14.筆頭公爵
まさか王太子殿下が、これほどまでに愚かだったとは。
そこに自分の息子も加担している事に嘆くしかない。
どうして庶子の自分が『跡取り』と勘違いしていたのか理解に苦しむ。
理由はアレだ。
コーリアが原因だろう。
伯爵令嬢にも拘らず、貴族らしからぬ女だ。
まあ、そこが気に入っていたともいえるのだが。
若かったのだ。
頭の弱いバカな女に癒された。
飛びぬけた美貌の女でもあったのも惹かれた一因だ。
美しく弱く非常識な女が“他とは違う”と感じて愛した。
私も息子の事をとやかく言えた義理ではないが、アレと違って分別は持っていた。身分的にも、素質的にも、決して正妻には出来ない事は理解していたのだ。だが、囲い者には最適な女だった。コーリアの実家も喜んで娘を引き渡してきたところからも、コーリア自身が下位貴族の妻にもなれない貴族令嬢としては落第だという事を嫌というほど理解していた。
貴族令嬢の作法は出来ていたが、一般常識が無かった。
基本、家を取り仕切るのは妻だ。
その事からも、コーリアは無能の一言に尽きた。
だが、それでよかったのだ。コーリア自身も「愛される女」で居続けることを望んでいたのだからな。
恐らく、男爵令嬢もコーリアに似通った女なのだろう。
コーリアは伯爵令嬢にも拘らず甘やかされて育てられた女だった。
跡取り息子に恵まれ、嫁ぎ先要員である娘にも恵まれた伯爵夫妻。
年を取ってから出来た末娘は大層可愛かったのだろう。上の子供達には貴族として厳しく躾けたのに、コーリアだけは甘やかしている。
家のためになる子供達が既にいたからだろう。
まるでペットを可愛がるかのように溺愛していた。
いっそのこと、室内ペットでも飼えばいいものを、と思うが、伯爵夫妻は大の動物嫌いだった。
恐らく、コーリアはその代わりだったのだろう。
本人達は否定するだろうが、客観的に見ればそうとしか思えない。
コーリアは自由な女だ。
世間知らずで、甘え上手。
楽しい事が好きで、努力することを知らない。
贅沢を好み、毎日を楽に面白く過ごすことを望んでいる。
男爵令嬢は更に質が悪い。
婚約者のいる王太子殿下に擦り寄るのだからな。
そんな女を正妃にする?
正気の沙汰ではない。
今回の一件は諸外国でも物議を醸している。
失われた信頼を取り戻すことは不可能に近い。
なにしろ、騒ぎの原因は次代を担う若者たち。
いずれ我が国のトップに立つ王太子殿下とその配下だ。
彼らが跡を継げば我が国が滅ぶ。
今でさえ、各国から絶縁を言い渡されている状態だ。
殿下達はアレクサンドラが目を覚ましたらなんとかなる、と思っているようだが、事はそんな簡単ではない!
あの国が動く……。




