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10.男爵夫人


「あぁぁぁ~~~~~~~~~っ!!! 男爵家は終わりだ~~~~~~~~~っ!!!」


先ほどから夫の嘆き声が煩くて仕方がないわ。

夫が外で産ませた娘。

その娘は先日嫁いでいった。


諸々の厄介ごとを残して。


王太子殿下を始めとした高位貴族の子息の多くを誑かしたのだから当然だけど。

子育てとはまったくもって難しい事を痛感させてくれた。

環境を整えて、正しく導かなければ道を踏み外すことになってしまう。

あの私生児(ミリー)を反面教師として我が子を育てていこう。何事も最初が肝心。最初を間違えると、とんでもない結末になるのだから。修正が出来れば良い。けれど、それが出来なかった時は判断を誤らずに速やかに退場させなければ、今回のような悲劇が起こってしまう。


悲劇は今も継続中なのだから。



「これからどうすればいいのだ~~~~~~っ!ああ~~~~~っ!!!」


夫の嘆きは止まらない。

これからも止まらないでしょう。

デル男爵家の取り潰しは決定事項。

アレクサンドラ様に危害を加えた悪党一派の実家なのだから当然の結果でしょう。トカゲの尻尾切りと理解していても、やるせなさは残るもの。


私生児の少女は最初から酷かった。

これで貴族の娘として生きていくつもりなのか、と何度思った事か。夫の神経を疑ったのも一度や二度ではない。


初対面の時から、態度も、身のこなし方も、話し方も、最低ライン。品というものを知らないに等しかった。貴族令嬢としてのマナーは学んでいると聞いていたものの、その成果は全く見られなかった。

それもそのはず。

少女自身にやる気がなかった。


やる気のない人間に、やる気を起こさせるのは極めて難しいこと。

これが幼い子供なら兎も角、分別がついている年齢に、それを施さなければならない事は多大な労力を弄したことでしょう。雇った家庭教師の皆さんには大変な思いをさせてしまったわ。

せめて基本のマナーだけでもと思って雇い入れた家庭教師たち。

結果は、思った通り。進歩は無かった。理解していたため失望もない。逆に、こんな面倒な生徒を受け持った家庭教師に同情したほどだわ。にも拘らず、夫は少女を貴族専用の学園に通わせるという暴挙に出たのだから、開いた口が塞がらない、とはこの事を言うのだろう。

何を考えているのだろうか、と内心溜息が出た。


夫曰く、「本物の淑女を見れば参考にして出来るように頑張れるだろう」ということであった。


私には他人であっても、夫にとっては実の娘。

それとなく教育課程の進行具合を伝えていたのだけれど、ちゃんと聞いていたのかしら?

基礎の基礎が出来ていない少女を学園に通わせたところで恥を曝すだけだとどうして思わないのか。





「あなた、ミリーは貴族令嬢としての素質に欠けています。学園の授業にもついていく事は出来ないでしょう」


夫に忠告を幾度となくした。

一般教育ですら厳しい状況であるということを。

本人に貴族としての適性がないということも話して聞かせた。


しかし、夫が首を縦に振ることはなかった。


「大丈夫だ。お前は心配性だな」


終始、楽観的だった。


「な~に、少々作法が出来ずともあの子には愛嬌がある。寧ろ、皆から可愛がられるんじゃないか?」


どこの愛玩動物だろう。

犬猫ではないというのに。


「それに、あの美貌だ。高位貴族の目に留まるやもしれん」


本音はそっちですか。

確かに、少女は美しい。夫に似なくて良かったと胸をなでおろしたほどです。


「上手くすれば伯爵夫人ぐらいには収まるかもしれないんだぞ?」


どんな夢を見ているんです!

あの子の美貌に目が眩んだ子息はいても、結婚は家同士の関係がものをいうのですよ?

家政を任せるどころか、礼儀作法もまともに出来ない令嬢など誰も選ばない。高位貴族の愛人クラスが関の山です。学園で何かやらかさないかが心配で仕方なかった。


心配は的中してしまった。


よりにもよって、王太子殿下を誑かしていたとは。

ヘッセン公爵令嬢を罪人に仕立て上げたと聞いた時は、心臓が止まるかと思った。


貴族の末端である男爵家の娘を正妃にする?

なんの冗談ですか!男に媚びる事しか能のない娘になにが出来るというのです!



侯爵家があの娘を買ってくれてよかった。


私は子供達を連れて実家に帰らせていただきます。

勿論、侯爵家から頂いた()()()()も一緒にね。


もう二度と会う事は無いでしょうけれど、貴男、さようなら。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 男爵夫人はかなりまともな感性の持ち主だったのですね……
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