表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒涜戦線 ~冒涜されし神々と人類の最終聖戦~  作者: kulzeyk
第四章 忘レ去ラレシ者達ノ慟哭
56/66

第伍拾陸話 背水の陣

 一先ずの脅威を退けた日米艦隊。しかし、依然として船体は氷塊に囚われ、身動きは不可能であった。


 氷の大地と寸断され、ほぼ湖の中の小島と化した氷塊は僅かながらも波に揺らされ。ゴン、ゴン、と幾度も対岸に衝突。その度に衝撃が反響し、不快な金切り音のような音を立てていた。


 高野大佐は鳴り響く金切り音に頭を押さえながら、僅かながらの休息を取っていた。


「しかし、ここからどうしようか......空母の航空隊はまだ厳しいかね?」

「はい。現在応急処置を施していますが、流石にあれほどの破孔となると一度港に戻って修理でもしないと厳しいと......」

「そうか......レーダー、ソナーに何か反応は?」

「現状感なし。それらしき魚影の一つもありません」

「......一応、レーダーとソナーは十分に目と耳を凝らして警戒しておいてくれ。異生物群(グレートワン)は映りが悪いからね」


 現状脅威は無い。高野大佐は以降も戦闘が続くことを予想し、隷下の各艦に対して交代で休息を取らせるよう指示を出す。


 無論、未だ第一種戦闘配置は解かれていない。レーダーもソナーもどこから現れるともしれない敵影を逃さぬよう血眼となり、副砲対空砲も僅かかもしれないこの間に給弾が行われ、船体各所の損傷部位は応急処置と修復が同時並行で行われている。


 暫しの休息の間、高野大佐の興味は米空母の甲板上に駐機されている見慣れない機影にあった。


 F/A-18などとは様相が一切異なる機体だ。胴体部はまるで太っているかのようなずんぐりむっくりとした円柱状。翼は大きく、翼面積の広さからして翼面荷重はかなり小さいだろう。


 即ち、低速高機動。機体の形状自体も亜音速レベルの高速域を想定しているようには見えず、分厚い翼からは現代戦闘機にはあるまじき重機関銃の筒が顔を覗かせている。


 そして、なにより印象的なのはコックピット後部に座する旋回銃座。まるで第二次大戦期の珍兵器だ。


「......にしても、米軍はまだ戦闘機の開発を続けていたのか。あの機体、実戦配備前の最終試験として持ってきたという話だが......肝心の空母があの有り様ではそれどころじゃないだろうに」

「確か、コードネームはライトニングⅡでしたか」

「あぁ。YF-35ライトニングⅡ。ま、我々にはこの名称しか伝達されていないから、あまり関係は無いだろうけどね」

「......しかし、現代の戦闘機に機関砲と旋回銃座とは。これまた奇抜な設計ですね」

「戦闘機を運用するなら、航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)の脅威は避けられない。数の多さゆえに従来の戦闘機では手数が足りず、小回りの効く航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)に対して現代の戦闘機では太刀打ちできない。であれば、真正面から迎撃する......アメリカらしいと言えば、らしいがね」


 だが、射撃兵器の有効射程はつまるところ有視界戦闘の間合い。いくら機動性が高くとも、余程のエースパイロットを用意できなければ意味が無い。そして、制空権の確保が物理的に不可能かつ、パイロットの人材育成に回す余裕もあまり無い。


 これまで通り、ミサイルキャリアーとしてアウトレンジからの火力投射が今大戦では丸いと高野大佐は判断していた。


「ん? 艦長、米第五艦隊より通信が」

「何か妙案でも思い付いたか、はたまた......」


 一抹の不安を抱え、高野大佐は米第五艦隊の旗艦。現在損傷中の原子力空母ジョージ・ワシントンとの回線を開く。


『こちら第五艦隊司令官ウィリアム・ハーレイ。単刀直入に言おう。現在、異生物群(グレートワン)アフリカ支配領域より、複数軍集団規模の敵影が我が艦隊に向けて進軍中とのことだ』

「複数軍集団規模? どこからの情報だ?」

『現在、当海域上空で偵察活動を行っているSR-71からの報告だ』

「進軍、ということはこの氷の上を......厄介な状況になってきたな......」

『それに、複数軍集団規模ということはアフリカ大陸から総出で出張ってきたんだろう。例のユーラシア大攻勢にも匹敵する可能性がある』


 陸上兵種の大規模侵攻。ということは、無論航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)による空域封鎖も予測される状況だ。


 もし空域封鎖が行われれば、ミサイルの使用不可。全砲火器を以てしても、数千万単位は越えるであろう陸上兵種に対処しながらの対空攻撃はジリ貧でしかない。


 航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)の一撃は原子力空母だろうが戦艦だろうが一撃で大破、あるいは焼滅させる。飽和攻撃されては数時間と持たないだろう。


『そこで、だ。我が米軍の最新鋭機と、全艦のミサイルの全力投射を以て、先制攻撃を行う。というのはどうか?』

「最新鋭機というのはYF-35のことかね? だが、貴艦隊の空母の甲板は──」

『──問題ない。実戦配備前の試作機だが、YF-35ライトニングⅡは垂直離陸機能を有している。例え航空甲板が使用不能になったとて、航空機一機分のスペースさえあれば離着陸が可能だ』


 中々の贅沢品だ。しかし、ものの数十機では万単位の航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)には抗いようも無いだろうが。


「何か策でも?」

異生物群(グレートワン)に対し、白リンが有効であることは貴官も承知しているだろう?』

「あぁ。残念ながら、白リン弾は持ってきてはいないが......」

『我が艦隊には白リン弾の用意がある。とはいっても、数は少ないのだが......作戦に組み込むには十分な数だ』


 灯台作戦における報告書は高野大佐も目を通していた。最終局面での撤退時、白リン搭載の空対空ロケットの大量投射により、航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)の空域封鎖を一時的に無力化。


 更には、戦車や装甲車等の煙幕用の白リン弾であっても、敵陸上兵種の侵攻阻害には非常に有用な働きを示していた。


『YF-35を用い、白リン弾を直接投射。航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)を一定数掃討し、全艦の総火力を一気に叩き込み、敵主力を粉砕する。例えあれが先遣隊だとしても、侵攻の出鼻を挫くには十分だろう』

「悪くない作戦......ではあるな」

『......作戦成功率を上げるため、ボールドイーグル。それと、アヴァターラにも協力を要請したい』


 高野大佐は傍で一連の会話を聞いていたルカとネヴィルに目を向ける。


「大丈夫です。やれます!!」

「多少の無理は利かせましょう」

「......分かった。では、白リン弾による空域封鎖解除の後、YF-35と全艦の火力を全力投射。ルカ軍曹にはその後の掃討を頼もう。それで大丈夫かね?」

『問題ない。だが、一つ確認したいことが。総攻撃は何度まで可能か、それと総攻撃に必要な準備時間はどの程度になる?』

「私が行動不能になるまで、ということでしたらおおよそ五回ほど。クールタイムは......これだけの艦艇数ですと、良くて八時間といったところでしょうか」

『了解した。全艦に共有しても構わんな? 高野大佐』

「あぁ、問題はない」

『それでは、早速準備を始めよう。あまり時間は無いだろうからな』


 それから三〇分もせず、甲板の捲れた米空母上ではYF-35の発艦体制が整っていた。作戦通り、炸薬として白リンを充填したロケット弾をハードポイントに懸吊(けんちょう)


 米第五、第七両艦隊の各正規空母より。出撃可能状態のYF-35、合わせて計四七機。実戦投入前のプロトタイプにしてはやけに数が多い。


 作戦の詳細な打ち合わせも、少ない時間の最中の付け焼刃にしては上出来。もう間もなく作戦開始だ。


『そういえば、作戦名を決めていなかったな』

「作戦の名前? 確かに決めてはいなかったが......今すぐ決める必要も無いだろう」

『そうはいかない。作戦名というのは大事だ。円滑な情報伝達と、全体の士気高揚にも繋がる』

「......それならば異論は無いな。それで、どのような名前を?」

『作戦名は貴官が決めてくれて構わない。各艦隊に独立した指揮権があるとはいえ、名目上の全体作戦指揮は貴官──高野大佐だ』


 高野大佐は一分ほど沈黙し、作戦名を伝える。


「では、本作戦は[銀の弾丸]作戦としよう」

『オペレーション・シルバーバレット......ふみ、もう少し硬く来るかと思ったが、中々良いネーミングセンスだ。気に入った。では、号令を』


 高野大佐は無線を一つ手に取り、全艦に下令する。


「本作戦の目標は、我が艦隊へと接近中の敵大規模陸上兵種群の殲滅及びマダガスカル島防衛である。本作戦はマダガスカル島失陥と、それに伴って行われるであろう異生物群(グレートワン)の喜望峰挟撃。そして、太平洋進出を阻止する極めて重要な作戦である。この作戦にはアメリカ、日本、中国、インド、オーストラリアなど。太平洋沿岸諸国の、果ては人類の存亡が懸かっている。諸君らに帰るべき故郷があるのなら、守るべき誰かが居るのなら。全身全霊を以て本作戦を完遂せよ」


 号令の終わりを予感して、YF-35のエンジンが点火。静かな氷上に、ターボファンエンジンの甲高い唸り声が響き渡る。


「これより、銀の弾丸作戦を開始する」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ