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第捌拾話 第二次アメリカ内戦

 ──西暦二〇〇二年一二月一一日──


 平らに均されたコロンボ軍港に帰投した日米連合艦隊。船体の修理も出来ないまま沖合にて放置され、ただただ毎日送られてくるインド政府からの電報を読み上げる毎日だった。


 毎日、毎日、毎日、毎日。


 何人死んだ。何が壊れた。復旧の目途は無い。インフラは崩壊。


 いつも来る電報の内容は、そのようなものばかりであった。


 みんな、悲報には慣れていた。だが──。


「なに? ニューデリーで自爆テロだと??」

『ニューデリーだけではありません。東京、シドニー、バンクーバー、ワシントンD.C、サンディエゴで同様の自爆テロ攻撃が発生したとの報告が......』

「なんだ......なんだというんだ......こうも大変な時に、なぜ............」


 ──同年一二月一二日──


 自爆テロ攻撃により、主要各国の首都が打撃を受けた後日。アルカイダは全世界に向けて声明文を出した。


 声明の中には、CIAが極秘で行っていた対中東工作のことについても言及されていた。それも、証拠付きで。


 だが、イヴァンナはCIAが何らかの形で中東に関与していたことこそ察すれど、その実態までは知りえていなかった。ニードトゥノウが絶対とされる諜報機関では、当たり前と言えば当たり前のこと。


 それでも、アルカイダによる全世界同時テロ攻撃後にイヴァンナに課せられた任務は、本部がイヴァンナの現状を理解しているとは到底思えないものでった。


「ルカの抹殺指令......どうしろと??」


 現在、イヴァンナはセルゲイと共にウラジオストクへと拠点を移している。ルカはインド洋方面へと派遣されており、まずもって物理的に不可能。


 支離滅裂も良い所だ。


「......直筆、サインも本物......か。正式な指令ではあるようだが......」


 有事の際に派遣させるという契約を取り付けておいて抹殺指令を出す。なんとまぁ辻褄の合わないことか。


 もはやこんな状況、素人でも分かる。


「なるほど......本部で何かあったな」


 <<>>


 ──CIA本部 ジョージ・ブッシュ情報センター──


 世界中の情報が集まるCIAの本部。戦闘とは無縁の静かな場所。


 だが今は違う。そこかしこから黒煙が上がり、絶え間なく銃声と砲爆撃の轟音が轟いている。


「ちくしょう、ちくしょう......なんなんだよアイツら!!」


 残弾が何発かも分からない小銃を渡され、扱い方もロクに知らないのに迎撃しろと言われた。


 CIAの職員はあくまでも非戦闘員であるが、最低限。本当に必要最低限の訓練は受けており、銃の扱いなら分からなくもない。しかし、本当に実戦が起こる事態など想定していない。


 それに敵はただのゲリラなんかではない。機関銃と野砲と装甲車で武装している。練度もそれなり。銃をほんのちょっと触った程度のずぶの素人が勝てるわけがない。


『戦闘中の全職員に伝達!! 破棄できる資料は全て破棄し撤退せよ!! 当情報センターは放棄する!! 繰り返す!!』

「館内アナウンス......く、くそ!! こんなところに居られるかよ......!!」


 待ちに待った撤退命令。マッチに火を点け、そこらに散乱している資料に放り込む。火の手は少しづつ紙の資料を蝕むも、火勢は弱く資料を焼き切るには足りそうにない。


 だが、扉の先からは多数の足音と銃声が迫ってきている。命と使命を天秤にかけ、命を選び別の扉へと逃げ込んだ。


 とはいえ仕方ないだろう。ガソリンの一つも無いのだから、これ以上出来ることはない。そう自分に言い聞かせ、生き残りの職員と合流。敵の包囲を強行突破してきた米海兵隊員と共に脱出していった。


 <<>>


 ──ワシントンD.C ホワイトハウス、大統領執務室──


「大統領閣下!! テロ攻撃です!!」

「ええい、そんなもの知っている!! それ以上の情報は無いのか?!」

「は、はっ!! テロ攻撃の実行犯はアルカイダを名乗っております!! また、テロ攻撃と同時のタイミングでCIAのジョージ・ブッシュ情報センターが襲撃を受けたと報告が!!」

「CIAだと?? なぜCIAが襲撃されている!!」

「現在情報が錯綜しており、詳細は──」


 連絡員が鞄に詰め込まれた書類を取り出そうとしたところで再び執務室のドアが荒々しく開け放たれる。


「大統領閣下ァ!!」

「今度はなにかね?!」


 連絡員の鞄を見やり、国防長官は即座に連絡員を突き飛ばす。


 同時に大統領にタックルするかの如く飛びつき、大統領を庇いつつ執務室から退避させようとする。


「どうした?! いきなり何なんだ?!」

「爆破予告です!! ホワイトハウスに爆弾がッ!!」


 刹那。執務室は爆炎に包まれる。


 連絡員の鞄に仕込まれた高性能炸薬が炸裂。鉄片と釘が四方八方へと飛び散り、爆風と共に執務室を廃墟へと塗り替える。


「ぐっ......クソ......あッ!! 大統領!! 閣下、ご無事ですか!!」


 耳鳴りも落ち着いたところで、国防長官が起き上がる。背中が酷く痛む。いくつか破片を喰らったようだった。


 だが、国防長官の目の前には頭から血を流し、意識を失った大統領が倒れ込んでいた。呼び掛けても反応は無い。


「このッ......内線電話もやられたか......」


 大方の情報から、ある程度の見通しは立つ。冷戦期、水面下の競争に勝つためにと急速に拡大を続けたCIAは、少しばかり野心が目立ちすぎる者も人手不足から組織に入れていた。


 有り体に言えば、タカ派。もっと言えば過激派といったところ。


 彼らはアメリカの利益追求のためには糸目をつけず、時には国際法ギリギリどころか無視してまでドス黒い陰謀を企て実行してきた。


 冷戦終結時のCIAの縮小で一掃されたと思っていたが、人に化けるのが上手な化け物が未だ紛れていたらしい。中東を米国の傀儡と仕立て上げるべく裏で手を引いていたようだ。


 そして、それが今バレた。


 アルカイダのテロ攻撃。CIA過激派の中東工作露呈。大統領暗殺。


 合衆国政府の国民からの信頼は勿論のこと、国際社会におけるリーダーとしての地位も同様に失うだろう。


 核兵器の濫用により立場を失ったロシアと、形は違えど同様に。


 <<>>


 ──西暦二〇〇二年一二月一九日──


 アメリカ各地で発生したデモ行進は、時が経つに連れて大規模な暴動へと発展。市街は暴力に溢れ、道を塞ぐ暴徒に車列は足を止め、数十キロにも渋滞が都市部で多発する。


 放火、破壊活動、殴り合い、殺し合い、強盗に泥棒。ありとあらゆる犯罪が、ロクに取り締まられることも無く溢れている。


 CIAが全世界同時テロ攻撃の遠因となったことは合衆国国民の連邦政府に対する信頼を失墜させ、大統領が即座に事の弁明を行えなかったのも拍車を掛けていった。


 一六日にはテキサスが連邦政府からの離脱を宣言。


 一七日にはアイダホ、モンタナ州が後に続き連邦政府から離脱。


 一八日にはアラバマ州も離脱した。


 合衆国政府は軍隊を動員しての武力鎮圧を試みるも、軍は政府の意向に従うことなく失敗。暴徒は複数の武装組織の支援を受け勢力を拡大させ、次第に一部の州政府を占拠し始めた。


 ──西暦二〇〇二年一二月二〇日──


 州政府を乗っ取った武装組織、地下組織は連邦からの離脱を宣言した諸州に宣戦布告。各々が新たなる国家の成立と独立を宣言していき、連邦政府は事態の収拾が完全に不可能となった。


 ──西暦二〇〇二年一二月二〇日──


二〇世紀最大の悲劇はなんだ、と言われれば恐らく誰もが異生物群(グレートワン)との戦争が始まったことであると答えるだろう。


そして、この悲劇の尺度はきっとそれ以降何が起こったとしても常に最大のものであり、より大きな悲劇など起こらないだろうと皆信じていた。


ジリジリと迫る人類の絶滅という最悪からは目を背け続け、ただいま目の前にあるリアルを感じ、皆このリアルは終わることが無いという妄執に取りつかれていた。


それは必要なことだった。皆、終わりが迫る世界を悟りたくは無かったのだ。だから見ないふりをした。


目に見える現実だけを信じて、好きなように言葉を紡ぎ、好きなことを信じた。信じたいことを信じ、信じられないものには蓋をした。


だからきっと、これは必然だったのだ。


もはや交渉は不可能。彼らは武器を持ち、己が思想を実現するための狂信を持っている。


今日から君は思想の戦士である。思想の為に全てを捨てろ。まずは関係ない他人から。職場の上司。遠い友達。何度もBBQを囲んだ親友。彼女。彼氏。子供。


思想が違うなら、彼らが君の思想にノーを突き付けるのであれば、それが親兄弟であれ、君の持つ心の銃火で焼き尽くしてやれ。


その狂信で。


そのARで。


その肉体で。


共に起とう。さぁ、もう一度──。




──兄弟戦争を。

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