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冒涜戦線 ~冒涜されし神々と人類の最終聖戦~  作者: kulzeyk
第四章 忘レ去ラレシ者達ノ慟哭
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第伍拾漆話 オペレーション・シルバーバレット

"......この反応は航空機か"


 航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)以外の飛翔体の反応を感じ取り、ゼロワンの首が日米艦隊の方角に向けられる。


"捨て置いておけ、ゼロワン。揚陸隊はアフリカ大陸の総戦力の七割だ。航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)の前で制空権など取ることは不可能。ものの数十機で、これだけの戦力を殲滅することも不可能だ"

"しかしゼロスリー、奴らにはジャガーノートの眷属が付いている"

"所詮は一人だ。数の力を前にして、英雄など存在はできんさ"


 僅かな不安を抱えつつも、ゼロワンは同調。ゼロツーゼロスリーと共に、氷の下の海中へと潜航。新たな危険因子の排除に乗り出した。


"ゼロスリー、レヴィアタンの艦隊との接敵予想は?"

"想定以上に素早い。おおよそ三時間後だ"

"揚陸隊から幾らか引き抜くべきじゃないのか? 航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)ならある程度は......"

"そうだな、ゼロワン。幾らか引き抜いておこう"


 海中を遊泳しつつ、ゼロスリーは進攻中の揚陸隊に向けて連絡を飛ばす。


"こちらヒュドラ、進攻中の揚陸隊に通達。航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)一〇個群体をこちらに回せ。作戦は予定通り続行せよ"

"揚陸隊了解"


 これで軽く数十万単位の航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)がレヴィアタンの艦隊へと向けられる。


"一〇個群体とは大きく出たなゼロスリー。数は足りるのか?"

"問題ない。白リン弾の有用性が判明したのはつい最近だ。そうそう多くは準備できまい。それに、アフリカ大陸総出だからな。たかだか数十万。全滅したとて、全体の数パーセントにも足りん"

"......それもそうか"

"今はレヴィアタンに集中した方がよい。アイツが人間体に甘えている内に仕留めるのが、我々の勝ち筋だ"


 <<>>


「ネームレス01より全機、フォーメーション・アブレスト。密集陣形」

『ネームレス各機了解。フォーメーション・アブレスト。密集陣形』


 米空母より無事離陸したYF-35全機は僚機が上がるまで暫し待機。その後、艦隊上空で横一列の密集飛行陣形を取る。


「これよりオペレーション・シルバーバレットの第一段階、敵群体進攻の足止めを行う。また、艦隊前方には大型異生物、コードネーム[ヒュドラ]が展開している。ブリーフィング通り、[ヒュドラ]を避けるため迂回。敵群体側面より急襲を仕掛ける。我が隊の活躍に合衆国の未来が懸かっている。各員、死力を尽くせ」

『『『ラジャー!!』』』


 無名(ネームレス)のコールサインを与えられたYF-35編隊、第一飛行隊計一〇機。隷下にはキャリバー、バスター、スワローの臨時飛行隊三個。余りの七機は戦闘補助としてガンポッドを懸吊(けんちょう)。スイーパーのコールサインが与えられた。


 スイーパー隊を先鋒とし、ネームレス以下飛行隊が追従。低空を数十分と飛ばぬ内に、レーダーは大地を埋め尽くす無数の輝点を映し出した。


「ネームレス01より全機、目標の群体を捕捉した。高度制限解除、白リン弾投射体制に入れ!!」

『ウィルコ!!』


 スイーパー隊が機首を鋭角に上げ、急上昇。敵群体の注目を集める。


『スイーパー01よりネームレス01。敵群体の誘引に成功。このまま散開、遊撃に移る』

「ネームレス01了解。ネームレス01より各機、白リン弾用意」


 航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)の大群がスイーパー隊に釣り上げられ、低空から肉の柱が伸びる。


「おーおーこりゃまたゾロゾロと......よし。ネームレス01より全機、敵の誘引に成功。白リン弾、全弾撃て!!」


 YF-35各機のハードポイントに懸吊(けんちょう)されたポッド式ロケットランチャーより総勢数百発以上の白リン炸薬の無誘導弾が射出。


 ロケット弾の白煙が海上を覆い尽くし、同高度を飛翔していたYF-35のコックピットからは、まるで霧の中に入ったかのような景色であった。


「クソっ、視界が......!! ネームレス01より全機、白リン弾の射出が終わり次第高度を上げろ!! 自機の位置関係と上下の感覚を見失うな!! ここで墜ちても救助は期待できないぞ!!」


 間もなくして、燃料が尽きて滑空状態へと移行した白リン弾が炸裂。航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)の大群に呑み込まれながら炸裂した白リンは雲のように広がり、直撃を受けた航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)は焼け焦げながら墜落。被害を受けなかった後続の航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)はくるりと翻し、その場で滞空し始めた。


 レーダーを見ても、これまで(うごめ)いていた無数の輝点は白リン弾の炸裂地点で動きを止め、敵群体の進攻に釘を刺すことには成功したようだ。


 しかし、効果は限定的だ。


「ネームレス01より全機、敵群体の先鋒の足止めには成功した。迂回される前に帰投するぞ」

『ラジャー』


 白リン弾の被弾を逃れた航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)にケツを追われていたスイーパー隊も、後部銃座で航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)を撃墜。ほどなくして回頭するネームレス各機に追い付いた。


「ネームレス01よりマザー01。作戦第一段階達成、敵群体の足止めに成功した。座標を送信する」

『マザー01了解。座標を確認、これより総攻撃を行う。早急に現地点から離脱、帰投せよ』

「ネームレス01了解......ってもう尻尾撒いて逃げてるがな」


 YF-35は高速性を重視していない。故に、最高速度は時速一〇〇〇キロが精々だ。


 そして、確認されている航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)の最高飛翔速度はマッハ四。SR-71を凌ぐ高速性能を誇っている。


『スイーパー01よりネームレス01!! 敵群体から分離したと思われる航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)の群体が追撃を開始した模様!! 推定飛翔速度マッハ二!!』

「は?! 畜生っ、白リンに炙られた生き残りか!! 数は?!」

『総数は不明!! ですが、数は多くはありません!! 迎撃しますか?!』


 航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)を振り切るなど不可能。つまり、迎撃しか選択肢は無い。だが、航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)の対空対地攻撃手段というのは、自爆攻撃だ。


 戦車中隊を一撃で蒸発させ、爆風で超広範囲の航空機を羽虫のように叩き落とす。下手な迎撃では一網打尽にされるのは間違いない。


「やるしかないな......ネームレス01より全機、反転して迎撃を開始する。パターン・アルゴだ。訓練通りやるぞ!!」


 真っ先に回頭するネームレス01に追従し、全機が一斉回頭。YF-35の優秀な機動性能により、旋回に従来のジェット戦闘機ほどの時間は掛からない。


『ネームレス01よりマザー01。航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)に捕捉された。逃げ切るのは不可能であると判断、これより迎撃行動に移る』

『マザー01了解。総攻撃は五分後、着弾は一分後だ。それまでに離脱せよ』

「ネームレス01了解」


 YF-35全機がプラズマの光を抱きながら猛追する航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)と相対。即座に数十門の重機関銃による弾幕が形成された。


 これにより突出していた一群が壊滅。YF-35全機は旋回の勢いそのままに左右に散開。航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)も反応し、速度を落としつつ旋回し、追撃を始める。


「ったく、どうしてこうもこいつらはわざわざ速度を落としてきやがるんだか......ま、狙いやすくて助かるがな」


 左右に散開したYF-35は機体を僅かに下方へと傾けつつ、背中を航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)に向けて縦列に展開。各機の機銃座が真上を仰ぐ。


「ネームレス01より全機、掃射開始!!」


 YF-35の隊列が左右から航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)を取り囲んだ後、機銃座が一斉に射撃。七・六二ミリのNATO弾が濃密な弾幕を形成し、群体の約七割を自爆前に殲滅。


 最初の掃射を生き延びた航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)は即座に上昇。あるいは急降下し射線から逃れるも、急降下した個体は未だ機銃座の射程内であり、即座に撃墜された。


 だが、上昇し離脱した個体は射程外。包囲した個体を全滅させ、YF-35各機は機首を上げ追撃に移る。


「一匹も逃すな!! ここで墜とし切るぞ!!」


 YF-35のFCSは見越し射撃に特化した特注品。幾ら航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)が小型でも、一機につき四門の重機関銃を備えるYF-35から逃れることなど不可能である。


 そうして上空に逃れた航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)の群体も、僅かに数匹を残して撃ち落とされることとなった。


航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)、遁走を開始しました』

「ネームレス01より全機、よくやった。これより総攻撃が始まる。このまま帰投する」

『ラジャー』

「ネームレス01よりマザー01。これより帰投する。しかし、想定外の戦闘で迂回では燃料が持たない。最短距離で母艦に向かう」

『マザー01了解。[ヒュドラ]に注意しつつ、帰投せよ』


 燃料のメーターと睨めっこし、レーダーにも目を配り、エンジンの出力を調整しながら母艦へと直行。その間は一切の戦闘も無く、何かを見かけることも無く。無事に母艦へと帰投できた。


「よし、これでもう実戦配備は決まったようなもんだな。一応、故障が無いかどうか確認しておいてくれ」

「了解」


 整備士にそう伝え、ネームレス01のパイロットは作戦の結果を報告するため艦橋へと上がった。


「──なるほど、ということは現在[ヒュドラ]の所在は不明ということか」

「はっ。道中、氷上に戦闘痕と思われる多数の破孔が確認できましたが、[ヒュドラ]らしき姿は確認出来ませんでした。レーダーにも反応はありませんでした」

「分かった、報告ご苦労。暫くは出撃の必要も無いだろう。ゆっくり休んでくれ」


 作戦の第一段階はほぼ完璧に遂行された。空域封鎖によるミサイルの迎撃を心配する必要も無く、残すは敵陸上兵種のみ。これを総攻撃でどれだけ殲滅出来るかが、この作戦の重要なポイントである。


「艦長、座標の入力終わりました。いつでも発射可能です」

「よし......では全艦に総攻撃用意、指示を待つよう伝達しろ」

「了解。マザー01より全艦、総攻撃用意。指示を待て」


 第五艦隊司令官、ウィリアム・ハーレイは暫し考え、総攻撃の開始命令を高野大佐に一任することにした。


「高野大佐、総攻撃の開始は貴官に委ねる。貴官のタイミングで号令を」

『......了解した。第五、第七艦隊の準備は万全かね?』

「第五、第七艦隊共にいつでも発射可能だ」

『了解。では──』


 高野大佐はそっと息を呑み、号令を下す。


『──全艦、総攻撃を開始せよ』

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