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33.ある娼館の経営者1


今日もお忍びで貴族の坊ちゃんたちが遊びに来ている。

毎日、お盛んで結構な事だ。

まあ、娼館なんて男と女の欲で経営が成り立っているんだから仕方ない。

それに、うちの娼館は只の娼館じゃない。

一応、高級娼館の一つとして名を馳せてはいるが、羽振りの良い二軒隣の高級娼館とは違って中堅止まりだ。

じゃあ、なにが『特別』なのかというと、うちが国で唯一の『公的機関の高級娼館』だからさ。

これだけ聞けば、なんのことだかサッパリ分からないだろうが、早い話が、政府公認のスパイ施設だ。

娼婦とスパイ。

ピンっとこない奴は多い。

もっとも、一介の娼婦にスパイが出来るのか?って話だからな。

勿論、出来ないさ。普通ならな。だが、ココは欲を売り買いする場所だ。

娼婦たちは娼館に繋がれている。

当然、客も口が軽くなるってもんだ。

うちのお得意様は(もっぱ)ら外交官や使節団の連中だ。外国人のお偉いさんを相手に商売している。その外国のお偉いさんたちが落としていく情報を国に売っているってわけだ。

儲かるのかって?

そこそこ、ってところだ。

外国のお偉いさんは、羽振りの良い娼館よりも、うちみたいな堅実な娼館を好む。儲かっている処は、女の質は良いが、口が軽い連中が多い。逆に中堅の老舗は、店も女の周りも口が堅いんだ。

そのお陰で生き残っているといってもいい。トップクラスの娼館たちの浮き沈みが早いのは、そういった「礼儀」を知らないせいだろう。


よそは兎も角、うちの場合、くいっぱぐれないためには国の協力が不可欠だからな。

なにしろ、商売が商売だ。客から病気を移される危険だってあるし、歳を取れば客なんてつかない。若いうちに身請けしてくれる客でもいれば話は別だろうが、うちの場合、身請けは無い。

だから、最後まで面倒見るのが決まりだ。

仕事が出来なくなったら、他の娼館のように「お払い箱」にはしない。

「引退」はしてもらうが、田舎の施設に入るか、娼館の裏方を仕切るかのどちらかだ。

田舎の施設の場合だと、病院付きの別荘といった感じだ。重い病でも無料で治してくれるし、最新の治療や薬も飲める。ただ、その治療や薬の安全がまだ保障されていないだけだ。

娼館の裏方の場合は、事務や経理、または後輩の指導といったところだな。といっても、裏方にいた奴らも歳を取れば田舎の施設に行くのが大半だ。何時までも健康って訳にはいかないからな、モルモットになると分かっていても、そこに行く奴が多い。

(ごく)まれに、教会でシスターになる女もいるが、それは一握りだ。人間の嫌な面をこれでもかって程見てきた女達は、今更、神様に縋ることはしない。



それに、うちの娼館が『公的機関の高級娼館』だってことは極一部の人間しか知らないことだ。『女スパイの施設』だから仕方ない。

なんでうちが国と連携しているのかというと、娼館を立ち上げた親父がそういう約束を国からさせられていたからだ。


親父は優し過ぎるといえば聞こえはいいが、気弱な性格だった。

恐らく、親父が言いだしたというよりも、政府から要請されたんだろう。


なんせ、俺の祖父の代までは貴族だったんだ。

それが関係してんだろう。

しかも『侯爵』様だったっていうんだから大したものだ。

その伝手で政治関係者とも親密だったんだろうさ。


俺が生まれる前に没落して、爵位も手放さないといけない状態だったらしい。

他の王国貴族同様に、新体制についていけなくて、時世を見る目がなかった。

借金に借金を重ねて、結局、爵位を国に返上する事で、一族の命は保証されたと聞いている。

後少し爵位返上が遅かったら、借金取りに身ぐるみ剥がれて売られていてもおかしくなかったみたいだからな。

どこの筋のもんに金を借りたんだ?

絶対、まともな筋からじゃないのは確かだ。

そんな絶望的な状態で、よくもまあ、国と取引が出来たもんだ。

家を潰した一族だが、それだけは心から凄いと感じる。


俺がまだ家業を継ぐ前、祖父にその事を聞いてみた事があった。

祖父は笑いながら「昔取った杵柄が役にたった」と言っていたな。


意味不明だ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 誰かと思えば、専属の公娼がいた侯爵家さんかぁ そりゃノウハウと実績があるから、交渉しやすいわな
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