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冒涜戦線 ~冒涜されし神々と人類の最終聖戦~  作者: kulzeyk
第四章 忘レ去ラレシ者達ノ慟哭
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第陸拾肆話 マダガスカル島沖波高し

"フーファイターより接敵の報告。撃墜確実六機、離脱四機とのことです" 

「ふ~ん。流石はルノレクスの眷属ってところかなぁ......今は交戦中?」

"はい。現在、敵航空隊と交戦中。足止めを行っています"

「そ、従順なら文句はないかなぁ~。武蔵も、このくらい従順だとやりやすいんだけど......?」


 レヴィアタンの瞳がギラリと輝く。コツ、コツと軍靴の踵で鋼鉄の床を叩き、武蔵は罰でも悪そうに黙り込む。


「ま、別にいいけどねぇ......攻撃機隊の損害はどう?」

"は......機動艦隊からの報告によると、撃墜約六〇、被弾二〇程度とのこと。攻撃は十分に続行可能です"

「ならよーし。攻撃機隊はそのまま前進ね~」

"了解"


 発進させた攻撃隊はもう間もなく敵艦隊と接触するだろう。魚雷と爆弾と無誘導ロケット弾だけの古臭い攻撃隊だが、それが六〇〇機も群れを成せば如何に現代艦艇といえど迎撃能力は飽和する。


 加えて先立って発艦した六〇〇機の攻撃機隊も、第一波に過ぎない。第一波の攻撃開始を確認し次第、総勢四〇〇機の第二攻撃機隊が。その第二攻撃機隊が攻撃を開始すれば、続いて四〇〇機の第三攻撃機隊が進発する手筈となっている。


 総勢一四〇〇機の波状攻撃だ。加えて敵艦隊の位置を鑑みるに、氷床に足を囚われ動けないのは明白。第一波で粗方殲滅、第二波で根こそぎ狩り尽くし、第三波では完全なる残敵掃討となるだろう。


「やっぱり物量って正義よねぇ~。バリアでもない限り、この波状攻撃をどうこうなんて出来ない。絶対に、ね」


 オマケにこれだけの航空機を繰り出しても、艦隊直掩として三〇〇機残せるほどの余裕もある。


 ヒュドラも今は動けない。


 そして、海はレヴィアタンの独壇場。


「......慢心するな、とでも言いたげねぇ。武蔵」

"............苦い経験がありますので"

「ま~ぁ? 確かに、警戒に越したことはないけどー......逆にここまで完璧な状況で何を警戒するの?」

"潜水艦です。潜水艦であれば、氷床に覆われた海でも潜航して活動できます"

「でも現代の潜水艦探知出来た試し無いんでしょ? なら警戒しても無駄じゃないの?」

"備え自体は必要であると具申します"


 武蔵の言うことも一理ある。分からないからと言って何もしないのと、分からないが想定される攻撃に対して備えるとでは全くもって意味が異なる。


「分かった......備えは、しておこうか」


 <<>>


 ── 一一月二二日 二〇時五一分 ──


「全艦対空戦闘用意!! 主砲サーモバリック、方位3-0-1、距離二八〇〇〇、高度二〇〇〇から五〇〇〇に広域制圧射撃!!」


 敵航空隊との距離が三〇キロに迫り、現代型戦艦の主砲が旋回を始める。


 主砲にはサーモバリック弾が装填され、各艦がシステムリンクにより指定された座標へと砲身を向ける。


 指定された座標はSR-71からの敵航空隊位置情報と速度、進行方向から導き出された予想進出地点。FCSやイージスシステムと連動していない以上、命中は期待できない。


「ネームレス以下航空隊に通達、艦隊相対距離三〇キロでサーモバリック弾による広域制圧射撃を実施する」

「了解。ネームレス以下航空隊に通達、艦隊相対距離三〇キロでサーモバリック弾による広域制圧射撃を実施する。ネームレス以下航空隊は当該空域への侵入を禁止する。繰り返す──」


 ネームレス航空隊は現在敵のエース級と交戦している。故に戦艦のサーモバリック弾に巻き込まれることは無いだろう。とはいえ、伝えませんでしたで何かあってはならない。彼らの耳がこの雑音を捉えようが捉えまいが、形式的には必要だ。


「......レーダーはまだ捕捉出来ないのかね?」

「はっ、まだイージスシステムに反応ありません」

「まだ対空ミサイルは使えない、か......」


 中距離以上の対空ミサイルが使用出来れば、ネヴィルによるサーモバリック弾とのリンクで数百機の攻撃機が相手でも十分迎撃が可能であろう。しかし、現実はなんとも厳しいものだ。


 現代艦艇はレーダーに頼り切りだ。こうしてレーダーを実質的に無効化されてから、改めて実感する。


 これまで通りレーダーによる捕捉開始距離が一〇キロ程度ならば、近距離艦対空ミサイルがまだ機能する。されど、ミサイルはピンポイント打撃に特化している。それに一発撃ち切りで、飽和攻撃に対しては効果的ではない。


 だが、米海軍の新造された防空巡洋艦はミサイルを一切廃して、三インチ連装速射砲に五インチ速射砲などの艦砲システム。極め付けはCIWSではなくエリコンの二〇ミリ機関砲を所狭しと積み込んだ対異生物群(グレートワン)特化仕様。


 八〇年代の局地制圧型戦艦を近代化改修した現代型戦艦と違い、純粋な対異生物群(グレートワン)用の大型防空巡洋艦。イージスシステムとリンクした時の艦隊防空性能は折り紙付きだ。


「米戦艦、モンタナ、アリゾナⅡ、アラスカ、ダコタ、リバティとの調整終了。射撃開始の合図は大和に一任するとのことです」

「よし......時間が無いな。大和より全戦艦に通達。対空広域制圧射撃、一斉撃ち方」

「大和より全アメリカ戦艦に通達。対空広域制圧射撃、一斉撃ち方」

「全艦、うちーかーた始め!!」


 通信員は高野大佐の指示をそっくりそのまま米全戦艦に通達。大和が射撃を開始し、コンマ数秒ほどタイミングを逸らし米戦艦の一六インチ砲が一斉に轟音と爆炎を吹き散らす。


 六隻もの現代型戦艦。四六サンチ六門と、一六インチ三〇門の一斉射撃は圧巻の極み。一斉射撃の轟音と衝撃波に、脆い氷床にはバキッと大きくヒビが入る。戦艦の舷側に張り付いていた氷は見事に砕け散り、戦艦の周囲には弾け飛んだ氷の破片が降り注ぐ。


 放たれたサーモバリック弾は空を切り裂いて目標の空域へと到達。緻密に調整された時限信管が作動し、可燃性粒子と酸素が混合。一瞬にして空中に巨大な火の玉が複数発生し、一定範囲の空域を数多の熱球が包み込む。


「成果は?」

「......レーダーで捕捉出来ず、撃墜の成否は不明です」

「そうか......SR-71も燃料の問題で帰投済み......仕方あるまい。第二射の用意だ」

「了解。再計算を──」

「不要だ。方位そのまま、距離一〇〇〇〇、高度二〇〇〇から四〇〇〇に絞ってサーモバリックを置く」

「了解。大和より全アメリカ戦艦に通達──」


 通信員が命令を復唱し始めた直後。周辺の氷床が爆発。氷の破片を空高く巻き上げ、微粒子化した氷が僅かに靄を発生させる。


 更に三度、四度と連続して同規模の爆発が発生。日米艦隊は一瞬混乱に包まれるも、直後各艦のレーダーが識別不明の艦影を捕捉。即座に爆発の正体が判明する。


「レーダーに感!! 方位3-5-2、距離三二〇〇〇に艦影多数!!」

「戦艦か......!! なぜそこに接近するまで捕捉出来なかった......?!」

「分かりません!! 突然現れたとしか──っ?! 方位1-7-8、2-3-8、0-9-2にも艦影!! 包囲されています!!」

「なんだと?! どこから回って......いや、いまは対処だ!! 主砲、徹甲榴弾!! 対艦撃ち方!! 各艦は独自に目標を設定しろ!!」


 レーダーが捕捉している敵艦の位置情報、速力、進行方向に基づきFCSが諸元を入力。各砲塔がFCSと連動して敵艦を追尾し、薬室には弾薬庫の奥で埃を被っていた徹甲榴弾が装填される。


 砲塔旋回が速く、FCSとの調整の時間も少ない速射砲や両用砲は既に射撃を開始。外縁のイージス艦や駆逐艦は榴弾を装填し、敵艦に対して牽制射撃を実施している。


 その間も敵の砲弾は日米の戦艦、巡洋艦と大型の艦艇に集中。無数の砲撃が吹き荒れ氷床が木っ端みじんに砕けていくが、命中弾どころか至近弾すら無い始末だ。


 この辺りは流石に大戦期の艦艇と言った所。夜間で曇り一つ無い良好視界と言えど、大戦期の古臭い光学測距と初期のレーダーでは命中率など五パーセントも無いだろう。


「敵艦の識別は出来るか?!」

「いえ、目視で確認しないことには困難かと......しかし、艦種の識別であれば、レーダーの反射断面積からある程度の推察は可能です。確実性は低いですが......」

「よし、なら戦艦級の大型艦を優先して砲撃しろ!! ルカ軍曹も呼び戻させろ!! 至急だ!!」

「了解!!」


 轟音と怒号が響き渡り、艦隊は戦闘の熱気に包まれる。


 西暦二〇〇二年、一一月二二日。二〇時五七分。コモロ諸島沖海戦の火蓋が切って落とされた。

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