表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/37

16.近衛騎士団長2


帝国の軍が駐留する事が決定した。


「どういうことですか!父上!!!」


バカな息子がバカな事を言う。


「まだ理解していなかったのか? お前たちが勝手に破棄しようとしたフリッツ殿下とアレクサンドラ様の婚約は、全てフリッツ殿下の王家内での立場を強くする為のものだった。同時に、王家の求心力を確固たるものにする為でもあったのだ。陛下の寵愛以外に何もない側妃の息子であるフリッツ殿下は、アレクサンドラ様と婚約する事によって筆頭公爵家の後ろ盾を得ていたのだ。

それを自ら放棄して、なんの後ろ盾もない男爵家の庶子と結ばれるように画策した事が何を意味するか、分かるか?

しかも公衆の面前で罵倒し罪を擦り付けたのだぞ?ただの冤罪事件よりもよほど質が悪い。諸外国の要人もそれをつぶさに見ていたのだ。

我が国は信用に値しない、法が機能していない『蛮族』だと認識されている!

各国から国交断絶が相次いでいる状態だ。帝国の『保護認定国』に入らなければ半年も経たぬうちに食糧難が起こる!そうなればどうなると思う?我が国から民が逃げ出すことになるのだぞ!

アレクサンドラ様のご厚意で、我が家も、愚かな我が国の貴族達も罪に問われることは無い。

勿論、その子孫にもなんの累も及ぶことがないように取り計らってくださったのだ!

お前、間違っても勘違い甚だしい逆恨みなどするなよ!!!」


驚愕した表情を隠しもせず黙り込んだ息子は、漸く、自分達がどれほど浅はかで短慮であったかを理解できたらしい。

アレクサンドラ様さえ排除すれば何もかも上手くいくとでも本気で考えていたのだろう。

バカもここまで極められる人間はそうはいないかもしれん。

単純というべきか。

我らは、アレクサンドラ様から侮辱罪で告発されても仕方なかったのだぞ?





一年後、息子は一般兵として帝国駐屯地に志願した。

帝国側はやらかした『ボンクラ息子』と知ったうえで息子を雇い入れた。

まあ、剣術の腕は確かだ。武芸に長けている上に、兵法の理解もある。頭も悪くないのだ。普通にしていたら受かるのだろう。ただ底なしのバカではあるが。

駐屯地から他国での戦争で派遣される可能性もある。

あのバカ息子に軍人が務まるのだろうか?

近衛騎士団団長としては怪しいかぎりである。

独りよがりなところもあるし、感情的になりやすいし、協調性に欠けているし……いかん、挙げればきりがない。

息子なりに考えがあるんだろう。


私としては屋敷で何時までも軟禁し続けることはできないと実感していたので渡りに船であった。

バカ息子は幾たびも屋敷を抜け出そうとするのだ。

何を考えているのか。

抜け出して何処へ行くつもりなのか。

放置して何かことを起こされても困る。

そうなる前に『事故死』または『犯罪に巻き込まれての死』が待っているだろうがな。

帝国軍に揉まれて人として成長してくれることを願うしかない。

真実バカな息子なので、帝国軍も使い捨てにはせんだろう。






その数年後、息子は帝国軍で頭角を現すこととなる。

裏表のない性格が好まれたようだ。

軍に忠誠を誓い、身を粉にして働く息子は上司から可愛がられ、瞬く間に出世していった。

軍の派閥争いにも、権力抗争にも巻き込まれないように周囲の人間が気を配ってくれたお陰だろう。


「嘘偽りのない私の言葉と行動が上司らからの信頼を勝ち得たんです!」


快活に笑いながら言う息子に、私は何も言えなかった。

一皮むけたと思ったのは間違いだった。

息子は何も変わっていない。

変わったのは周囲だ。

周りの人間がよければ息子は愛され出世できるのだと、やっと理解できた。

ある意味、息子は使いやすい駒だからな。


ニコニコ笑いながら肉に齧りつく息子を見る。

……愛すべき駒でもある、と納得した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] これ、親父さんが悪いよな・・・ 自分の息子を馬鹿だと気付かずに、当たり前の事を教えなかったのはマズいわ
[一言] 帝国では上手くやってる事も見るに、この家に関しては知らずにやらかした子供より、宰相に同調しといて今更後悔してる親の方が駄目なんじゃないかなこれ
[一言] 素直で上官の命令に疑問を持つ程の知恵も無いから使いやすいって?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ