第68話 極封印
「ウォル・・・・・」
私はそっとウォルを押してウォルから離れた。
ウォルは名残惜しいかのように抱きしめていた腕をゆっくりおろした。
「この迷いの森は誰も入れてくれなかったよ・・・・・・・・・アリス王女様も魔術騎士団もアルク様もみんな何度入っても森の外に出てきた」
「君は、勇者のこの子の何かを持っていたんだね」
拓哉さんがウォルに話しかけた
私の物?
「・・・・・あ!ピアス」
「みんな追い出されるのに、ハナとライト様は出て来ない。この2人が大丈夫ならって思って、ハナからもらった魔力の結晶を少しずつ解放したんだ」
「なるほどね。この森は君を勇者と認識したんだね。でも君がここに来た事で、勇者の気持ちが揺らいだらどうするの?この世界を救って欲しくて、この子達を召喚したんだろう?」
拓哉さんはわざとにウォルを怒らせる言い方をする。
「拓哉さん!」
「だって君のお友達も言っていたじゃないか?この世界の人達は勇者を召喚してまた魔王を作っていると」
「でも、この世界の人達は誰もその事実を知らない!」
「本当にそうかな?」
「拓哉さん、私達がいなければこの世界のみんな滅亡してしまうでしょ!?それを嫌だって言ったじゃないですか」
拓哉さんの赤く鋭い瞳はウォルを見つめたまま離さない。
「私も嫌です!ウォルの世界を守りたい」
ウォルはその場に土下座をした
「ウォル!?」
「おねがいします!ハナをハナを魔王にしないで下さい。そのコアはこの世界に置いていって下さい。我々でなんとかします!出来なければ滅亡をみんなで選びます。だから、だからハナを魔王にしないで下さい。そして、先祖に代わり謝ります。あなたを魔王にしてしまった事をこの過ちを絶対に忘れません。」
ウォルの瞳から大粒の涙が流れていた
拓哉さんの赤い瞳にうっすら涙が見えた。
「良かった。僕達の事をただの道具だと思っていなくて、500年を費やした価値はあったよ。」
拓哉さんはウォルに
「さぁ、立ちなさい。結果は変わらない。これが現実なんだよ。僕もあの子も滅亡を望まない」
そうだ拓哉さんだって高校生なんだ。怖くないはずがない。今から自我がなくなるかもしれない。急いで解放しなくては、コアを取り出すのに苦労する。
ウォルが
「他に方法はないのですか?」
「あるなら、何千年も同じ事を繰り返していない」
・・・・・・・・・ん?
ちょっと今何かが引っかかった。
なんだろう。
「拓哉さんが言うとおり。私もそう思ったから誰にも言わなかったし、知らなければ誰も傷つかない。だって、結果が変わるわけじゃないのだから」
ずっと黙っていた雷斗が、
「何かもっと足掻いてみないか?俺たちは何で2人で召喚されたんだ?」
あっ!それだ。
「何千年も同じじゃない、今回は私達2人で来た」
「確かに」
拓哉さんは何か考えている
雷斗の顔色が戻って行く
「何か意味があるかもしれない」
拓哉さんが
「ここに来る時に聞こえた声って誰の声だった?」
「特殊能力くれたやつか?」
「よく覚えていない。でも私達それぞれに特殊能力をくれた」
「この世界の人じゃないなら、我々の世界で1番近い言葉は『神』的な存在なんだろう」
この世界を滅亡させたいのか、救いたいのか。
「・・・・・・・・・っ!」
拓哉さんから禍々しい空気が強くなった!
「拓哉さん!!」
「早く結界を勇者以外この空気に触れてはだめだ!」
「雷斗!ウォル!結界を張って!」
私は2人に結界を張らせた。
「拓哉さん時間がないのですか?」
私は拓哉さんに触れてもなんともない。
私が魔物にならないのは、勇者だから?次の継承者が魔物になれば、封印できない。勇者ってなんなのかな
「すまない。気が緩んだようだ。どちらにしても、時間はないようだよ。自我を失えば、瘴気を世界中にばら撒き多くの魔物を生み出してしまう。君達の結界では1日と、もたないのだろう?」
この世界の魔法が廃れているのを知っているんだ。
「ウォル、ずっと話しを聞いていたんでしょ?私がしたい事わかるよね?」
私はウォルが見れなかった。
「雷斗、必ず同じ時間に帰るから私を信じて」
雷斗を見た。
雷斗は頷かない
「ハナに嫌われても俺にはできない」
私は雷斗に近づき両手で顔を挟むように頬をバチンと叩いた
「私以外に雷斗を元の世界に返せないの!今帰らないと雷斗は500年後生きていないでしょ?それに私が帰った時に雷斗がいなかったら私は自分が許せない!雷斗の両親に何て言えばいい?私は謝って生きていくの?」
雷斗は
「足掻きたい・・・・・でもハナを苦しめたくない」
「雷斗、その気持ちだけで十分よ」
私は雷斗を見て、優しく微笑んだ。
「ウォル・・・・・・・・・ごめんね。私のわがままを聞いて、この世界を滅亡させたくない。私は必ず500年後、元の世界に帰るから。今から雷斗が少しだけコアを攻撃して時間を稼ぐ、コアを私が封印するまで時間を稼いでくれないと雷斗を返せない。手伝ってくれない?」
私はやっとウォルを見た。
ウォルは
「私は予知夢を見れた。1度も外れた事はない。叶わない夢は見ない。」
「ウォル?」
「この場所を予知夢で見てはいないが、ハナの言うとおりにする。ハナが魔王になる前に何か手立てがあれば、私は足掻くよ。それはいいよね」
「結果は変わらないよ?」
ウォルは私に優しく微笑んで
「さよならじゃない。また君に会える。その時はもうハナを離さない。」
ウォルは私を見つめて私の手を握った
「ハナを愛してる」
私はウォルを見つめたまま何も答えなかった
拓哉さんが苦しそうに
「時間をあげられなくて・・・・・ごめん・・・ね。あの子達を呼んでくれるかな」
「魔物のダイとショウ?」
「君は名前をつけたのかな、ふふっやっぱり君は今までの勇者と違うみたいだセンスはないけどね」
拓哉さんは苦しみを抑えながら笑った。
私は扉の外で待つダイとショウを呼んだ
「ダイ!ショウ!魔王様が呼んでる!!」
『魔王様!』
『君達とお別れの時が来たよ。長い時間一緒にいてくれてありがとう。寂しくなかったのは君達のおかげだ。君達は僕の家族だったよ』
『こいつらが魔王様に何かしたの?俺たちがこいつらを追い出すよ!』
『違うよ。私の中の悪いものを倒してくれるんだ。だからこの人達を襲ってはいけない。わかるね?』
ダイとショウは悲しそうな声を出した
『魔王様・・・・』
『私がいなくなったら君達は普通の動物に戻るから、森で仲間達と仲良く暮らすんだよ。ここは危ないから扉の向こうに行きなさい』
拓哉さんは2匹に別れを言うと外に連れ出した。
「ありがとう・・・じゃあ勇者よ・・・・覚悟はいい・・・かな」
拓哉さんは限界が来ている。拓哉さんを纏う空気が紫色から黒色に変わって来ている。
「覚悟したから、ここにいます!」
私はウォルからもらった異世界召喚の魔法陣の紙を出して手に取った。
召喚と物質移動は魔法陣が微妙に違う。しかも異世界となると・・・・・覚えれるかな。
「これを見て違いだけを確認すればいい」
「ハナ?魔法陣を覚えるの?」
「うん。拓哉さんが帰る時に魔法陣が出るから一瞬で私は覚えれないからウォルに異世界召喚の魔法陣を教えてもらったの」
「じゃあ私が手伝うよ」
私から紙をもらい、ウォルは魔法陣を頭に叩き込んだ。
「ハナいいよ。いつでも魔法陣出して」
「うん」
「雷斗!時間作ってね」
雷斗は頷いた。
私は部屋全体が金色に輝くほどの光りを放ち詠唱する
『極封印』
光りは一気に拓哉さんの胸元に向かう。
拓哉さんは光りに抵抗することはなかったが拓哉さんの周りの空気は光りを跳ね返そうとして、拓哉さんの体の周りはバチバチと音がする。
「うっ・・・・・・・・・!!」
拓哉さんは苦しみ出し、その苦しさに耐えきれず意識を失って後ろに倒れそうになったが、私の金の光りが、拓哉さんを囲んで拓哉さんを支える。
「来る!!!!!!」
私は雷斗に合図した
雷斗は地面から剣を召喚していた
「2人とも直接コアに触れないで!必ず結果を盾にして!」
金色の光りはより一層耀き目の前が見えなくなりそうだった。
拓哉さんの体から真っ黒な球体が出てきた・・・・・・
これが魔王のコア
拓哉さんの足元に魔法陣が浮かんだ!
私は魔法陣を見たが、
コアは近くにいた私めがけて飛んできた。
もう!覚えれないじゃない
「ウォル!覚えて!」
「ハナ!もう大丈夫覚えたから」
もう?
スパン!!
雷斗がコアを真っ二つに切った
え!?
「コアって切れるの?」
コアは半分になって地面に転がった。
「ハナ!油断するな!コアは再生する」
コアを見ると2つに別れたコアはまた1つになった。
「ハナ離れろ!」
雷斗はコアを逃さない
何度もコアを切る・・・・・・・・・
拓哉さんは魔法陣の光りに包まれて
この場所から消えそうになっていた時
扉からダイとショウが入って来た!
『魔王様!離れたくないよー』
私は、はっとした!
『ダイ!ショウ!危ない』
私の手が届くより先にコアがダイの体に入ってしまった!
「イヤーーーーーーーーーーーーっ!!」




