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冒涜戦線 ~冒涜されし神々と人類の最終聖戦~  作者: kulzeyk
第四章 忘レ去ラレシ者達ノ慟哭
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第参拾陸話 抜錨!! 大和、敵性海域へ!!

「全艦、出港用意!!」


 高野大佐の号令と共に、艦隊に出港用意が下令される。ラッパが鳴り響き、艦首ではためいていた旗が降ろされる。


「出港用意!! 各索放せ!!」

『了解。各索放します』


 係船索が回収され、艦がゆらゆらと海流に流され始める。


「両舷前進最微速。進路そのまま、よーそろー」

「了解。進路そのまま、両舷前進最微速」

「現在速力三ノット、舵速力共に異常なし」


 他の小柄の護衛艦群より幾ばくか遅れ、大和は慎重に港を離れていく。


「よし......両舷前進半速。大和を中心とし、輪形陣を構築」

「全艦、大和を中心とし輪形陣へ移行せよ」


 そうして数分かけて、大和を中心とした輪形陣が構築される。


「両舷前進、第一船速。進路そのまま、ソコトラ島司令部へ」


 盛大に海水を蹴り上げ、徐々に加速。戦艦にしてはかなりの加速で第一船速へと到達する。


「イージスシステムリンク......異常なし。捜索レーダー、敵影認められず」

「出だしは順調......さて、待たせたね。ルカ軍曹。今回の作戦目標について伝達しよう」


 艦橋の後方で待機していたルカに振り返る。


「今回の目標は通信が途絶したソコトラ島司令部、その調査になる。まぁ、インドの司令部も大方何が起きたか把握しているのか、詳しい調査方法については現場に任せると言っている」

「敵の強襲上陸ですか?」

「司令部の予測はそうだね。私達としても、その線が強いと見ている。ただ、一つ気になることがある」


 高野大佐は暫し考え込むような素振りを見せ、一つ咳き込んでから口を開く。


「幽霊艦隊......良くある戦場の与太話の類いだとは思うのだが、アラビア海近辺で詳細不明の艦隊群から襲撃を受けた。なんていう報告が上がっているらしい」

「幽霊艦隊?」

「彼らが言う内容を信じるなら、幽霊艦隊は戦間期から大戦期までを含めた大小様々な戦闘艦艇の寄せ集めらしい」


 流石に細かい艦種までは分からないようだが、それでも一〇〇隻規模の大艦隊だという話だ。ただ、単なる与太話にしては規模が大きい。


 火のない所に煙は立たない。何が裏がありそうだ。


「さて、艦隊の足というのは遅いものだ。この辺りは安全な海域。敵性海域に入るまでは、時間も掛かる。それまでゆっくり休んでおくといい」

「了解。お言葉に甘えさせてもらいます」


 そうして、幾時間か。水平線の向こうに陸地が消えていくのは速かったが、辺り一面青い海模様。現在位置も、進んでいるのかどうかすら不明な航海が続いた。


 ルカは与えられた寝室で一人。退屈に外の景色を眺めていると、小うるさいブザーが鳴り響いた。


『全艦に通達。本艦隊はこれより敵性海域に侵入する。第二種戦闘配置のまま待機せよ』


 艦内アナウンスの直後、自室の内線電話に連絡が入る。


『ルカ軍曹、悪いがここからは艦橋で待機してくれるかい?』

「了解しました。直ぐに向かいます」


 再び急な階段を登り、艦橋へと到着。運が良いか悪いか。ルカが到着すると共に、レーダーが敵の小部隊を捉えていた。


「レーダーに感。数一〇、推定砲艇種(ディアラパクス)。八〇ノットで本艦隊に接近中。会敵予想は五分後です」

「早速か......奴さんも気が早い。第一種戦闘配置を全艦に」

「了解」

「っと、来て早速だが戦闘だ。ルカ軍曹。とはいっても、今回は見てもらうだけになるだろうけどね」


 軽く答礼し、ルカをレーダーサイトの傍まで招く。


「この輝点(ブリップ)、これが敵部隊になる。数は一〇、速度八〇ノット......時速換算一四八キロでこちらに向かっている」

「一四八キロ......凄い速度ですね」


 砲艇種(ディアラパクス)。今大戦において、戦艦と巡洋艦による打撃艦隊が運用される要因の一つだ。


 最高速度八〇ノットで、サイズは一〇メートル程度。海洋種の中で最も数が多く、非常に高い機動性と小柄な体躯を持つ。


 そして何より口から放たれる水圧砲は駆逐艦の装甲を容易に貫通、破断させる。大戦初期では、イージス艦やフリゲート艦の多くが文字通り蜂の巣にされ、船体崩壊を起こして沈んでいったと聞く。


 この艦隊は大和以外の装甲は無いに等しい。どう対処するつもりなのだろうか。


「そう心配せずとも大丈夫だよ。この艦隊には大和が居るからね」


 と、高野大佐は自信ありげな表情で笑みを見せる。


砲艇種(ディアラパクス)、間もなく接敵します」

「よし。主砲砲戦用意!! FCSと連動、弾種サーモバリック!!」

「主砲砲戦了解。全艦に通達、大和はこれより主砲砲戦に移行する。甲板乗員は速やかに艦内へ退避せよ」


 艦橋からでも分かる程の轟音を立てて主砲塔がのそのそと旋回を始める。同時にけたたましい警報音が艦上に響き、甲板上の人員が艦内部へと退避していく。


「ネヴィル君。念のためアレを頼むよ」

「了解しました。フォーカスプロテクション展開。大和を起点とし、全艦と共鳴」


 ドクン、と一つ大きな鼓動音が聞こえたかと思えば、大和を中心として海面を波紋が伝っていく。水面に石を一つ投げたかのような、周期的な波紋だ。


「共鳴、状態良好。異常ありません」

砲艇種(ディアラパクス)、水面下より浮上を確認」

「砲雷長、指命打方。一番主砲射撃用意」

「一番主砲射撃よーい」


 艦最前部の主砲が幾度か動き、ピタリと止まる。


「こちら砲雷長。目標、砲艇種(ディアラパクス)。距離一〇〇〇〇、敵速八〇ノット。弾種サーモバリック」

『誤差修正終わり、いつでも撃てます』

「一番主砲、用意。衝撃に備え」


 数舜、静寂が艦橋を包み込む。


「............一番主砲、よーい......てぇッー!!」


 高野大佐の号令と共に、大和の巨砲が咆哮を猛り上げた。空間そのものを歪めるかの如き激烈な衝撃波が艦橋にまで届き、腹の奥底をぐつぐつと揺らす。


 尋常ならざる衝撃に身を固まらせていると、砲口から登る巨大な黒煙が視界に飛び込んでくる。その黒煙は大和の艦橋を越えんばかりに大きく広がり、主砲の威力を物語る。


「......間もなく弾着......3,2,1、今」


 数十秒経って、砲雷長がカウントダウンを読み上げる。それと共に、遥か彼方の水平線から巨大な光球が沸き起こる。


「レーダー、ソナー共に敵影──いえ、艦隊後方!! 八時の方向に砲艇種(ディアラパクス)と思しき敵影を視認!! 数三、距離二〇〇〇!!」

「潜んでいたかッ!! 全艦隊近接戦闘!!」


 艦隊後方、輪形陣の最外周を航行していた駆逐艦に砲艇種(ディアラパクス)が襲い掛かる。


 砲艇種(ディアラパクス)は水面下より大きく身を乗り出し、瞳の無い頭を構え、身を若干引きつつ口を開く。


 水圧砲の発射姿勢だ。


「主砲射撃用意!! 照準終わり次第撃ち方始め!!」


 駆逐艦の艦長が叫ぶように指令を下すも、一歩遅く。砲艇種(ディアラパクス)の水圧砲が駆逐艦の船体に直撃する。


 本来駆逐艦程度、容易に船体崩壊させうる砲艇種(ディアラパクス)の水圧砲。しかし、ネヴィルこと[アヴァターラ]の率いる艦隊。水圧砲はおもちゃの水鉄砲かの如く弾かれ、水面に溶け消える。


「その程度で沈むと思うなよ......こっちの装甲は大和並みだ!!」


 艦長が叫ぶと共に照準が終わり、全ての主砲塔が一斉射撃を開始。いくら単装砲とはいえ、砲艇種(ディアラパクス)の装甲は皆無。


 近接信管が炸裂し、爆轟と破片に砲艇種(ディアラパクス)の半身が削り飛ばされ沈黙。そのままのっそりと沈んでいき、残骸すら残さず泡沫と消えた。


「流石、便利なものだね。その能力は」


 高野大佐はネヴィルを横目で見やり、ポツリと呟く。


「大和を基準とした装甲強化に、機動力、火力の底上げ。どれか一つしか取れないとはいえ、まるで魔法のような能力だ」

「均衡と秩序の維持。それが私の役目であり、力ですから......新しいモノを生み出しては監督責任も果たさず放置する遊び人や、身勝手にあれもこれもと破壊する邪神とは違います」


 高野大佐はやれやれといった風に首を振る。


「全く、口を開けば彼らのことばかりじゃないか。別段、嫌いってわけでもなさそうに見えるよ、それでは」

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