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冒涜戦線 ~冒涜されし神々と人類の最終聖戦~  作者: kulzeyk
第四章 忘レ去ラレシ者達ノ慟哭
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第参拾玖話 不気味な邂逅

 海に落ちた後視界が開けたかと思えば、ルカは小さなカヌーの上に腰掛けていた。


 空は星の無い夜空。微かに朱みを帯びているのは、辺り一面に広がっている炎の影響だろう。


「やっ、少年。起きた??」

「............ここ......は??」

「welcome to the dream world」

「は?」

「夢の世界へようこそ。そして久しぶりだね、少年」


 ボロボロの船体の各所から炎を掃き散らす大和を背景に、エリシャスは不気味に微笑んだ。


 <<>>


「っ?! ボールドイーグル、反応消失!!」

「なに?」


 大和の電探が、無数の自己誘導飛雷(タルユー)に呑み込まれて消えるルカの反応を捉えていた。そして、艦隊に向かって飛翔してくる自己誘導飛雷(タルユー)の大群も。


「......自己誘導飛雷(タルユー)、本艦隊に接近中。数五〇、第一波攻撃と思われます」

「ルカ軍曹のことは後に回す他なさそうだね......仕方ない。全艦迎撃戦闘。ミサイルの使用を許可、全火力を以て迎撃せよ」


 ミサイルの使用許可が下りると共に、イージス艦がミサイルを発射。大和も続いて後部甲板のVLSよりミサイルを放ち、主砲には先と同じくサーモバリック弾が装填される。


 後方の駆逐艦が大和を追い越し、艦隊前方に集中展開。大和を最後尾に回し、火力密度を向上させる。


「駆逐艦、大和前方に展開。自己誘導飛雷(タルユー)、約二五キロ地点まで接近」

「砲雷長。主砲、交互撃ち方、サーモバリック。第一主砲、右二〇度。第二主砲、左一五度」


 大和の主砲が左右に砲口を指向。第一は一門、第二は二門。それぞれ僅かに仰角をずらし、広域を制圧する構えを取る。


「主砲、諸元入力完了。撃ち方用意よし」

「主砲、交互撃ち方。うちーかーた始め!!」


 号令と共に主砲が咆哮を上げる。数秒して、弾着を待たずに射角を調整しての第二斉射が行われる。


「レーダー、第一波攻撃の全滅を確認。ですが......」

「皆まで言わなくてもいい。第二波迎撃用意。数は?」

「第二波攻撃の数は一三八。速度、変わらず四三一ノットで接近中」

「数が中途半端だな......あいつらは数字に厳格。第一波は頭数の倍数。第二波はその三倍......」


 イージス艦、大和共に順次VLSを発射。敵第二波攻撃の迎撃を開始する。


「きっとルカ軍曹がやってくれたのでしょう」

「そうだといいが......まぁいい。主砲第二射、行けるね?」

「行けます」

「よし。最初の諸元に変更なし。第二射は右二七度、左一九度。撃ち方始め」


 <<>>


「だから、夢の世界だって。これは幻想(ユメ)、海は幻覚(ホログラム)、炎は錯覚(モウソウ)

「えっっっと、ごめん、何を言っているのかよく分からなくて......」


 ルカは頓珍漢(とんちんかん)な言動のエリシャスに頭を痛めてしまう。声が二重に聞こえるのだ。誰だって頭を痛めるだろう。痛めるはずだ。


「で? 呼んでな──」

「うん呼んでない。私が呼んだ。渡した石、持ってないでしょ?」

「石......? あっ?! 忘れてた......」

「忘れんなよ!!」

「痛い!!」


 今までとは違ってふざけたような素振りでルカの頬を叩く。


「なんでぶつんですか?!」

「アンタが!! 私の、折角渡した石を、忘れやがってるからでしょうが!!」

「そ、それはごめん!! ごめんだからソレやめて、元に戻ってお願い!!」


 金髪金眼白ワンピースの少女に、どこぞの漫才師だかオッサンみたいな言動をされると正直......気持ち悪い。


「いいよ、戻ってあげる」

「はぁぁぁぁ......で、なんで呼んだの?」

「いやー、ちょっとした自慢だよ。あぁ、ちょっとカヌー漕いでくれる?」

「............分かった」


 やり方は教科書で見た程度だが、日本語も簡単に覚えた。たぶん行けるはずだ。


「おー、上手いじゃん」


 目の前で紅茶を淹れ、ルカとエリシャスの分のマカロンを置く。


「......マカロン好きなんですか?」

「いーや? お似合いなだけ」


 焼け爛れた鉄塊を掻き分けてカヌーを漕いでいると、エリシャスが自慢話とやらを始めた。


「君が力をくれたおかげで、色々と根回しが出来た。そして、根回しをしている間に君を夢の世界に呼べるほどには力が付いた。ちなみに肉体ごと」

「肉体ごと?! え、じゃあ現実の世界には......」

「うん、居ない。存在そのものが消えた」


 炎を纏った鉄塊がカヌーの真横を漂っていく。熱で肌が炙られる。痛い程に熱いが、汗はなぜか出ない。むしろ背筋が凍りそうだ。


「ところで、あれは?」


 顎で背景の大和を指し示す。


「あれは未来。これからの将来に起こるべきこと。或いは運命とも言うし、あるべき姿だったこともある」

「......何が言いたい?」

「まぁ......こうならないように気を付けることだね。君だって、慢心してるようだから言うけど別に何をしても死なないわけじゃない」


 ルカ自身は慢心している自覚は無い。だが、不死の力を良いように使って、文字通り死に物狂いな戦い方をしているのは心の底では自覚している。


 とはいえ、それを見透かされて良い思いはしない。


「私は......いや僕は、君の弱点を知ってる。何をすれば苦しむのか、何をすれば、君を殺せるのか」

「脅し......ですか?」

「いやそんなんじゃない。方法は知ってても、私には実行できないからね。ただの、自慢だよ」


 そう言うとエリシャスは両手を広げ、自慢気な顔で上目がちに睨んでくる。どうだ、と言わんばかりに。


「脅しじゃないなら......警告? 何かの?」

「そんな疑わないでよ。ほんとにただの自慢だよ」

「信じられるとでも?」

「......ま、いいや。信じなくても。私はこれから用事があるからね、これでお話は終わりにしようか」


 エリシャスがにっこりと笑みを浮かべ、ルカの視界にノイズが多くなる。


「それじゃあ、また今度。今度は夢じゃなくて、君達の世界で会えるといいな」


 その場から落下したような感覚を受けると共に、一瞬目の前が真っ暗になる。次に目を開けた時には、海原の遥か上空から落ちている場面だった。


「............嫌な予感しかしない」


 ハッキリと、エリシャスが最後に言ったことだけが記憶に残っている。


 今度はこっちの世界で会えるといい。まさかただの冗談とは、どうも思えない。

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