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冒涜戦線 ~冒涜されし神々と人類の最終聖戦~  作者: kulzeyk
第四章 忘レ去ラレシ者達ノ慟哭
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第伍拾肆話 二正面作戦

「やはりな......自己誘導飛雷(タルユ―)の発射点のみ数百メートルもの幅になっている。恐らくはここに......」


 自己誘導飛雷(タルユ―)を撃墜し、新たに補充される自己誘導飛雷(タルユ―)の発射点を各艦協同で観測。その座標に目印を付けるという作業を続けていくばくか。


 加えてソナーに反応している氷塊の影のサイズから、大まかな谷の形状と幅を算出。そこに自己誘導飛雷(タルユ―)の予測発射座標を照らし合わせ、自己誘導飛雷(タルユ―)の発射母艦たる飛雷母種(アーセナルセタス)の位置を割り出した。


 この緊迫した状況で、空から降り注ぐ自己誘導飛雷(タルユ―)を的確に撃墜しながら、よくやってくれたものだ。


「米艦隊の皆々様には頭が上がらないね」

「えぇ。ですが、撃ち漏らしによる損害も無視できません。氷上ですので、沈没こそしていませんが、沈没寸前の艦艇は少なくはありません」

「......主な被害は?」

「現代型戦艦はアリゾナが中破、左舷の対空砲群が壊滅しています。原子力空母はジョージ・ワシントン及びジョン・ステニスの甲板が捲れ上がり、航空機の運用が出来ない状態になっています。その他補助艦艇に関してはレーダーや対空装備に軽微な損傷こそ受けていますが、戦闘に際して大きな悪影響はないと思われます」

「航空機の運用は元より見込みが薄い。巡洋艦以上が残っているのであれば、そこまで支障はきたさないだろうね。しかし、密集陣形にしていて正解だった......こういう事態を想定していたわけではなかったが......」


 撃墜難度こそ変われど、従来通りの大物狙い。原子力空母などは全長だけで見れば大和をも上回る。やはり、自己誘導飛雷(タルユ―)からしてみれば格好な獲物に見えるのだろう。


 ともあれ必要な情報は揃った。これまでやられ放題──今もやられ放題だが、ここから反撃開始だ。


「よし、全艦攻撃用意!! 手筈通りだ!!」

『『了解』』


 作成された渓谷の形状と攻撃すべき座標が全艦に共有され、一斉にVLSが発射される。


 続いて上空から降り注いでくる自己誘導飛雷(タルユ―)に対し、惜しみ無く対空砲火が差し向けられる。


「焼き付いても構わん!! 墜とし続けろ!! 潜航する隙を与えるな!!」


 密集陣形と最新鋭の火器管制からもたらされる正確かつ濃密な弾幕により、自己誘導飛雷(タルユ―)は羽虫の如く容易に墜とされていく。


 そして、墜とされた数に応じて周囲の渓谷から自己誘導飛雷(タルユ―)が際限なく湧き出てくる。如何に知性化されているといえ、未だこちらの意図に気付く様子はない。


「もういいだろう。全艦、VLS発射用意」


 各艦が互いに被らぬよう、事前に設定された座標を入力。ミサイル・セルの蓋が開き、発射用意完了との報告が上がる。


「全艦、撃ち方やめ」


 自己誘導飛雷(タルユ―)の弾幕が薄いタイミングを狙い、VLSへの誤爆を避けるため対空砲火を中断。


 荒々しい炸薬の炸裂音と砲声が止み、静寂が訪れる。


「全艦、VLS、撃ちぃ方始め!!」


 VLSの発射煙と轟音が静寂を破った。次いでVLS搭載の全艦がミサイルを撃ち上げ、自己誘導飛雷(タルユ―)の間をすり抜け指定の座標へと向かう。


 ミサイルが水平飛翔に移るのを確認し、再び対空射撃を号令。自己誘導飛雷(タルユ―)を余すことなく撃墜し、飛雷母種(アーセナルセタス)を釘付けにする。


 渓谷の各所から湧き出る自己誘導飛雷(タルユ―)の数は減っていない。どうやら、作戦は順調に進んでいるようだ。


「着弾まで残り五秒......4......3......2......弾着、今」


 ミサイルが着弾。艦隊を取り囲む渓谷の各所から黒煙が上がり、続けて何かに誘爆でもしたかの如く巨大な爆炎が渓谷より噴き出した。


自己誘導飛雷(タルユ―)は......出てこない、な。よし、これより残敵掃討に移る」


 その後、残りの自己誘導飛雷(タルユ―)を全て撃墜。味方の誤射により、イージス艦一隻がレーダーに損傷を受けたことを除いて、以降の損害は無かった。


 <<>>


 ──同日同刻 セーシェル島より北西九〇〇キロ地点──


"テラーバードより第一前衛艦隊。艦隊前方、距離七五キロ地点に自己誘導飛雷(タルユ―)を視認。推定総数三〇〇。迎撃の要アリと認む"


 護衛空母より飛び立ったテラーバード──偵察機が、武蔵らの艦隊へと飛翔中の自己誘導飛雷(タルユ―)を捕捉。


 これを受け、武蔵率いる戦艦主体の第一前衛艦隊は迎撃のため一度巡洋艦主体の第二前衛艦隊と交代。巨大な船体を持つ戦艦を餌として、迎撃時間を稼ぐ構えを取る。


"武蔵より前衛全艦、主砲三式、対空戦闘用意"


 駆逐艦、巡洋艦、戦艦の順に艦艇が配置され、簡易的な輪形陣を構築する。


「もうすぐ接敵かなぁ~。電探はどう? 反応あるー?」

"反応は微弱ですが、僅かに感アリ。概ねですが、現在約五○キロ地点"

「対空弾を置くにはまだ遠いねぇ~。航空機じゃ近すぎるしぃ~......まだ待ち、か」

"はい。迎撃開始は二〇キロ地点を予定しています"

「誘い込んで~、縦深輪形陣って袋叩きってわけだね」


 全艦が厳戒態勢で待機する間、波の音だけがレヴィアタンの鼓膜を揺らす。


 莫大な海水が、黒鉄の城の巨躯に打ち付け弾かれる心地の良い音。そんな、どこか清涼さも感じる音色の中に、異音が混じる。


「──来たね」


 頭部の呼吸器から超音速の空気を取り込み、そこに体内に循環している血液代わりの液体燃料を吹き付け猛進する自己誘導飛雷(タルユ―)の呼吸音。ジェットエンジンの如く唸る呼吸音は、一切衰えることなく大きくなっていく。


 各艦の電探が自己誘導飛雷(タルユ―)をハッキリと捉え、遂にニ〇キロを突破。目視圏内へと入る。


「蹴散らせ!!」

"了解。全艦、迎撃開始"


 武蔵の号令に従い、順次戦艦の主砲が撃ち放される。駆逐艦と巡洋艦の細やかな時限信管の炸裂を掻き消すかの如く、戦艦の対空砲弾が炸裂。


 数百数千の子弾と弾殻が数百メートル四方にバラ撒かれ、空間を制圧。自己誘導飛雷(タルユ―)の一群は瞬時に殲滅され、自己誘導飛雷(タルユ―)の編隊に大きな穴が開く。


 後方に続く自己誘導飛雷(タルユ―)はその穴を埋めるべく増速。最前列に加わるも、休む間も無く大小無数の対空砲弾が空間を制圧し続け、間隙を埋めようとする自己誘導飛雷(タルユ―)は片っ端から撃ち落とされていった。


 それでも、数の暴力を体現して迫ってくる自己誘導飛雷(タルユ―)を制するにはやはり一押しも二押しも足らない。総数は三分の一以下にまで減ってきてはいるものの、前衛の駆逐艦隊は半ば突破されている。


"テラーバードより第一前衛艦隊。艦隊前方距離八〇キロ地点に自己誘導飛雷(タルユ―)多数。総数不明なれども、一〇〇〇を越えるものと予想される"

「──ッチ、次から次へとキリがなぁ~いなァ?!」


 このまま戦艦や巡洋艦に被害が出ては今後の作戦行動に支障が出る。そう判断したレヴィアタンは、自身の力を行使する。


「流撃!! 撃ち落とせ!!」


 レヴィアタンは武蔵の甲板へと降り立ち、向かってくる自己誘導飛雷(タルユ―)に手をかざす。


 呼応して武蔵の周辺の海面が泡立つように隆起し、無数のジェット水流が自己誘導飛雷(タルユ―)を撃ち落とす。正面の一群は消滅したが、縦深輪形陣と言えど艦隊は横にも広い。


 レヴィアタンは左右に目を向けると、オーケストラの指揮者のように、優雅に両手を振り上げる。ドッと海面が盛り上がり、何も無かった洋上に水流の壁が作り出される。


 これで左右に広がっていた自己誘導飛雷(タルユ―)はほぼ自滅。残存している自己誘導飛雷(タルユ―)も、機関砲と機銃で撃ち落とされた。


「ったく、めんどくさいな~、もう!!」


 第一波の自己誘導飛雷(タルユ―)を粗方掃討し、レヴィアタンは仰向けに倒れ込む。


"第二波はどういたしますか?"

「んぁ~......私がやる。もうさ、これ以上構ってらんないっての」


 レヴィアタンは飛ぶように起き上がり、遥か先の水平線を睨む。


「第二波が来たってことはどうせ第三波も来るんでしょ~。そしたら、こっちはあんなの要らないから、送り返しちゃえばいいんだよ」


 レヴィアタンはニヤリと笑う。


「航空機、今すぐ出せる?」

"水上機であれば直ちに"

「それでいいとも~。じゃ、少し行ってくるね~」


 手を軽く振り、武蔵の後部に格納されていた水上機に搭乗。肉塊で出来た座席の座り心地は最悪だが、レヴィアタンからしてみれば気にするほどのことではない。


 開け放った風防で風を感じながら水上機を飛ばすこと一分足らず。傾けた機体から見下ろした先には、海面近くを飛翔する自己誘導飛雷(タルユ―)の群れが見えていた。


「よぉ~し。ゼロ、急降下!!」


 レヴィアタンの指示通り、水上機は九〇度回転。急降下を開始。自己誘導飛雷(タルユ―)の群体の鼻先を飛行する。


「よ~し、それじゃあ~......チャーム!! とっととおうちに帰んな!! しっしっ!!」


 座席から立ち上がり、自己誘導飛雷(タルユ―)の群体に淫紋の刻まれた瞳を向けて虫でも払うように手を振る。


「......よし。じゃ、帰ろうか」


 レヴィアタンのチャームにほだされ、夥しい量の自己誘導飛雷(タルユ―)がぐるりと一八〇度旋回。レヴィアタンに背を向けて、自身の発射母艦たる飛雷母種(アーセナルセタス)へと還っていく。


 この後、ヒュドラの海洋種編隊の総戦力のほぼ半数に当たる六二体の飛雷母種(アーセナルセタス)が壊滅したのは言うまでもないことだ。

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