010 模擬戦—3/4 ギャラリー席
【魔特隊side @ギャラリー席】
模擬戦を見に来た魔特隊のメンバーは、向かいで騒ぐコール隊を見て呆れていた。
「噂には聞いてましたが……ここまでとは。王国軍の一部とは到底思えないクズ集団ですね」
「自分の隊長が出てる場で、よくもまあ、あんなバカ騒ぎができるもんだ」
「所詮、雑用専門のクズ小隊ですからね」
「副長のカルア様とジェフリー様を除けば、ほとんどが平民らしいですよ」
「所詮、平民に大義を求めるのは無理ってことですか」
「このままいけば、コール隊は解散でしょうが……自分たちの立場、分かってるんですかね?」
「さあ……分かってないから、あんな様子なんでしょう」
彼らは肩をすくめ、失笑を漏らす。
「それにしても、ジギル副隊もお人が悪い。よりによって、一対一の模擬戦とは」
「前に身の程知らずの隊員が挑んで、病院送りになりましたよね」
「確かホッブス隊の副隊長も一瞬でやられて、そのまま軍を辞めたとか」
「それにしても、ダムド軍隊長殿までご一緒とは……」
「ボイド隊長とカール隊長もいますね」
「ボイドという男は下品な人物です。貴族の自覚が足りません」
「やはり、我々が正しき道を示さねばなりませんね」
その会話に、エリオット魔特隊隊長は眉をひそめ、振り返った。
「君たち、言葉が過ぎますよ」
隊員たちを見回しながら言う。
「我々は同じ王国軍の仲間です。次の作戦では共に戦うのです。根拠のない中傷は慎みなさい」
一瞬、場が静まる。
「……作戦を見直すための模擬戦と聞きましたが?」
隊員の一人が尋ねた。
「そうだ。だが、それはコール隊長の指揮に問題があると判断された場合の話だ」
「まさか隊長は、ジギル副隊が負けるとでも?」
「……そればかりは分かりませんね」
エリオットはそう言いながら、ジギルと対峙するコールをじっと見つめた。
▽▽▽
【コール隊side @ギャラリー席】
「黙って見ていていいのですか?」
カール隊長が隣のダムド軍隊長に尋ねた。
「何のことだ?」
「コールが負けたら、厄介なことになりそうですが」
ダムドは何も答えず、無言でコップを傾ける。
代わりに、近くにいたカルアが口を挟んだ。
「隊長は負けませんよ。ああ見えて、結構やるんですから」
「ですです。見た目はアレっすけど、意外と頼りになるんすよ!」
トビーがコップを掲げ、「隊長がんばってー!」と軽く声援を送る。
「意外とねぇ……」
カールはコール隊の面々を見回した。
誰一人として、隊長の敗北を疑っていない。
すると、シンシアが真剣な顔で口を開いた。
「カール隊長、お話よろしいですか」
「なんだ?」
「コール隊の作戦完遂率は92%。これは全隊の平均を4%上回ります」
「ほう」
「ですが、もっと注目すべきは損亡率です。たった5%。しかも、その5%の内訳は一時的な負傷者のみ。脱落者はゼロです。コール隊の人数を考えれば、これは異例の好成績と言えます」
シンシアは自信たっぷりに言い切った。
「あいつなー、やることなすことセコいんだよなー」
ボイドが笑うと、シンシアがムッとして反論する。
「損亡率の低さを『セコい』で片付けないでください! 我々も見習うべきです、隊長!」
「なるほど、コール隊が優秀なのは分かったが、実際の戦闘力はどうだ?」
カールが問い返す。
「それに関しては、今日の模擬戦で実力がはっきりするでしょう」
シンシアが冷静に分析を続ける。
ボイドは軽く笑い、「まあ、コールも手の内を見せるしかないだろうな」と肩をすくめた。
「相手は、あの三元加護使いのジギル副隊だ。エリオット王子がいるから副隊のままだが、本来なら隊長でもおかしくない。その実力を考えれば、今の隊長たちの中で勝てる者が何人いるか……」
カールがコップを揺らしながらつぶやく。
ボイドがニヤリと笑った。
「カールは、コールが戦うところを見たことがないのか?」
「ない。合同訓練の時だけだな。剣技は……悪くはなかったが、特筆するほどでもなかったな。ボイドは見たことがあるのか?」
「まあな、学生時代からの腐れ縁だからな」
「あいつの契約精霊はエレクトリック・スピリットだったか? 聞いたことのない精霊だな」
「そうだな。奴はケチだから、めったに手の内を見せん」
「ボイドは知っているのか?」
「新人ちゃん絡みだと、なぜかムキになるんだよな、コールは」
ボイドが大笑いする。
その視線を追い、カールもルクスを見やる。
「闇の精霊、ノクス・スピリットの加護か……」
二人の隊長にじっと見つめられ、ルクスは落ち着かない様子で目を伏せた。
「まあ、いずれにせよ見ていればわかるさ」
ボイドがにやりと口元をゆがめて言い、最後にボソッとつぶやいた。
「……しびれるぜ」
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