隊…フフッ」


 ウザッ。


「はいはい。あなたもその“残りもの”の一人だからね?」 

 

「わたしは、魔特隊にスカウトされた実績があります!」


「そーですかそーですか。とにかく、巡回続けるよ!」


 開港祭の警備で、私たちA班はトリオ港周辺の居住区を担当している。

 朝早くから地図を片手に、細かい路地まで歩き回って確認するのが今日の仕事。


 巡回ルートの割り振りは昨日、ゴッチ司令官とオリビア隊長が済ませていた。

 例の『303倉庫』は私たちの担当区域外。領都軍の管轄だ。


 だから、堂々と立ち入ることはできない。


「……はぁ」


 思わず溜息が出る。

 普段、コールの溜息をたしなめる立場の私がこれじゃあ、示しがつかない。


「とりあえず担当地域をひと通り回ったら、303倉庫の様子だけ見に行きましょ。ルクス、付き合ってくれる?」

 

「了解です。でも、何か出ると思いますか?」


「出るというか……なんか、イヤな予感がしてる」


「面倒ですね……」


 今度はルクスが溜息をついた。


 ——あっ、移っちゃった。マズいな、これ。


 私は地図に目を落とし、指先で303倉庫の位置をなぞった。自然と眉間にシワが寄る。

 そんなとき、おしゃべりさん3号から、別地区を巡回していたトビーの通信が入った。

 

『カルアさん! 港の巡回終わりましたよー!』

 

「何か変わったことあった?」


『めっちゃ荷物が運び込まれてました!』


「中身は見た?」


『監査官がチェックしてましたー! 俺も確認した方がいいですか?』


 ルクスがこちらをちらっと見て、様子をうかがう。


「カルアさん、気になります?」

 


「そりゃ気になるわよ。でもあそこ、領都軍の管轄だし、私たちが手出しできる範囲じゃないの」


「でも監査官が見てるなら安心じゃないですか?」


「……そうだといいけど」


 コールも言っていた。“帝国”の影がある以上、監査官すら信用できなくなる。

 もし内通者がいたら? 

 

 ‥‥‥考えたくもない。

 

 だけど、私たちには権限も人手もない。

 下手に首を突っ込めば、逆にこちらが警戒される。


「今は放っておきましょう。合流は居住区の市場で」


『了解っすー!』

 

 ——ほんと、面倒……。責任が重すぎない?


 ライエス殿下の件は、コール隊にとって過去最大の案件になる。

 私たちで対処できる範囲を、完全に超えてる。


 私は、盛大に溜息をついた。


▽▽▽

 

 コール隊の副隊長になって、もう三年が経つ。


 本来、私は軍人になる気なんてなかった。

 エリオット皇太子の婚約者候補として、王妃教育に追われる毎日だったから。


 すべてが変わったのは——『ヘルハウンド王城襲来事件』。


 その混乱の中で、私が忌避される“サングイン・スピリット”の加護を持つことが露見し、婚約は破棄された。

 

 行き場を失った私を、父が軍へ引き入れた。

 「軍隊で新たな居場所を見つけろ」と言わんばかりに、ほとんど強引に。


 そして、再会したのが——あの事件で私を助けてくれた男、コールだった。


 ——思えば、最初から彼は“変わった人”だった。

 

 命令系統を平然と無視する。

 だけど判断は的確で、なぜか致命的な局面ではギリギリで生き延びる。


 まるで未来が見えてるみたいに。


 戦闘力の評価は妙に低いけど、一緒に戦った人はみんな彼の実力を疑わない。

 むしろ、信奉してる者すらいる。

 

 ……まあ、私もその一人なのかな。


 軍では“取り扱い注意”の厄介者として扱われ、誰も彼を部下に欲しがらなかった。

 でも、戦績だけは異常に良くて。だから遊撃部隊が新設され、コールが隊長に。

 クセ者ばかりが集まり、自然と“今のコール隊”ができあがった。


 それから、いろんな面倒事を解決してきた。


 ——でも。

 今回ばかりは、格が違う。


 貴族社会を支える“加護”という信仰そのものが揺らぐかもしれない。

 国家の秩序すら崩れかねない事案だ。

 

 そんな案件を、私たちみたいな“寄せ集めの部隊”が相手にできるはずがない。


 地図を見下ろしたまま、私は盛大に息を吐いた。


「はぁぁぁぁーーーーーーーーーー」

 


「『カルアさん……すっげー溜息』」




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