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突撃!コール隊 〜推しがウザイ!なら世界を変えるまでだ  作者: 鷹雄アキル


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210/243

210 繋ぐ黒雷


 手に握った剣が、ビリビリと黒い火花を散らす。

 刀身は、どこまでも深い黒——まるで夜そのものを封じ込めたような深さだった。


 ──禍々しいにもほどがあるな......。


『違うよ!』


 頭の中で、少女の声が弾けるように響いた。


『いいことも、悪いことも。楽しいことも、悲しいことも。ぜーんぶ混ぜこぜになるとね、黒になるの!』


──混ぜこぜ、ねぇ……わかったような、わからんような。


『未来って、そういうことなんだよ』


 未来、か。

 それを“黒”って言えるあたり、この子の感性は……いや、ズレてるなんてもんじゃない。


「お先真っ暗って言葉、知ってるか?」


『しらなーい!』


 『しらなーい!』


 即答。

 なんかちょっとムカつくが……まあいい。今は目の前の化け物だ。


 右に悪鬼、左に真っ赤なドレスの夫人。

 二体が三角形を作るように、じりじりと俺を囲んでいた。


 剣を構え、息を吸う。


「行くぞ、ツナグ!」


『うんっ! おじちゃん!』


「おじちゃんはやめて! コール!」


『わかった! コール!』


 その瞬間、体内の魔力が暴れだした。

 黒い稲妻が腕を伝い、剣へと奔る。

 視界が白く弾け、世界がスローモーションになった。


 ——オーバークロック、発動。


 風を裂き、俺は悪鬼の死角へと滑り込む。

 剣を振り下ろした瞬間、稲妻の残光が軌跡を描く。

 黒と白が交錯し、空間がミシリと軋む音を立てた。


『いっけぇぇぇぇ! 繋雷けいらいッ!!』


 ツナグの声と同時に、黒と白の稲妻が空を割る。

 まるで闇が雷に変わり、未来そのものを切り裂いたように——。


「……てか、今のネーミング、ちょっとキメすぎじゃない?」


『いいでしょー! ツナグの“つなぐ”と雷をまぜこぜにしたの!』


「お前、なんかウザ……!」


『ヒドッ!』


 軽口を交わしつつ、俺は二撃目を叩き込んだ。

 悪鬼の肉を削ぐように、剣を深々と突き立てる。


「ギャァアアアアアッ!!」


 耳をつんざく悲鳴。

 だが、それは断末魔ではなかった。


 削れた肉片が、光の粒へと変わっていく。

 無数の、幼い手。

 泣き声。笑い声。


 小さな魂たちが、悪鬼の肉から剥がれ落ち、淡い光をまとって舞い上がっていく。

 夜空に散る蛍のように、彼らはふわりと浮かび上がった。

 その一つひとつが、かつてこの場所で生き、泣き、笑っていた子どもたちの残響だった。


『……あれ……子どもたちだ』


 ツナグの声が、かすかに震えた。

 その震えは、風に揺れる小枝みたいに頼りなく——けれど、どこか優しかった。


 光の粒が触れるたび、腕に柔らかな温もりが伝わる。

 小さな指が、ありがとうとでも言うように、俺の手を撫でていった。


 ある光は頬に触れ、くすぐるように笑い声を残す。

 ある光は、ツナグの声に導かれながら、くるくると螺旋を描いて昇っていく。


 やがて、その光たちは羽根のような形を描きながら、夜空へと溶けていった。

 その一瞬だけ、この地獄のような場所が——まるで神聖な聖堂のように見えた。


『やっと……帰れたんだね』


 ツナグの呟きに、胸が詰まる。

 声の奥に滲む涙が、痛いほど伝わってきた。


『大丈夫。もう怖くないよ……』


 その声は、まるで子どもをあやす母親のようだった。

 やさしくて、少し泣きそうで——けれど、ちゃんと強かった。


『……行っておいで』


 彼女は小さく呟いた。

 確かに、はっきりと。

 まるで、誰よりも“未来”を信じているような声で。


 一方、悪鬼は消えていく光の粒を掴み取ろうと、のたうちながら手を伸ばした。


「させないさ!」


 すかさず、ジェフの剣が閃く。

 悪鬼の腕が肘のあたりからスッパリと切り落とされた。


「剣が通った!」


 俺が叫ぶと、「まーね」とジェフがニッと笑う。


「その精霊ちゃんが言ってることがわかれば簡単さ。“未来を繋ぐ”ってことは、こいつらが囚えてる“因果”を断つってことだろ?」


 ジェフの剣が、白い光を帯びる。


「だから俺は過去を断つ。お前は未来を繋ぐ。役割分担だ!」


『さすがおにーちゃん! 冴えてる〜!』


 ──おい! ジェフと俺は同い年だぞ!!


「なんで俺がおじちゃんで、ジェフがおにーちゃんなんだよ!」


『まあまあ、怒らない!』とツナグ。


「大人げないなー」とジェフが肩をすくめた。


「——ッたく!」


 トビーの風の障壁の向こうから、エリカの怒号が飛んできた。


「野郎二人して何やってんのよ! とっとと殺せ!」


「エリカさん。奴らはもう幽霊っスよ……殺すも何も……」


「うるさい! 子どもたちの未来を奪った奴らをギッタンギッタンにしろ! お前ら、ぼさーっとすんな!」


 エリカの勢いに押し切られた。


 ──すっかり母親だな。……いや、言葉選べや。


「ほらコール! 鬼嫁のほうも来るよ!」


 悪鬼の断末魔が響く。

 振り返ると、真っ赤なドレスの夫人が滑るように迫っていた。

 俺は剣を構え直す。


「ツナグ、もう一度、“繋げ”!」

『わかった!』


 黒雷を纏う剣を振りかざし、突進してくる夫人の霊へと突き刺した。


 ──手ごたえ、あり!


 そのまま横薙ぎに一閃。

 再び、切り分かれた肉片から光の粒が舞い上がる。


 眩い光の奔流が、夜気を押しのけるように広がっていく。


 俺は奥歯を噛みしめた。

 数えきれない。数えたくもない。


 だが——この一つひとつが、確かに“未来を喰われた命”だった。



 ──絶対に、許さない。



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