⑼愚か者の末路とおっちょこちょいな団長様
ライラックの馬鹿は沈黙しました。
今日は、ちょっとおっちょこちょいな団長様とインテリ眼鏡のイケメン副団長様が出てきます。
ではお楽しみください。
「口程にもないんだな…」
嘆息しながら、気を失って倒れ込んでいるライラックを見下ろす。
「この程度でよくS級冒険者を名乗れるな?」
呆れたように言い放つ。
クロトがナムルさんと一緒に駆け寄ってくる。
「リヒト、君剣だけじゃなくて体術使いでもあったんだね」
「うちは昔から体術と刀術を受け継いできた武術の名門だからな」
「そうだったんだ?凄いね」
自分の事のように嬉しそうに話すクロト。
その横でうんうんと納得顔で頷くナムルさん。
そこへ衛兵達がやってくる。
「すまない。我々が不甲斐ないばかりに迷惑をかけた。しかし君は凄いな。君ほどの猛者がまだ世の中に埋もれていたとは」
驚いた顔で言う衛兵達。
「俺はただ友達が貶められた事が許せなかっただけだ」
「リヒト…ありがとう」
嬉しそうに礼を言ってくるクロト。
「当然だろ?」
当たり前だと答える。
嬉しそうに笑い、抱きついてくるクロト。
「ば、一々抱きつくな!俺にそんな趣味はないぞ?」
慌てて引き離す。
そうこうしていると領主の騎士らしき者たちがやってくる。
「なんの騒ぎか?騒ぎを起こしたのはお前か?」
先頭の騎士が俺を冷ややかに睨みつける。
慌てて俺と騎士の間に割って入り俺を庇ってくれる衛兵達。
「違います!アレン・ミラー近衛騎士団長殿!」
「彼は寧ろ何時ものように横暴を働こうとしたS級冒険者のライラックを止めてくれた我々衛兵の恩人です!」
「彼が止めてくれなければ、市民にも被害が及ぶ所でした!」
「そうだそうだ!その兄ちゃんは悪くない!」
「先に剣を抜いて襲いかかったのはライラックよ?」
「それにその兄さんは、ライラックの武器を破壊しただけで自分の武器を鞘に収めとった!」
「その後卑怯な手でお兄さんを傷つけようとしたライラックを、見事な体術で反撃して意識を刈り取っただけよ!」
「何にもお兄ちゃんは悪くないよ?」
衛兵達に続き、現場を見ていたキリリカの街の人達も、俺を庇ってくれた。
困惑の表情を浮かべる近衛騎士団長殿。
「え?違うのか?聞いてたのと違うのだが?」
「だから最後まで聞きなさいと言ったでしょう?まったく…あなたという人は…」
団長殿の背後から現れたインテリ眼鏡のイケメンが、溜息を付きながら言う。
「す、すまない。セイン副団長」
しゅんとする団長殿。
どうやらインテリ眼鏡のイケメンは、近衛騎士団の副団長殿らしい。
大変そうだな〜思わず同情してしまった。
「すみません。うちのおっちょこちょいの団長がご迷惑をおかけして」
「気にしてない。それよりもアイツそのままS級冒険者にしておくのは危険だと俺は思うけど?どうかな?」
「そうですね。ギルドマスターに進言しておきましょう。ギルマスに進言しておけば王都にいるグランドギルドマスターに話が行くでしょう」
「セイン」
「手配しておきます」
優秀な副官みたいだな?この人。
感心しながら、俺は副団長殿を見る。
すると、気を取り直した団長殿が、俺に向き直り頭を下げる。
「先程は申し訳なかった。勘違いで恩人に濡れ衣を着せる所だったよ。本当にすまない」
すまなさそうに、俺に頭を下げる団長殿。
「もう良いって」
未だに頭を下げようとする団長殿を止める。
「すまなついでにお願いがあるのだが、一緒に領主様の屋敷まで来てくれないだろうか?領主様が君に会いたがっておられるんだ。お願い出来ないかな?」
俺の表情を伺うようにお願いしてくる団長殿。
はぁ…しょうがないな。
「わかったよ…付き合うから、立場ある人が簡単に頭を下げるなって」
「ありがとう!恩に着るよ」
嬉しそうに笑う団長殿。
「その前に街に入る許可を取りたいんだけど?」
「まだだったのか?」
「ライラックの馬鹿が割り込んで騒ぐから、審査が滞ってたんだよ」
「そうだったのか。君は我が領の恩人だ。領主様の客人として扱おう。すぐに手続きを!」
「はい!」
慌ただしく衛兵達が動き出す。
かくして俺は、何故か領主の館に招かれてしまった。
ライラックはおそらく降格処分になるでしょうね。
団長様可愛いなぁ〜副団長様は格好良いです。
何か良いよね?こういうコンビ。
次の回はキリリカの領主様が登場します。
ナイスミドルの予定です。
お楽しみに〜!