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第漆拾捌話 戦闘終了。RTB

「例の民間人は?」


 野戦指揮所からは離れた野戦病院。基本的に将校は訪れない場所であるからか、セルゲイが顔を見せただけでテント内の空気が張り詰める。


 そんな中でも、長年軍医を勤めた老兵にとっては将校程度で物怖じすることはない。


「特に外傷も無く、簡単な検査でも内部に異常は見られませんでした。子供ですし、できれば大きめの病院で詳しく検査したいものですが......」

「今はどこも震災の対応で手一杯だろう。それに、現状そう簡単に移送も出来ないからな」


 コンスタンツァの港が異生物群(グレートワン)の襲撃で奪われてからというもの、物資の補給や傷病者の移送は輸送ヘリ頼みだ。


 ある程度対異生物群(グレートワン)ドクトリンが確立してきたとはいえ、完璧ではない。誤射もあれば、撃墜されることも多い。


「ところで、なぜ子供だと判断した?」

「え? いえ、外見から......少なくとも大人には見せなかったので......」

「なるほど。また何かあったら報告してくれ。些細なことでもなんでもだ」

「了解しました」


 保護した民間人、もとい子供はやはり怪しい。戦域からは離れていたとはいえ、何一つとして外傷が無いというのは不自然極まる。


 前線部隊の報告にしても、保護当時は全身ずぶ濡れだったと聞いている。


「トルコの方から漂流でもしてきたのか?? にしても怪我がないのはやっぱりなぁ......」


 一抹の不安を感じながらも、今は余裕が無いと頭を振って指揮所へと戻る。


「戦況はどうだ?」

「ボチボチ、と言ったところです。コンスタンツァ港自体は目の前ですが、敵の防衛も厚く......突破にはまだ時間が掛かるかと」

「そう急げるものでもないか......海軍の援護も期待出来ない、となると......」


 タイミングよく帰投してきたノルトフォークの方に目を向ける。


 もう少しばかり、彼女たちには無理を強いることになるかもしれない。そんな罪悪感だか、結局頼り切りの現状を憂いてかついため息が零れてしまう。


「あら、人の顔を見てため息とは。良い御身分ですわね」


 米軍支給の戦闘糧食をつまみつつ、セルゲイをジッと見返してくる。今日の戦闘はいつにも増して激しかったからか、一層身長が縮んでいる。


 一個小隊分の戦闘糧食だけで足りるだろうか。


「いや、そういうあれじゃなくてだな......現状だと、まだコンスタンツァ港の確保には時間が掛かるが、トルコ本国も余裕が無い。あまりここで手間取るわけにはいかなくてだな......」

「ふーん。ま、貴方の言い分は理解致しましたわ......ところで、野戦病院はあちらに?」

「そうだが......負傷でもしたのか?」

「いえ、保護されたという民間人について。少々心当たりがあるかもしれませんから」

「......迷惑はかけるなよ」

「私のことをなんだと思ってますの?? そうむやみやたらに迷惑なんてかかりませんわ。ま、状況次第だとは思いますけれど」


 中々に不穏な言葉を漏らしつつ、ノルトフォークは指揮所から去っていった。全くもって、ノルトフォークは嵐のようなやつだと常々思う。


「帰投した」

「戻ったか、ジャガーノート。飯はもう済ませたのか?」

「問題ない」

「そうか」


 ノルトフォークに比べ、サーリヤは扱いやすい。命令には従順、大食感でもなければ燃費も良い。


 破壊力の高さ故、地上部隊との連携に関しては難があるものの、一方面を丸々任せられるのはサーリヤくらいのものだ。


「......ジャガーノートは、件の民間人に関して何か見覚えか何かあるのか?」

「民間人?」

「聞いてないのか?」

「知らない」

「ブラフマーが心当たりがあるようだったが......一緒に見に行ってみたらどうだ? 何か思い当たることがあるかもしれんからな」

「......了解」


 サーリヤが一緒であればノルトフォークも暴れたりしないだろう。そういう意味でもサーリヤは便利であり、そしてノルトフォークは自我が強すぎて扱いづらい。


「全く......ブラフマーももう少しお淑やかにしてほしいんだがな......どうにかならんもんかねぇ。なぁ、お前もそう思うだろ?」

「え......え? あ、はぁ......」


 試しに指揮所の通信員に話を振ってみたが、何やら気の抜けた返事だ。確かに進撃は順調で、新たな対異生物群(グレートワン)ドクトリンたる殲滅前進戦術も効果てきめん。


 何より指揮官が緊張感も少なく談話している。あまり今の事態を深刻とは思っていなさそうだ。


「............俺も飯にするか......少し指揮所を外す。何かあったらインカムに頼むぞ」

「あ、はっ! 了解しました!!」


 <<>>


 ──コモロ諸島沖、北東海域──


 シーサーペントが身体を上下にくねらせ、海原を落雷と荒波で攪拌(かくはん)する最中。日米のイージス艦はシーサーペントの身体をFCSで照らし続ける。


 亡霊艦隊の駆逐艦らを盾に縦深を組み、爆雷と対空砲弾の水平射撃で牽制。シーサーペントを誘導し、抑え込み、アスロックと大口径砲弾の終端誘導を待ち受ける。


 大戦期型の寄せ集めの亡霊艦隊。その中でも特に古い駆逐艦は一隻、二隻と荒波に呑まれ破断。落雷を受け火災が発生し撃沈が繰り返される。


 旧式駆逐艦の損失数が一〇隻を越えた頃。イージス艦のFCSに誘導されたアスロックが到着。弾頭を分離し、パラシュートを開く間もなく着弾。


 砲弾の運動エネルギーを有した魚雷は、超音速にてシーサーペントに命中。通常の水柱とは異なり、推進方向に向かって大きく水飛沫と波浪が押し出される。


 間髪入れずに砲弾と魚雷とが猛進。シーサーペントの身体を裁断し、巨大な肉片が打ち上げられていく。


「ソナーに動き見られず。落雷も無し......シーサーペント、撃破確実」

「よくやった!! ではブッチャーズと合流し、その後は北上。一度コロンボ軍港に帰投するとしよう」

「コロンボ軍港、ですか......」

「不安は分かる。アンツィラナナ港があの様子だったんだ。コロンボ軍港とて被害状況は似たようなだろうが......かといって他にどこかあるというわけでもない。今は一度戻って状況をしっかりと把握することが重要だ」


 クラーケンの影も無く、異生物群(グレートワン)が居るような気配も無い。嵐の中心地から離れれば離れるほど、海原は穏やかで、風もそよ風程度にしか吹いていない。


 まるで、アンツィラナナ港の惨劇が嘘だったかのような嫌な静けさだ。


「インドの海軍本部とはまだ連絡が付かないのかね?」

「はい、未だ応答がありません。オープン回線に切り替えて通信を試みてはいるのですが、他も反応が無く......」

「想定よりも事態は悪い可能性があるということか......ネヴィル君。悪いが、もう少し力を貸してくれるか?」

「無論、問題はありません」


 ネヴィルの快諾を受け、ヘリの発艦準備を開始。


 その様子を見て、ネヴィルの特性を知ってか知らずか。武蔵は一つの提案を打診する。


"こちら武蔵。我々は暫く周辺海域の警戒に当たろうと思います。大和以下、日米の連合艦隊は先に帰投されてはいかがでしょうか?"

「我々は構わんが......君達は大丈夫なのかね? いくら無機物の身体と言えど、人格があるのであれば疲労なども溜まるだろう」

"いえ、我々の心配はご無用です。人格があるとはいえ、兵器は兵器。あなた方とは勝手が違いますゆえ"

「そうか......分かった。警戒は任せるよ」


 武蔵率いる亡霊艦隊が艦隊より離脱。四方に分散して散らばっていくのが見える。


"何か分かることがありましたら連絡させていただきます。それでは、また"

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