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冒涜戦線 ~冒涜されし神々と人類の最終聖戦~  作者: kulzeyk
第四章 忘レ去ラレシ者達ノ慟哭
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第陸拾壱話 南進

 ── 一一月二二日 一八時五○分 日米艦隊より西方四○○キロ ──


『マザー01よりネームレス各機、間もなく接敵だ』

「ネームレス01了解」


 日も沈み切り、暗闇が支配する夜の海。海とは言えど、眼下に広がるのは水平線の先まで続く氷の大地だ。


 コックピットの計器類が淡い光を放ち、空は満天の星空。アフリカ東岸数百キロ、街の光も、工場が吐き出すスモッグも無い。


 皮肉にも、人間の介在する余地の無い自然というのは目を奪われるほどに美しいようだ。


「......ネームレス01より各機、白リン弾用意」


 静かな夜空の下、ターボファンエンジンの高音が鳴り響いている。レーダーが撃ち漏らした幾つかの小群体を捉え、無誘導ロケット用の照準レティクルが表示される。


 這いつくばるような匍匐飛行から、機首を上げて低空飛行へと移る。レーダーの輝点は密度を増し、匍匐飛行高度で捉えきれなかった群体の全容を映し出す。


 そして、高度を上げれば敵の姿も目視出来るようになる。


「ネームレス01より各機。喜べ、航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)の姿は見えない」


 航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)の体表は深い青色で、夜空の下では溶け消えるかのような高い迷彩効果を発揮する。


 しかし、琥珀色に輝く六つの眼までは隠せない。そして、この場において琥珀色の煌めきは無い。見えるのは先行掃討種のオーロラ色の煌めきだけだ。


 高度を上げて探索範囲の広がったレーダーに、今見えている以上の群体らしき反応は無い。


「各機、高度制限解除。急上昇から緩降下で絨毯攻撃だ」

『『『ウィルコ』』』


 アフターバーナー全開。エンジンノズルが大口を開けて火炎を吐き出し、機体を更に空へと押し上げる。


 月明かりだけが照らす氷の大地に、オーロラ色の奔流はいい景色と言えよう。


「お前らが人類に敵対的でなきゃ、博物館か動物園にでも展示されてたんだろうな......」


 <<>>


『マザー01よりボールドイーグル。報告された敵群体は殲滅した。そちらの状況はどうか。送れ』

「こちらボールドイーグル、こっちも大方片付きました......送れ」

『マザー01了解。第二波、第三波と立て続けだったが、よく持ち堪えてくれた。感謝のついでに一つ朗報がある。ストラト・アイからの報告によると、敵群体は進路を北東に転換。日米艦隊に向かう針路から逸れ、件の亡霊艦隊に向けて針路を取ったとのことだ。これで次の総攻撃まで十分な時間的猶予が生まれた。故に、ボールドイーグル。一時帰投を許可する。送れ』

「............ボールドイーグル、了解。終わり」


 帰投命令。どれほど待ちわびたか、見当もつかない。文字通り無限に湧いて出てくる敵の掃討殲滅で、軍服はボロボロ。早く替えの軍服に着替えたい。


 辺りは一面強酸性の水溜まりばかりで、科学的に溶けた氷の霧と異生物群(グレートワン)の死の霧が混じり合い、視界が酷く悪い。おまけに迂闊に歩こうものなら溶けた氷に足を取られ転倒、強酸性の水溜まりの中にドボンだ。


 それにしても、あれだけの群体を殲滅しても尚余りが大量に居るとはにわかに信じがたい。というより、信じたく無い。苦労に苦労を幾重に重ねても、敵の群体は未だその莫大な勢力を維持している。


「......無線機、置いて帰ったら怒られるかな......」


 日米艦隊との距離五〇〇キロは伊達の距離じゃない。この無線機が無ければ、疑似的にこの地点は陸の孤島と化す。故に全力で死守した甲斐もあって、無線機は無事。


 しかし、超長距離を安定して通信するための無線機は非常に重い。設営にも時間が掛った上に、今からこれを回収してまた背負うのは精神疲労が酷い。何より、ボロボロの軍服では無線機の重さが直に素肌を喰らう。重さで肩が千切れるのは勘弁被る。


「いやでもな......はぁ、もうしょうがない。少しの辛抱だ......」


 なに、艦隊までは数飛びだとルカは自身を宥め、ため息をつきながら無線機を回収。今にも足を滑らせそうな氷床に気を付けながら、五〇〇キロ彼方の艦隊へと跳び立った。


 <<>>


「もぉ~そろそろ諦めなよ~!! 幾ら私の力に制限無いからってさぁ、流石にそろそろめんどくさいんだけど~??」


 ヒュドラの挑発に耐え、時にのらりくらりと受け流し躱すこと数時間。もはやレヴィアタンにとってヒュドラは眼中に収まっていなかった。


 身体はヒュドラに向けられ、無数の水流ジェットが絶え間なく再生中のヒュドラの首に撃ち付けられている。だが、レヴィアタンの顔は後ろで統制を取り戻しつつある亡霊艦隊に向いている。


 言葉を発するにしても、もはや物言わぬ肉塊と成り果て続けているヒュドラに目を合わせることも無い。


"こちら武蔵。第二七駆逐隊、再編制終わりました。艦隊行動に支障ありません"

「よーし、そのまま続けてねぇ~......この調子なら、もう一、二時間あればすぅっかり元通りだよ~?? どうするのー?」


 レヴィアタンは久々にヒュドラに顔を向けて言葉を投げかける。しかし、今のヒュドラは首が無ければ顔も無い。顔が無ければ無論、言葉を発する為の口も無い。故に物言わぬ肉塊同然。


「っにしても折れないな~。もう諦めちゃったけどさぁ、散々チャーム掛けて効果無しって信じらんないなぁ~。どういうからくりなわけぇ??」


 レヴィアタンも、最初の小一時間は適度な攻撃に留め、会話を交わしながらチャームを掛け続けていた。ヒュドラの琥珀色の瞳を睨み付け、言葉にはチャームの念を乗せ続けた。だというのに、一向に効果が見られないのだから諦めてしまったのだ。


 そうして、頭が三つもあって非常に口(うるさ)いヒュドラに嫌気が刺し、黙らせるために水流ジェットを無限に撃ち続けているというわけである。


「......はっ、喋れないよねぇ~。はーいい気味いい気味ぃ~」


 レヴィアタンはグッと背筋を伸ばし、欠伸も盛大にやって見せる。


「さて、そろそろ止めを刺すべきかなぁ~? ん~?」


 止め、とはいえどうしたものかとレヴィアタンは笑みを浮かべたまま考えを巡らせる。ヒュドラは過去の戦いでレヴィアタンに身体を喰われたなどとほざいて挑発していたが、レヴィアタンとしては過去ヒュドラと戦った時の記憶は曖昧だ。


 内容はそれなりに覚えていたが、レヴィアタン自身がどのようにしてヒュドラの身体を喰ったか。ということに関しての記憶がずっぽり抜け落ちている。


「ま、いっか!!」


 しかし、それらの問題はレヴィアタンにとってはどうでもよいことだ。


 ヒュドラが生き物としての形態を維持している以上、魂を支える器たる肉体には物理的に限界がある。頭は例外だが、身体を粉微塵にしてしまえば動けまい。


「いくらヒュドラが不死身っていっても、深海に沈められたら何も出来ないと思うんだけどなぁ~? どう思う~?」


 誰に問うでもない問いに答える者は居ない。だがレヴィアタンはパッと閃いた自身の作戦に自信があるようで、満面の笑みを浮かべている。


 暫しの静寂が過ぎた後、レヴィアタンはパチっと指を鳴らす。


 指パッチンを合図に、ヒュドラの足元の海水が裂けていく。海原から数キロ先の海底まで、恐ろしく深い水の谷が形成される。無論、この間もヒュドラの頭を消し飛ばす手間は惜しまない。


 とうとうヒュドラの身体の大半が海水から離れ、浮力を失った身体は自重に従い海底へと──奈落の奥底へと落ちていく。


「武蔵~、沈没した艦っているー?」

"......巡洋艦シカゴとインディアナポリスが航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)の自爆攻撃を至近で受け、甲板構造物が溶解。自沈処分する予定ですが............"

「ふーん......船体は無事なのー?」

"船体に浸水や断裂は今のところ確認されていませんが......まさか............"

「そ、そのまさか。ちょっとその自沈予定の二隻、曳航してきてくれない?」

"........................分かりました"


 長く、長く沈黙し、武蔵は数隻の駆逐艦に二隻の曳航を命令。レヴィアタンの傍に、甲板構造物の全てが溶解して白い煙を上げている二隻の巡洋艦が曳航される。


 レヴィアタンは片手間にヒュドラの再生妨害を行いつつ、水の刃とジェット水流で巡洋艦の船体を細かく切り分けていく。


「おっと、沈まないようにしないと......こんなとこかなぁ~? あんま小さくても意味ないよねぇーっと......」


 幾つかに切り分けた船体を持ち上げ、開けた海底に落ちて動かないヒュドラに向けて続々と船体を落としていく。


 (おもり)を全て落とし、ヒュドラの肉体が見えなくなった頃。レヴィアタンはもう一度指をパチンと鳴らして海に開けた大穴を閉じていく。


「これで暫くは大人しくなるでしょっ!! いや~解決解決ぅ~!!」


 レヴィアタンは自身の足場としていた海水を操り、武蔵の艦橋へと舞い戻ってくる。古ぼけてボロボロの艦長用の椅子に腰掛け、レヴィアタンは予定を前倒しにして、日米艦隊の排除に動き出す。


「武蔵、全艦に命令。目標、日米艦隊!!」

"............"

「復唱は??」

"了解......しました............"


 口淀む武蔵を無視して、レヴィアタンはニヤリと笑う。


「さぁて、チェックメイトといこうじゃない」

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