第陸拾捌話 燃え上がる夜空
「レーダー、スタンダードミサイルを確認」
「了解。ネームレス01より全機、レーダー波照射用意。散開し合図を待て。スイーパー隊は足止めだ」
『『『ラジャー』』』
ドッグファイトに興じていたYF-35各機は一個飛行隊に敵機の相手を任せ、一斉に反転。各飛行隊ごとに、決められた方向へと離脱していく。
『ッチ、こいつ!! しつこいぞ!!』
離脱を試みるバスター隊の後方を、La-5が追撃を開始。二〇ミリの機関砲を贅沢に撃ち続け、YF-35の後部銃座も意に介していない。
「ネームレス01よりスイーパー01。スイーパー隊から二機引き抜いてバスター隊の援護に回せ。La-5、ユンカース、メッサーを同じ空域に封じ込めろ」
『スイーパー01了解。スイーパー08、10。La-5をバスター隊から引き剥がせ』
『『ウィルコ』』
二機のYF-35がLa-5に接近するも、La-5は気にする素振りを見せずバスター隊の追撃を続けている。もちろん、YF-35からの機銃掃射なども容易く回避しながらである。
『これは厳しいな......仕方ない。危ない橋を渡るぞ』
YF-35は無駄弾を吐くだけの機銃掃射を止め、更に距離を詰めていく。
七〇〇、五〇〇、三〇〇。La-5のネジ穴が見えそうなほどまで接近、更に距離を詰めていく。そして敵機との距離一〇〇を切ろうかというタイミングでアフターバーナーを点火し、急加速。
La-5も流石に無視出来なくなったか、空中衝突寸前で急旋回。La-5はバスター隊の追撃を中止し、追手のスイーパー隊の背後に回ろうとする。
『釣れた!! このまま引き付けるぞ!!』
二機のYF-35は互いにLa-5を挟み込むように機動。敵機に逃げる隙を与えぬよう、後部銃座も惜しみなく撃ち放し逃げ道を塞いでいく。
「スイーパー08、10、よくやった!! あともう少しだけ耐えてくれ!!」
『言われなくても!!』
「ネームレス01より全機、レーダー照射開始。間違えても味方に向けるなよ!!」
散開した各機より、敵機に対しレーダー照射が開始される。見えない光が大戦期特有のゴツゴツとした発動機、銃身、ガンポッドを捉え、レーダーの輝点は激しく光る。
明滅し動き回る明るい一点に向け、五発のスタンダードミサイルが突進。ミサイルのシーカーはせわしなく動き続け、YF-35のレーダーが照射される先を睨み続けている。
「......ネームレス01よりスイーパー各機、散開!!」
スタンダードミサイルがネームレス01の隣を過ぎ去ると、敵機の陽動を行っていたスイーパー隊は踵を返していく。
計画発足当初、次世代多用途ステルス機として開発が始まったYF-35は、戦争の最中で魔改造を施されたとはいえ、そのステルス性能は健在だ。
加えて、敵機はステルス性という概念すら無かったレシプロ機体。周囲のYF-35からのレーダー照射を受け、セミアクティブレーダーホーミングで誘導されたスタンダードミサイルは標的を間違うことはない。
スタンダードミサイルの接近に気付いた敵機が回避を試みるも、行動の遅れたLa-5が被弾。木っ端微塵に弾け飛んだ。
ユンカースとメッサーは反転急降下。海面へとほぼ直角で降下していくも、二発のスタンダードミサイルに追われたユンカースは銃座の奮闘虚しく撃墜。千の破片に千切れ、その破片に反応して二発目が炸裂。ユンカースはもはや破片すら残らず海面に没した。
残る二発のスタンダードミサイルは唯一生き残っているメッサーを猛追。しかし、海面のレーダー反射にメッサーのレーダー反射が埋没し、一発が標的をロスト。回避機動を取るメッサーの隣をすり抜けていった。
「魔王は墜ちたが......流石はギネス級のエースってとこか。中々耐えやがるな......」
とはいえ、猶予は数秒も無い。最初の一発はロストしたが、三七機の戦闘機による全集中のレーダー照射だ。もうロストすることは無いだろう。
思考を巡らせ切る間もなく、超音速のスタンダードミサイルがメッサーに迫る。
命中までもう三秒も無いと言うタイミングで、メッサーは左に旋回。大きく背面をミサイルに向けると、即座に右に舵を切り進路を変更していく。
スタンダードミサイルは至極短時間かつ急激な方向転換により過修正を引き起こし、メッサーの軸線上より外れて近接信管が作動。
結果としてメッサーは直撃を受けず、構造破壊を免れた。しかしながら、近距離での炸裂により主翼、胴体など複数個所が被弾。
十数秒飛行を保っていたものの、致命的な量の破片を浴びた左主翼が負荷に耐えられず破断。メッサーは破断の勢いで姿勢を崩し、海面へと不時着水してしまう。
エンジンからは煙を吐いており、プロペラも完全に止まっている。撃墜確実、と言って良いだろう。
「これで全機撃墜......ったく、手間のかかる奴らだったな」
海中に沈んでいくメッサーを眺めつつ、帰路につこうと機体を捻る。念のため、捜索レーダーを確認。目視も含めて周囲を見渡していると、水平線の彼方で何かが煌めいた。
「ん? 今のは......」
目を凝らし、星々とは違った煌めきを放つ無数の何か。快晴の夜空の下、月光を反射し、淡く輪郭が浮き上がる。
「ッ!! ネームレス01よりマザー01、敵の第二次攻撃隊と思しき敵機編隊を視認!! 数は少なくとも一〇〇以上!! 送れ!!」
『なんだと?! クソッ、こっちはそれどころではないというのに............だが、仕方ない......マザー01よりネームレス01、我が艦隊は現在交戦中である!! 帰投は許可出来ない!! ギリギリまで踏ん張ってくれ!! 武運を祈る!!』
「なっ?! おい待て!! おい!! ......あの野郎、勝手に切りやがった!!」
激情に駆られ振り上げた拳をなんとか堪え、そっと操縦桿を握り直す。幸い、燃料弾薬共にまだ余裕はある。
だが、あの大群の最中にたかだか数十機で飛び込むというのは、流石に自殺行為だ。
「ネームレス01より全機、聞いていたな......俺達はあのモスキート・ギャングを足止めしなきゃならんらしい......」
帰路へと向けた機首をゆっくり、ゆっくりと傾けていく。回頭の足取りは重く、されど着いてこない者は居ない。
「全機、連携を密に取れ!! ネームレス02と03は俺に付いてこい。それ以外はツーマンセルを崩すな!!」
『『『ウィルコ』』』
敵機編隊と正面から相対し、距離はみるみる縮まっていく。レーダーが敵機を捕捉し、光学ディスプレイには見越し射撃点が映し出される。
敵機編隊との距離が三キロを切ろうかという頃合い。敵編隊の後方より、目を焼くほどの輝きを放つ何かが迫っていた。その輝きはいぶし銀の機体を明るく照らし出し、慌てて散開する敵機をまざまざと見せてくれる。
次いで、幾ばくかの曳光弾が飛び交い、太陽が現れたかのような爆発が巻き起こった。
「くァっ?! 目がっ!!」
突然の閃光に、咄嗟に目を瞑る。姿こそ見えなかったが、爆発の特徴からして正体は推察出来る。
「航空猟兵種か!! ってことはまさか......」
機体を傾け地上を見下ろすと、海中から巨大な鯨──飛雷母種が泥色の瞳を向けていた。
「ネームレス01より全機!! 飛雷母種だ!! 自己誘導飛雷に気を付けろ!!」
飛雷母種の背面に生え揃う突起に注意を払い、発射時の噴煙を見逃さんとするも、飛雷母種の背面突起より射出されたのは輝きを放つプラズマ光球を抱えた航空猟兵種の群れであった。
「おいおい嘘だろ!! ネームレス01より全機、先に航空猟兵種を狩るぞ!!」
飛雷母種から放たれた航空猟兵種にとって、YF-35も旧式の亡霊達も等しく敵である。
レシプロの亡霊達は二手に分かれ、片方は航空猟兵種に向けて降下。もう一方はそのまま直進、混乱に乗じてネームレス以下飛行隊を撃ち落とさんと迫る。
未だ、試練は続く。




