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冒涜戦線 ~冒涜されし神々と人類の最終聖戦~  作者: kulzeyk
第四章 忘レ去ラレシ者達ノ慟哭
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第肆拾漆話 水雷戦隊前へ

「ネヴィルさん!! 正気に──」


 ルカは味方に矛先を向けることを躊躇い話し合おうと声を掛けるも、ネヴィルは有無を言わさず斬りかかってくる。


 ルカは鼻先が刃に触れる直前でどうにか斬撃を受け止め、ネヴィルの体重を掛けた一太刀にジリジリと押し込まれていく。


「私は至って正気です。ですが、チャームの餌食になってしまいました」

「ちゃ、チャーム??」

「魅了のことです。してやられましたよ、えぇ。見事に貴方に対する敵意を刷り込まれました」


 話している様子を見ると、明確な自我は残っているらしい。身体が勝手に動くというやつだろうか。


「ですので、容赦はできません。貴方も、殺す気で戦わないと死にますよ」

「そんなこと言われてもっ!!」


 両手で鎖を握って長剣を抑えていたが、そろそろ手の方が真っ二つに切れてしまいそうなほどに押し込まれている。姿勢もエビ反り気味で、バランスを保ち続けるのも苦しくなってきた。


 ならば──。


「ほ、ほんとに殺す気でいいんですよね?!」

「えぇ。そう簡単には死ねませんから」


 幸いにも導火線は未だ繋がっている。ネヴィルの方が素早く、膂力(りょりょく)も僅かにルカを上回っている。


 起爆する他ないだろう。


「すみませんっ!!」


 導火線たる鎖を根元から切り離し、鎖弾を足元に撃ち込み目くらましの黒煙を吐く。同時に長剣を受け止めていた鎖を起爆。爆圧でネヴィル共々その場から弾き飛ばす。


 導火線は順調に連鎖爆発を発生させ、甲板から弾き出された数秒後には弾薬庫に誘爆。数千トンにもなる戦艦の砲塔がバーベットごと宙に跳び上がる。


 主砲の砲撃なんかとは比較するのも烏滸(おこ)がましい程の爆轟が轟き渡り、主砲塔直下の船体が断裂。


 爆発の衝撃で真っ二つに折れた船体は、溺れたような気泡を無数に吐きながら沈んでいった。


 戦艦が爆沈した周辺には燃料らしき油が幕を張り、屑鉄が辺りに漂っている。


 そして、その僅かな屑鉄を足場に跳び渡り、空で浮いたままのルカへと迫る人影が一つ。


「流石に一筋縄とはいかない......ですよね......」


 砲口を仕向け、次に着地するであろう屑鉄に砲撃。飛び移る足場を潰そうとするも、ネヴィルは海面を蹴って次の屑鉄に着地する。


「あ、ありかよ......」


 たじろぐルカの隙を突き、ネヴィルは一気に距離を詰めてくる。屑鉄の足場を破壊するよりも先に不規則に飛び回るネヴィルを見る限り、砲撃や半端な遠距離戦では勝機はないだろう。


 ルカは空を飛ぶことは出来るが、空中戦は得意ではない。ネヴィルのように足場を必要とするわけではないが、依然として空中戦はルカの不利となる。


 だが、ここは海上。地上戦をするには戦艦の甲板に飛び乗る他に無い。


 そして、ルカから見て最も近い戦艦はというと──。


「武蔵......」


 ルカの背後には、衝撃波だけでも致命傷となりうる四六サンチ砲を撃ち続ける武蔵が居た。


 護衛艦隊との距離が詰まり、駆逐艦らも砲撃を始めたのだろうか。武蔵は大小様々な無数の水柱の只中を航行している。


 同時に敵巡洋艦も絶え間なく砲火を吹き、駆逐艦は何隻か艦隊から離脱しつつある。艦首は護衛艦隊に向いており、必殺の雷撃をお見舞いしてやろうという魂胆が見え見えであった。


 あの駆逐艦をどうにかしたいところだが、ネヴィルからも目が離せない。なにせ、こうして周囲の状況確認を行った一〇秒足らずでルカの足元まで到達しているのだから。


「くそっ! もう、足が速すぎる!!」

「よそ見などしているからです。単純な戦闘能力こそ貴方の飼い主やブラフマーには劣りますが、それなりの場数は踏んできたつもりです」


 振り下ろされた長剣を弾きつつ、鎖を起爆させてネヴィルの間合いから退避する。


「魅了に掛かってるのに説得力ないですよ?!」

「それは私としても失態であると認識しています。この失敗を次に活かすためにも、是非奮闘なさってくださいね」

「それ僕の役目じゃない気が......」


 ルカは疑問に表情を歪ませ、海面へと落下していくネヴィルを見下ろす。流石のネヴィルも空は飛べないらしい。


 ありがたいことだが、常に下に注意を向けなければいけないのもそれはそれで面倒だ。


「......いい、いいや。今はとにかくあの駆逐艦をどうにかしよう......」


 海面の鉄屑に着地すると同時に飛び上がり、斬りかかってくるネヴィルを置き去りにするように。ルカは鎖を起爆させ空を飛翔する。


 艦隊より離脱し、護衛艦隊へと進路を向ける敵駆逐艦は三隻。船体と砲塔の形状からして、旧日本軍の駆逐艦だろうか。


 日本軍の魚雷に対する執着は、大和艦内に置いてあった資料から読み取れる。酸素魚雷は航跡が見えづらい。夜間故にほぼ視認は出来ないだろう。


 そして威力は絶大。


 駆逐艦に向かって飛翔するルカに対し、思い出したかのように敵艦隊が対空弾幕を張ってくる。


「うわっ?! ちょ、急に──」


 高角砲の不意打ちを喰らい、一二七ミリの時限信管榴弾が頭上で炸裂。無数の鉄片に身体を切り裂かれながら、目下の海面へと押し出されてしまった。


「運が悪いですね。貴方も」

「ひぃ?!」


 撃ち落とされた隙を逃さず、海面と激突する直前でネヴィルがルカの腹を蹴り上げる。


「ゴァっ?!」

「申し訳ありません。耐えてください。それと──」


 ネヴィルが長剣を構え、振り下ろす直前。ネヴィルは一瞬動きを止めて、小声で語り掛けてきた。


「駆逐艦はお任せします」


 言い終わると同時に長剣が振り下ろされ、ルカはその場から弾き飛ばされてしまう。


 力強い鈍痛と数秒の後、ルカは敵駆逐艦の真横へと着弾。小さくはない水柱を上げ、着弾の衝撃で駆逐艦は大きく傾斜。


 駆逐艦らの注意を向けるには十分であり、海面から顔を出したルカに対し、主砲と機銃とが余すことなく向けられていた。


「っまたかよ?!」


 幾度目かの集中砲火。流石にこの展開にも慣れてきた。


 機銃が撃ち始めるより速くその場から離脱。目の前の駆逐艦の艦橋に鎖を撃ち込み、甲板へと這い上がる。


 やることは同じだ。弾薬庫を探し出し、導火線を仕込んで誘爆させる。


 ネヴィルは駆逐艦を頼むと言っていた。まだハッキリと自我があるようで、長剣の平手で吹き飛ばされたらしく、身体には切り傷一つない。


 やるなら、今のうちだ。


「期待に応えて見せます!!」

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