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冒涜戦線 ~冒涜されし神々と人類の最終聖戦~  作者: kulzeyk
第四章 忘レ去ラレシ者達ノ慟哭
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第伍拾壱話 もう一つの脅威

 ──西暦二〇〇二年 一一月一六日──


 アンツィラナナ港の軍港化がある程度進み、イージス艦などの小型艦艇の停泊と整備が可能になった頃。


 敵海洋種が活動を再開した。


 砲艇種(ディアラパクス)は速度と小柄な体躯を活かしてアンツィラナナ港に接近、哨戒中の補助艦艇への襲撃を繰り返し。


 それ以外の遠洋では飛雷母種(アーセナルセタス)がどこからともなく浮上、自己誘導飛雷(タルユ―)を少数ばら撒いては潜航し離脱というのを繰り返していた。


 今日もまた、休まる暇は無い。


『タイガーテイルズよりダイヤモンド。ダイヤモンドより方位3-1-2、距離二〇〇〇〇に飛雷母種(アーセナルセタス)と思しき敵影を確認』

「またちょっかい掛けに来やがったな!! ダイヤモンド了解、直ちに迎撃する!!」


 マダガスカル島近海で哨戒活動を行っていた第一二五艦上空中早期警戒飛行隊が、海中より浮上した三体の飛雷母種(アーセナルセタス)を捕捉した。


 同時に警戒待機していた第一〇二戦闘攻撃飛行隊ダイヤモンドへと情報が回され、ダイヤモンド各機は指示された方位へと機首を向ける。


「毎回毎回ちょろちょろ逃げ回りやがって......今日こそは逃がさねぇぞ!!」


 機首を向けると、指向性の捜索レーダーがすぐさま飛雷母種(アーセナルセタス)の巨影を感知。レーダーサイトに輝点(ブリップ)を映し出す。


「ダイヤモンド01よりダイヤモンド各機、対艦ミサイル用意!!」


 飛雷母種(アーセナルセタス)から返されるレーダー反射を精確にロック。潜航を許すまいと間髪入れずにスーパーホーネット各機は対艦ミサイルを発射する。


 ミサイルは発射された後、緩やかに降下を開始。水面スレスレで水平に立て直し、母機たるスーパーホーネットからの誘導信号に従い飛雷母種(アーセナルセタス)へと殺到する。


 それに呼応するように飛雷母種(アーセナルセタス)も一五発の自己誘導飛雷(タルユ―)を射出。通常とは異なり、瞬間的に五発づつ射出した飛雷母種(アーセナルセタス)は速やかに潜航を開始。


 立て続く自己誘導飛雷(タルユ―)の射出で焼け付いた突起物が海水と触れ、高温の蒸気を吐き出し辺りに霧が立ち込める。


『............こちらタイガーテイルズ、ダイヤモンド。目標ロスト。ダイヤモンド各機は一度補給に戻れ。警戒待機は第27戦闘攻撃飛行隊ロイヤル・メイセスへと委任する』

「クソッ!! また無駄弾じゃねぇか!!」


 ダイヤモンド隊はタイガーテイルズからの指示に従う素振りは見せず、未練がましく飛雷母種(アーセナルセタス)が捕捉された海域へと向かっていた。


 タイガーテイルズの通信員は気持ちは分かると前置きした上で、力強い声音で命令する。


『タイガーテイルズよりダイヤモンド。直ちに帰投せよ。警戒待機はロイヤル・メイセスへと委任する』

「......ウィルコ。帰投する」


 <<>>


『タイガーテイルズよりマザー01。飛雷母種(アーセナルセタス)の射出した自己誘導飛雷(タルユ―)がそちらに向かっている』

「マザー01了解。こちらでも飛翔体を捕捉した。迎撃開始」


 マザー01──アメリカの原子力空母のうちの一隻が飛翔体を捕捉し、そのデータを基にイージス艦が中距離対空ミサイルを発射。


自己誘導飛雷(タルユ―)撃墜一〇。残五、二〇〇〇〇メートル。近接防空戦闘に切り替える」


 原子力空母のRAMから近距離ミサイルが射出され、更に四発を迎撃。最後の一発をイージス艦の主砲が撃ち落とし、艦隊より八キロの地点で全弾の迎撃に成功した。


 しかし、CICで火器管制を行っていた兵士達にとって、これらのスコアは芳しいものではなかった。


「......遂に一〇〇〇〇メートルを切ったな」

「前より軌道の複雑性が増してやがる......自己誘導飛雷(タルユ―)自体は八〇〇キロ程度のノロマだってのに、ミサイルが避けられるなんてな」

「主砲もだ。何発外したと思ってる?」

「んだよ、当てたんだからいいだろうが」


 自己誘導飛雷(タルユ―)が学習している。ここ最近で、自己誘導飛雷(タルユ―)の飛翔軌道を計算。客観的観測に基づいて得られたデータから導き出された結果である。


 本来、自己誘導飛雷(タルユ―)は目標に向かって真っすぐ突っ込んでくるだけの、足の遅いミサイルだった。


 それがここ最近では軌道の複雑性が増し、遂には艦対空ミサイルすら避けられる始末。もはやミサイルもアテには出来ず、主砲とCIWSの弾幕による空間制圧が有効打となりつつある。


 大戦期の頃にほぼ逆戻りだ。


「それで、今回はどこに現れた?」

「......本艦より方位3-0-4。約一五〇キロ地点」

「今度は北方か......」


 CICの戦略図上に新たな輝点が追加される。戦略図はマダガスカル島を大きく表示しており、マダガスカル島の北部から東北東までの間にかけて無数の輝点が赤く光っていた。


 その様子はアンツィラナナ港を包囲しているようにも見え、これまでの襲撃と合わせて敵の狙いが大まかに予測されつつあった。


「......海上封鎖か? やっぱ」

「その割には積極性が無いし、狙ってるのも輸送船じゃなくて俺達だ。ただの威力偵察じゃないのか?」

「心理戦という節もあるぞ」


 各々の考察でCICが騒がしくなるも、艦橋から艦長が降りてきた途端に恐ろしいほどに静まり返る。


「............私語は慎むように」

「サー、アドミラル......」


 艦長が注意すると、どこか不満気に、小さく返事が返ってきた。


 <<>>


 ──同月同日 ザンジバル島沖合──


"壮観な光景であるなァ、我が艦隊は"


 海面より巨竜が顔を出し、その長い首で、飛雷母種(アーセナルセタス)砲艇種(ディアラパクス)が埋め尽くす沖合を眺める。


 目を細め、口角をニヤリと吊り上げるその仕草は竜のそれとは思えないほど、実に人間臭い動作である。


"おい、ゼロツー。起きろ。お前もそう思わないか?"


 そう言うと、海中からもう一つの、同じ見た目をした巨竜の顔を口で掴み上げる。掴み上げられたもう一つの顔は鬱陶しそうにもう一つの顔を睨み付け、口の隙間から冷気を漏らす。


"うるさいぞゼロワン。寝る時間くらい合わせたらどうなんだ"

"そもそも我らに睡眠など不要であろう。なぜこんな生物の真似事をしているのか理解ができんが?"

"貴様はそういう心理に疎いところがある。いいか、相手と同じように活動することで相手の心理を読むことができるのだ"


 ゼロワンと呼ばれた頭は不機嫌そうに目を細め、ブルルっと唸り声を発する。


 ゼロツーと呼ばれた、寝起きの頭は気だるげに欠伸をし、大きく開いた口から真っ白な冷気が溢れ出す。


 吐息は触れた海面を瞬く間に凍てつかせ、小さな氷塊が生成される。


"心理を読んだところでな......これだけの物量。あのちっぽけな鉄屑共には対処できまい"

"はぁ、分からぬならもう良い。だがせめて私が寝ている間は起こすんじゃない。急用でもない限りな。分かったか?"

"はいはい。わかってるよ......だが、なぜ今更マダガスカル島なんざ狙う必要がある。現状ユーラシア南部の沿岸はガラ空き。どこにでも上陸し放題だというのに、遠回りじゃないのか?"


 心底めんどくさそうな顔をしながら海中へと潜るゼロツーに変わって、新たな巨竜の顔が浮上する。


"ゼロツーを寝させてやれゼロワン。それについてはこの私、ゼロスリーが教えてやる"

"ほう、智将のお出ましか。こりゃ単純な話じゃねぇな?"

"聞きたいと言ったのは貴様だゼロワン。今更小難しい話は理解出来ぬと言って逃げさせはせんぞ"

"......聞かなきゃ良かったな"


 ゼロワンもゼロスリーも顔は瓜二つ。しかし、人間のように多彩な表情を浮かべるゼロワンと違い、ゼロスリーの表情は凛々しく、竜としての威厳を存分に振り撒いていた。


"まずこれは飛び石というやつだ。ま、我々の場合は島と呼ぶには大きすぎるがね"

"飛び石ねぇ......確か南極大陸を渡って、オーストラリアとニュージーランドからの太平洋進出だったか? だが、それならインドに上陸しても同じことは出来るだろうよ"

"そうなのだがね......どうやら我らが主は急いでおられるらしい。今回のマダガスカル島上陸作戦と、その後の太平洋進出で両アメリカ大陸と極東ユーラシアを一気に攻め落とすお考えのようだ"


 主が急いでいるという言葉に、流石のゼロワンも真面目な顔を見せる。


"主が急いでおられる? 何かあったのか?"

"レヴィアタンが離反した"

"あー......それで我らが出張っているわけか......やはりこの星由来のヤツは信頼できんな"

"それだけではない。ジャガーノートの眷属、あの鎖鴉のガキが厄介だ"

"厄介? ただの子供だろ。なぜ主はただの子供にそこまで焦っておられるのだ?"


 ゼロスリーは南の遥か彼方。水平線を睨み、呟くように言う。


"あのガキは白い鎖を顕現させた"

"......なるほどな。主が急ぐわけだ"


 ゼロワンは考え込むように俯き、一つため息をつく。


"俺も寝よう。ゼロスリーも寝るのだろう?"

"あぁ。今は英気を養う時だからな"


 二つの巨竜の頭は海中へと姿を消し、沖合に展開していた飛雷母種(アーセナルセタス)砲艇種(ディアラパクス)の群れも同様に海中へと潜り。


 数千は居たであろう大艦隊と巨大な命の気配は、深く暗い海の底へと消えていった。

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