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冒涜戦線 ~冒涜されし神々と人類の最終聖戦~  作者: kulzeyk
第四章 忘レ去ラレシ者達ノ慟哭
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第肆拾玖話 マダガスカル島沖一二〇〇海里

 ──西暦二〇〇二年 一〇月二八日──


 護衛艦隊は修理を終え、幾度となくアラビア海に進出してはサメ退治を繰り返していた。


 敵の打撃艦隊が迫れば、ヘリとの共鳴で全速撤退。敵航空隊にはインド海軍から譲り受けたお古の近接防空ミサイルと個艦防空ミサイルで薙ぎ倒し。


 敵艦隊との決戦を徹底的に回避し、中東からの石油輸送路を潜水艦の脅威から守っていた。


「今日で何隻沈めた?」


 やややつれ気味の顔で高野大佐は副官に確認を取る。


「おおよそ五〇隻ほど......大戦期の潜水艦ですから、現代のモノよりは見つけやすいですが......」

「数が多い、だろ? 全く......沈めても沈めてもキリが無いな」


 二次大戦で沈んだ潜水艦はざっと二〇〇隻を超える。この調子が続けば、アラビア海での通商破壊も多少は落ち着くだろう。だが、潜水艦が消えても敵の主力艦隊は健在だ。


 先日のソコトラ島沖海戦では、敵艦隊の戦艦は旧式ばかりだったが、太平洋戦争やクロスロード作戦等の核実験で沈んだモノすら運用しているとなると主力艦の数は膨大。


 補助艦艇などは想像するだけで悍ましい。


「そういえば、アメリカの第七艦隊がコロンボに寄港したらしいね」

「はい。補給を受けた後、ムンバイで第五艦隊と合流。再編成と統合を行い、アラビア海でのサメ退治に参加するとのことです」

「米艦隊の戦力はどうかね? 従来のイージス艦と空母だけでは厳しいが......」

「その点については問題無いかと。こちらの資料を」


 そう言って副官は米艦艇の名前と艦種がズラリと並んだ表を提示する。見た所、既にある程度の改修は済んでいるようだ。イージス艦はチラホラと残ってこそいるものの、防御の要たる現代型戦艦も配備されている。


「両艦隊合わせて原子力空母が三隻......うち二隻は新造艦か。流石はアメリカだな」


 空母の艦載機も役に立たないわけではないが、先制発見先制攻撃が成立しづらい状況でどう運用するのか。まさか哨戒機をローテで回し、目視で見つけるわけでも無いだろうが。


 ここは米海軍のお手並み拝見といったところか。


「現代型戦艦が五隻、巡洋艦四隻と従来のイージス艦多数......いやはや、よくも二年でこれだけの船を造ったものだ」

「流石に月刊正規空母と週刊護衛空母をやってただけはありますね」

「さて、それなら我々も暫くここで待機しようか。連日の出撃で、乗組員も疲弊しているはずだろうからね」

「了解しました。各艦に伝達しておきます」

「あぁ。頼んだよ」


 ──同月三〇日 セーシェル島──


 マダガスカル島より北北東。約一〇〇〇キロ地点に位置する小さな島、セーシェル島。同島に配属されていた哨戒機隊は、ソマリア沖南方で活動する大規模な海洋種編隊を観測していた。


 海原を黒く埋め尽くす程の海洋種編隊の存在は、すぐさまセーシェル島の基地司令部へと伝達。司令部では前代未聞の規模の海洋種編隊に関する情報共有と分析が行われていた。


「まず改めて聞こう......敵の規模は? 飛雷母種(アーセナルセタス)は何体居る??」

「レーダー上では推定で八〇......海中に潜り、観測出来ない個体も居ることを考えますと一〇〇は越えるかと......」


 最低でも一六個艦隊規模。かつてないほどの規模の編隊に、司令部をえも言われぬ、どこか現実味の無い恐怖が包み込む。


 ユーラシア大攻勢では、北極海域において十個艦隊規模の海洋種編隊が確認されていた。今回のこれはそれを遥かに上回っている。


 それが示すところは即ち、近いうちにアフリカ大陸か、或いは別のどこかで。ユーラシア大攻勢並みの攻勢が行われるであろうことを示している。


「......砲艇種(ディアラパクス)もそれだけ居るということか......考えたくも無いが......現状、敵編隊はどこに向かっているか読み取れるか?」

「哨戒機の情報によると、南方に向かってるようです。目的は南アフリカ戦線への逆上陸......或いはマダガスカル島の奪取と思われます」


 マダガスカル島はインド洋、アフリカ大陸東海岸全域に睨みを利かせることの出来る重要な島である。


 もしマダガスカル島が陥落すれば、敵はインド洋の半分をその手中に収め。南アフリカ戦線も逆上陸の危機に晒され続けることとなるだろう。


 また南極大陸を通過することでオーストラリア、ニュージーランド、チリやアルゼンチンなど。太平洋に面した国々への侵攻が可能となる。


 全世界の海軍を根こそぎかき集めて大西洋、インド洋、北極海域の制海権を維持している現状、太平洋にまで海洋種が進出しては制海権を維持できない。


「......南アフリカ戦線への逆上陸が目的なら、わざわざマダガスカル島基地の真横など通らないだろう。敵の目的はマダガスカル島の奪取と断定する! 至急、マダガスカル島基地とインドの司令本部に連絡を取れ!!」


 ──インド海軍本国艦隊司令部──


 敵の狙いはマダガスカル島の奪取。その知らせはインドの本国艦隊司令部を震撼させた。


 本国艦隊とはいえ、現代型戦艦は苦心して建造した一隻のみ。陸軍大国ロシアでさえも四隻は有していた。


 かたや敵の規模はそのロシアの打撃艦隊を壊滅させた一○個艦隊相当を遥かに越える一六個艦隊相当。


 現状、インドには日本からの護衛艦隊とアメリカの第五、第七艦隊が駐留している。


 そこにインドの本国艦隊を合わせると、総戦力は現代型戦艦七隻、原子力空母三隻、巡洋艦一〇隻、イージス艦以下補助艦艇多数。


 インド洋の制海権を維持し、海上輸送路を守るのには十二分な戦力が揃っている。


「だが、敵は一六個艦隊相当との報告が上がっている。これを迎撃するには現有戦力では不安が残るぞ」


 戦略図上に置かれた駒を睨みながら、本国艦隊司令長官はそう漏らす。


「陸軍での水際防衛も成功事例が無く、現実的な案ではないでしょう」

「ロシアから派遣されたあの少年を配備すれば水際防衛も可能ではないのか?」

「......可能性はあるでしょうが......不確定要素が大きすぎます。やはり従来通り、水上での撃滅が現実的ではないでしょうか?」


 ──対策会議は長く続いた。


 マダガスカル島の失陥は制海権の完全喪失へと繋がり、失敗は許されない。かといって敵の大攻勢を完全に防ぎ切るだけの部隊配備は現実的に不可能であり、現有戦力での迎撃も厳しいと来た。


 あれも無理、これも無理。上がる案は悉く前例が存在せず、現実性も薄く。結局有効な案は一日の内に決まることはなかった。


 <<>>


 敵大編隊の報せは、ムンバイに集結していた日米両艦隊にも届いていた。


「マダガスカル島北方一二〇〇海里に敵の大編隊か......」

「セーシェル島の哨戒機隊からの報告によりますと、現在敵海洋種編隊の規模は一六個艦隊相当と見積もられ、周辺からも新たに海洋種編隊が合流。更に増加しつつあるとのことです」

「......米大西洋艦隊の総戦力並みじゃないか......敵の狙いは?」

「マダガスカル島の奪取。そしてマダガスカル島を起点とした南アフリカ戦線への逆上陸と、南極大陸を通過しての太平洋進出と本国艦隊司令部及びセーシェル島基地司令部は断定したようです」


 途方もない敵の物量に高野大佐はつい頭を抱えてしまう。じっくりと目を閉じ、眉間に皺を寄せる。


 米第五、第七艦隊が合流。再編制され、いよいよ本格的なインド洋の制海作戦が始動しようとした矢先でのコレである。無理もないだろう。


 通常であれば、ストレスに押し潰されて溜息の四つも五つも出そうな状況。だが、そんな状況でも溜息だけは吐かないというのは艦隊司令官としての意地であるのだろうか。


「米艦隊はどうするつもりか聞いているかね?」

「米艦隊としては、戦力が整い次第艦隊をマダガスカル島北端のアンツィラナナ港へと移動。ひとまずは軍港として貧弱であるアンツィラナナ港にインド陸軍の工兵隊を揚陸させ、基地化させる方針のようです」

「流石にすぐさまマダガスカル島の港で待機、とはならないか......」

「アフリカ沿岸の港は軍港が少ないですからね......仕方ありません」


 状況はかなり悪い。大和に痛手を負わせた亡霊艦隊の規模は不明。幾度かの接敵と交戦では必ずと言っていいほど敵航空隊が姿を現した。


 しかしながら、その全ての交戦において敵機動艦隊を発見することは出来ないでいた。一波攻撃で一〇〇機を優に越すだけの大規模な航空戦力を投入しているのだから、それ相応の大艦隊であろうことは想像に難くない。


 そうだというのにレーダーに対する映りは非常に悪く、航空偵察や偵察衛星にすら映らないのは不自然を通り越して不気味だ。空母を主軸とした機動艦隊は確かにそこに居るはずなのに、姿形は一切見えないのである。


 そこに居るかもしれない恐怖。


 敵機動艦隊の位置は皆目見当が付かず、それ故に敵機の存在に気付いた時には既に目視距離であることも多い。


「......敵の狙いがマダガスカル島であり、アフリカ沿岸の海洋種編隊をソマリア沖へと集結させているならば......暫くはインドや中東地域への直接的な強襲上陸は仕掛けてこないだろう」

「それは......酷く楽観的な観測とも思えますが......」

「マダガスカル島を占領し、南極大陸を橋頭保とする。このような荒業が可能であるのが異生物群(グレートワン)だ。太平洋地域に進出されれば、人類の海上での優位は消滅する」


 それに、と高野大佐は一枚の写真を取り出す。


 写真は米空軍のSR-71ブラックバードが捉えたモノであり、飛雷母種(アーセナルセタス)の残骸を曳航する敵戦艦と補助艦艇らの様子が写っていた。


 現状、亡霊艦隊の証拠を捉えた唯一の写真だ。


「どうやら、このアラビア海では三つ巴の戦いが起きているらしいからね」


 敵の敵は味方。この場合、敵の敵も敵であるのだが、ある意味味方である。


「我々も米艦隊に同行する。異生物群(グレートワン)の動きは素早い。マダガスカル島に立派な基地が立つ頃には、マダガスカル島奪取に向けて動き出すだろう」

「......遅れを取らぬように、と?」

「先手を取られてはその時点で負けだ。可能であれば米艦隊と協同し、敵の戦力が揃う前に少しでも削りを入れる。マダガスカル島を要塞化する時間くらいは稼がないとね」


 マダガスカル島沖一二〇〇海里。


 決戦の日は近い。

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