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冒涜戦線 ~冒涜されし神々と人類の最終聖戦~  作者: kulzeyk
第四章 忘レ去ラレシ者達ノ慟哭
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第伍拾伍話 超・大量突撃ドクトリン

"第二編隊が壊滅か......なに、問題はない"

"それよりあのガキ共は逃がすのでいいんだよな?"

"そうだ、ゼロワン。今は部隊の再編と、作戦第二段階への移行を優先する"


 日米艦隊の下へと走り去っていくルカとネヴィルを眺めつつ、ヒュドラは次の作戦の準備を始めていた。


"こちらヒュドラ。揚陸隊、応答せよ"

"こちら揚陸隊、どうぞ"

"作戦第二段階へと移行する。揚陸隊は直ちに進発。我らと合流の後、敵連合艦隊に総攻撃を仕掛ける"

"揚陸隊了解"


 ヒュドラの力によって、アフリカ東海岸。ザンジバル島より半径一〇〇〇キロ以上の海洋は氷の大地と化している。それ即ち、異生物群(グレートワン)陸上兵種が支配しているアフリカ大陸中央部も陸続きとなっているということに他ならない。


 浸透襲撃種(ガルマディア)に代表される陸上兵種はもちろん、着地しての頻繁なエネルギー供給を必要とする航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)は洋上で活動することが出来ない。


 しかし、今現在海は広大な陸地である。数メートルから数十メートルもの厚みを持つ、頑強な氷の大地だ。


"浸透襲撃種(ガルマディア)各位、進軍速度を合わせる必要はない。先行し、敵連合艦隊に肉薄。移乗攻撃を敢行せよ"

"了解"

"航空猟兵種(ヴンダーヴァッフェ)は距離五〇キロ地点まで極低空で進攻。浸透襲撃種(ガルマディア)隊と協同し、敵戦艦級を破壊せよ"

"了解"


 海洋種と陸上兵種は似て非なるものだが、本質は全くもって同類。戦女神に対して、個々の戦力は圧倒的に不足している。


 これではルノレクスの精鋭主義に基づいた作戦とは相性が悪く、その本質を存分に発揮することは叶わない。


"ルノレクス......あいつは精鋭主義だったが、我らは違う"

"いくら強かろうが、数の暴力で押し潰せばいいってわけだ"


 ルノレクス戦を観察し、導き出したヒュドラの作戦。それは徹底した数の暴力と波状攻撃。アフリカ大陸の戦力を、守備隊を残して根こそぎ動員。


 総戦力は、先に行われたユーラシア大攻勢に匹敵。或いはそれを上回る。


"これで連合艦隊は落ちたも同然。だが、未だ不安要素が多い"

"レヴィアタンの艦隊は未だ罠に引っ掛かっていない。第二編隊も壊滅した。そして、奴らは航空兵器も潤沢"

"あの霧を使うしかないんじゃないのか? 四の五の言って、先手を取られてはマズイだろ"


 ゼロワンの発言に、ゼロツーとゼロスリーが悩ましそうに目を閉じる。


"......分かった。霧の許可を出そう。ゼロワン、頼んだぞ"

"言われなくても"


 夢幻竜ヒュドラがなぜ夢幻と謳われるのか。それは、この霧の戦果が示してくれるだろう。


 <<>>


"これは......霧? しかし何故突然......"

「面倒な......」


 レヴィアタンの艦隊を、青白い霧が取り囲む。霧は次第に数十メートル先も見えぬ濃霧となり、真横を航行している艦艇すらも見えなくなっていった。


「全艦、通信を緊密に。周辺で敵影を見つけても攻撃は禁止」

"攻撃を禁止?"

「何を見ても慄く必要はない。それは幻影であり、現実ではない。干渉するな、見るな、耳を傾けるな、考えるな」


 レヴィアタンの本気の警告に、艦隊の空気が一気にピリつく。


 いつの間にか、船体が弾く波のメロディも途絶え。羅針盤は狂い機能不全。その他電探も原因不明の誤作動を起こし、今どこを航行しているかすらも不明。


 艦橋の窓には雨が打ち付けているような音こそすれど、濡れてなどいないし、外に手をかざしても雨が降っている様子はない。


"不可解......ん? 正面、一〇時方向に感アリ"

「無視しなさい。そこには何もないはずだから」

"了解しました......"


 レヴィアタンが警告するも、武蔵の電探には一つ、二つと敵影らしき艦影が映し出されていく。それらは距離も方角もバラバラだが、武蔵に向けてジワジワと距離を詰めているような行動を取っていることだけは共通していた。


 艦隊には接近してきているのに、針路はレヴィアタンの艦隊に対し歪みなく平行そのもの。数も増えつつあり、艦隊が包囲されるまでにそう時間は掛からなかった。


"本当に攻撃は不可と?"


 艦隊の外縁を航行する駆逐艦からそのような疑問が上がる。レヴィアタンの艦隊は武蔵の電探と同調して状況を把握している。自分の僅か数十メートル真横にいるかもしれない敵らしき艦影に、貧弱な船体たる駆逐艦らには不安が募っていたのだ。


「攻撃は不可。見るな、考えるな、不干渉。以上」

"了解......"


 艦影が武蔵の隣へと迫ろうと、レヴィアタンの姿勢は変わらず。しかし、頑な過ぎるレヴィアタンの姿勢は逆に艦影に対する興味を引いてしまう。


 それがなんであるのか。未知を知ることで、恐怖を克服したいという欲求が、艦影に対する好奇心を刺激していく。


 これらの亡霊艦も、所詮は疑似魂を注ぎ込んだだけの代物。人並みに考えることが出来る反面、人並みに慄き、恐怖する。ヒュドラと相対する上で、レヴィアタンが危惧していた事態がこの霧であった。


 移植されたばかりの疑似魂にとって、この状況は精神の安寧を掻き乱すには十分過ぎたのだ。


 ふと、霧の奥から重苦しい砲声が響く。それが正体不明の艦影のモノか、味方のモノなのかは、この状況においてはどうでもよいことだ。


「っ?! 攻撃は禁止だと──」


 ──続いて二発、三発。艦隊の四方八方から敵か味方かも区別の付かぬ砲声が鳴り響いていくる。一発砲声が鳴る度にそれは数を増し、連鎖し増殖していく。


"攻撃!! 敵艦から攻撃が!!"

「ええいうるさい!! 惑わされんな!! 全艦機関出力最大、前進全速!! 霧から離脱を──」


 指示に従い、全艦が自身の持てる最大速力を発揮しようとした途端。ゴォン、と船体が何かにぶつかる音が鳴り響いた。前へと進めば進むほど船体は軋み、メキメキと不快な音が鳴る。


「──っクソ!! 嵌められた!!」


 レヴィアタンが状況を理解し、拳を目の前の操作盤に叩き付ける頃。既に霧は晴れ渡り、辺りには氷の大地が広がっているのが見えた。


 白い吐息を吐くほど冷たい風が吹き付け、分厚い氷の大地の最中で身動きも取れず。辛うじて潜水戦隊(ウルフパック)との通信は継続されていたが、その潜水戦隊(ウルフパック)からの報告も芳しくはなかった。


"こちらU-34。付近に大型の魚影らしきものを確認。推定飛雷母種(アーセナルセタス)、及び砲艇種(ディアラパクス)"

潜水戦隊(ウルフパック)、エンゲージ!! 最優先目標飛雷母種(アーセナルセタス)!! 鯨狩り(ヤークトヴァール)だ、好き勝手に動かせるな!!」

""Jawohl(了解)""


 自己誘導飛雷(タルユ―)発射体制に入った鈍重な鯨相手であれば、ソナー頼りの心許ない無誘導魚雷でも刺さる。ただ、これだけでは不十分。もう一つ保険を重ねておこう。


「機動艦隊に通達。戦爆連合、全機緊急発艦!! 出てきた所を叩け!!」

"機動艦隊各所了解。これより発艦体制に入る。カタパルト用意"


 艦隊の中枢で群れを成す大小無数の空母。その飛行甲板で駐機していた戦闘機と爆撃機が火を吹かす。航行していないが故に追い風は無く、一機一機臨時の改装で取り付けたカタパルトに接続。軽快に航空機を打ち飛ばしていく。


 数分もすれば、空は鉄の怪鳥に覆われ。潜水戦隊(ウルフパック)からは撃沈報告が上がり、氷を叩き割り発射体制に入った飛雷母種(アーセナルセタス)には爆撃機が颯爽と爆弾をお見舞いする。


「......全周包囲ねぇ......ヤなことするなぁ~。潜水戦隊(ウルフパック)、そっちじゃ気付かなかったのー?」

"は。霧の報告と同タイミングで、我々のソナーにも異常が。感知できませんでした"

「ならしょうがいないかぁ~......ただ、これは困ったなぁ......」


 霧に惑わされ、氷の大地に閉じ込められた。爆撃機で縦列爆撃でもすれば、航路のようなモノの一つや二つ出来るだろうか。


 否、砕氷したところで、砕けた氷で船体が傷付いてしまう。良い手ではない。


「ふ~む......致し方ない。ここは私がやるしかなさそうだね~」


 自己誘導飛雷(タルユ―)の一発も撃ち上げられず海洋種編隊は遁走を開始。艦隊の行動を邪魔する者はもはや氷の大地のみ。憂慮すべき報告も上がってこない。


 今がいざという機だ。


「予定よりかな~り早いけど、敵艦隊に強襲を仕掛ける。接敵予想を三時間後に設定しておいて」

"三時間......そのような高速、どうやって......"

「問答無用~。見てれば分かるよ」


 レヴィアタンが艦橋から前方へと手をかざす。


 武蔵の船体に静かに打ち付ける波は伴って勢いを増し、やがて船体を押し出す波濤(はとう)へと変貌。船体の正面に長く伸び、盛り上がった水の塊は氷の大地を穿ち、無き道を切り開いていく。


 津波の如き高波が船体を持ち上げ、その波濤(はとう)は艦隊を強引に前へと押し出していく。


「機動艦隊に通達。今のうちに航空隊を補給させておいてね。まだ時間掛かるから」

"し、しかしこの波では......"

「じゃあ、今は一旦波を引かせておく。その間に全機収容しておいてね。三〇分で終わらせて。分かった?」

"──了解"


 機動艦隊をその場に残し、レヴィアタンの艦隊は決戦の地たるマダガスカル島沖合へと急ぐ。


「全ては愛しのお姉さまの為に......あぁ、早くお会いできればどれほど............」


 レヴィアタンは恍惚とした表情で一枚の写真を眺め、胸に抱き。瞳を吊り上げ、遥か彼方の邪魔者を睨むように、顔を上げる。


「こんな前哨戦、さっさと終わらせて会いに行きますからぁ......待っていてくださいねぇ~」

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