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冒涜戦線 ~冒涜されし神々と人類の最終聖戦~  作者: オジロワシ
第四章 忘レ去ラレシ者達ノ慟哭
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第陸拾玖話 浮上

 日米連合艦隊と亡霊艦隊が死闘を繰り広げる最中。戦闘海域の深海にて、ヒュドラは機を伺っていた。


"生き残りの飛雷母種(アーセナルセタス)航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)を積めたのは良いが......"

"氷床も亡霊共が叩き割ってしまった。これでは揚陸隊が切り込めないぞ"

"氷床を張り直すまで、敵が大人しくしているとも限らない"


 決して捉えられぬ念話は秘密ごとを話すのには非常に都合が良い。いつ如何なる場合においても作戦が漏れることもなく、盗聴の心配をして符号を作る必要も無い。


 水深数百、数千メートルを優に越す深海では、如何なる海上海中からの攻撃も届かない。故に一種の安全地帯であるが、その水深により生み出される莫大な水圧には流石のヒュドラも耐え難いものがあった。


 グツグツと、頑丈な身体が音も無く歪み始めているのだ。表層のコーティング、装甲化された鱗も、巨体を重力影響下で支える頑丈な骨も、水圧という全周囲攻撃からは逃れられない。


 胴体に空いた風穴も、深海域での活動に大きな制限を掛けている。


"そろそろ浮上だ。身体も持たぬし、頃合いだろう"

"了解した。ゼロスリー、警戒を怠るなよ"

"無論。バレては奇襲の意味が無い"


 前足を持ち上げ、ゆっくりと踏み下ろす。前足が地面に着く前には後ろ足を上げ、地面ではなく水圧で押し固められた水そのものを蹴り上げ、緩やかに身体を上へ上へと持ち上げていく。


 数十分掛けて上昇していくうちに、大小様々な鉄の塊が降ってくるのが見えた。


 形も分からぬほどに破損した鉄塊。細切れと化した何かの部品や鉄片。糸くずと化したケーブル、血肉のへばりついたガラス片。そして極め付けは遠くからでも分かるへし折れた船体。


 恐らくは水上で発生した戦闘の残骸だろう。種類を見る限り、戦闘状況は均衡。亡霊艦隊がやや不利と言ったところか。


"おい、アレはなんだ"

"......どうやら、あのルカとかいう眷属も撃墜されたようだな"

"トドメを刺すべきであろう"


 屑鉄の雨に紛れ、人の形をした影が一つ。この水深では、人間などは到底その形を保持出来ない。となれば、それが何であるかは考えるまでも無い。


"幸いにもやつもまだ再生途中......"

"ぶち破られた腸の恨み、ここで晴らしてくれる!!"


 ゼロツーが口腔に冷気を溜め、漏れ出た冷気により周囲の海水も凍結し始める。


"海水が邪魔だな......もっと近付かねば"

"奴が目覚めたらどうする? 至近距離から反撃を喰らうのはごめん被るが"

"なに、この水深と水圧では如何に頑丈と言えど満足には動けまい。ましてや半神半人(デミゴット)。誠の神でもない"


 自身と慢心に溢れた言葉とは裏腹に、足取りはより遅く、六つの瞳は揺ぎ無くルカの四肢に向けられている。


 指先一つ、髪の毛の揺らぎも見逃さない臨戦態勢である。


"無駄に頑丈な奴だ。この私が、止めを刺してやろう"


 直後、動かないままのルカに向けて鋭利な氷のブレスが放たれた。


 <<>>


 ハンターキラーより放たれたトマホークは長らく飛翔したのち、現在交戦中の日米艦隊及び亡霊艦隊へと迫る。


 暗号電文を受け取った米艦隊はイージス艦に対し火器管制装置の全力照射を指示。飛翔するトマホークをレーダーが捉えると共に、トマホークはセミアクティブレーダーホーミングへと移行。


 亡霊艦隊の各戦艦、巡洋艦に向けて突入。幾ばくかのトマホークは水流ジェットと友軍の対空砲火による事故的誤射により撃墜されたものの、物量によりこれを突破。亡霊艦隊に命中した。


 包囲していた巡洋艦は黒煙に包まれ、爆炎が夜空を朱く照らす。


 水流ジェットによる迎撃が鳴りを潜め、一部の米戦艦の砲撃が敵戦艦に命中し始める。


「トマホーク、敵巡洋艦及び戦艦に命中。炎上しています」

「損害の詳細は分かるかね?」

「は、敵巡洋艦六隻、戦艦二隻が炎上中。巡洋艦二隻は損傷が著しく、撃沈の見込みです」

「よし、上出来だ......だが、攻撃機が厄介だな」


 現状、まだ猶予はある。しかしながら、低空飛行を織り交ぜて接近する敵機の撃墜は容易ではない。下手に水平射撃を行えば、同士討ちしてしまう可能性もある。対空ミサイルでは近すぎる。


 主砲は仮に機能を維持していたとしても、肝心のサーモバリックは安全射程圏外だ。


 大和のダメージモニターに目をやれば、船体前部は真く点灯しており、一部は真っ黒。ドッグ入りレベルの損傷度合いだ。応急修理も出来ない。


「仕方ない、最終手段だ。大和に当てても構わん、敵機を撃墜するよう各艦に伝達してくれ」

「......了解」


 CICより大和艦内に向け、最小限の人員を残しての第二甲板からの退避が命令される。


 対空砲程度であれば仮にも大和の側舷、甲板装甲が貫かれるようなことはない。だが、現状艦前部は多少なりとも融解し固まっているだけであり、元の装甲と変わらぬ防御力を発揮するかどうかは分からない。


 とはいえ、多少の損害であれば元より壊れてしまったのだから問題は無い。戦艦一隻を失うよりも、ドックでの修理期間が長引く方が何倍もマシだろう。


 指示を受け、これまで控えめであった各艦の対空砲と両用砲が大和に集中。容赦ない水平射撃の雨に晒され、五〇機も居た攻撃機隊は壊滅。


 四機が早々に離脱を試みるも、艦隊はこれを徹底的に追撃、撃墜。各艦に誤射が発生したものの、大和の装甲を共有しているために致命的な被害となることはなかった。


「被害報告を」

「右舷上甲板にて火災発生、現在鎮火作業中。また、後部レーダーマストが損傷。復旧作業中です」

「やはりレーダーがやられたか......」


 長距離索敵用のレーダーは全損してしまったが、大和のどてっ腹に穴が空くような事態は免れたと言えよう。


 敵の攻撃はトマホークが命中してからというもの鳴りを潜めている。今なら殴り放題だが、どうもそう上手いこと行くわけではないらしい。


 海中より急速に浮上してくる何かを、ソナーが捉えたのだ。


「今度は水中か......!! 対潜戦闘、行けるか!!」

「ダメです!! 浮上速度が速すぎます!!」

「クソッ、次から次へと......!!」


 少なくとも潜水艦ではない。潜水艦では、こんなにも素早い浮上は不可能だ。


 敵艦隊も浮上する何かを捉えたのか、急速に回頭。隊列を乱し散開していく。その間にも戦艦と巡洋艦、駆逐艦らによる砲撃は止むことなく、敵艦隊からの反撃は未だに無い。


 海面に気泡が立ち始めた。ぶくぶくと次第に大きく、激しく気泡が湧いて出ている。


 どうやら、米戦艦は反撃してこない敵艦隊よりも浮上してくる何かに備えているようで、砲撃を一時中断。巡洋艦までも沈黙し、狙いを定めているようだ。


「後部両用砲は使えるかね?」

「使用可能です」

「両用砲の照準を気泡が出ている場所に合わせてくれ。何が出てくるかは分からないが、モノによっては出だしに叩き込む」

「了解」


 さぁ、出てくるなら出てこい。準備は出来ている。

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