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 こんにちは。私、今日死んじゃいました。

 え? 何を呑気に自己紹介してるの、ですか?

 だって今朝いきなり幽霊になっちゃったんですもの、心の準備とやらがまだなんです。

 だから、少しだけ昔語りをさせてくださいな。


 私ね、これでも長いこと人妻だったんです。

 旦那様はね、ロマンスグレーって言うのかな、けっこう素敵な人でした。うんと年上でしたけれど、嫌いじゃなかったですよ。

 でもね、私は二人目の奥さんで、旦那様は亡くなった最初の奥様を心から愛していらしたの。前の奥様との間には、私より年上の息子もいたわ。

 だから私が妻としてできることなんて、大してなかったの。

 それはね、旦那様には妻として丁重に扱っていただいたわ。でも彼との間にあったのは、愛ではなくて、戦友同士みたいな友情。

 なんでそんなダメ物件の嫁になったのか、ですって?

 ありきたりなお返事しか返せなくてごめんなさい。政略結婚よ。

 旦那様、家の内向きのことを切り盛りする女主人がいなくて、困ってらしたんですって。

 息子は成人していたけれど、放蕩者っていうのかしら、遊び足りないみたいで、あちらのお嬢さま、こちらのお姉さま、とふらふらふらふら。これは落ち着くまで当分かかるなーって見切った親族のうるさ方が一致団結して、後妻を娶れと詰め寄ったらしいの。

 旦那様のお家は新興の男爵家だったから、貴族としての地位はあまり高くないけれど、領地は豊かで事業も色々と手広くやっていたから、とってもお忙しくてね。だけど社交や慈善事業もそれなりにやらないといけないから、やむを得ないとしぶしぶ同意したの。

 それで選ばれたのが私ね。

 由緒正しい貧乏侯爵家の娘で、貴族としての教養も家政の知識もある。でも、社交界に出て四度目の秋が来ても、嫁ぎ先が見つからなかった可哀想な子。

 お父さまとお母さまからいただいた体に文句を言いたくはないけれど、私、とことん地味なのよね。華がないというか、影が薄いというか。

 夜会に出て、一生懸命会話に加わっても、お隣の方に足を踏まれてから、「おや、気づかなかったよ。いたんだね」なんて言われるのはしょっちゅう。お廊下でぼーっとしていたら、お化けと間違われて悲鳴を上げられたこともあるわ。

 それでも何とかご縁を見つけようと、お父さまも頑張ってくださって、色々と縁談も申し込んだのよ。でもね、いかんせん我が家がこさえた借金が大きすぎてね……。

 他に取り柄もメリットもない娘は、そうして見事に売れ残って、お買得品として新興の男爵家の後妻にお買い上げされた、ってわけですよ。

 それで、「あー、介護要員確定」と腹をくくっていたのに、いつの間にか肺病になって、旦那様より先にあっさり死んじゃったの。

 そういえば私、あんまり体が丈夫じゃなかったのよね。

 だから子供もできなかったのでしょうけど、それはそれでよかったと思うわ。子どもが生まれたら可愛いだろうなあ、って思わなくもなかったけれど、その子が原因でお家騒動なんてなったら誰も幸せにならないし。

 それにねーーーー

 ああ、私もうだめかも、って思った時にね、旦那様は私の手を握りしめて泣いてくださって。私のために涙を流してくれる人に見守られて永眠できるのなら、そう悪くない人生だったなって思えたの。

 子どもがいたら私、きっとあんなに安らかに眠れなかったでしょうね……。


読んでいただきありがとうございます。

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