第67話 無限ループ
「ハナ・・・・・これはいったいどういう事なんだ?」
雷斗がやっとの事で声を絞り出した
でも現実と向き合えず、思考回路は止まっているようだった。
「僕も聞きたい。この時代の勇者は何故2人なのかを」
魔王も聞きたい事があるようだけど
「前勇者様、それとも魔王様?なんと呼んだらいいのでしょうか?」
「拓哉・・・・・・前の世界の名前だよ」
「拓哉さん・・・・・」
「ハナ!ハナ!!その人が前勇者なら、500年も前の人だろう?何でそれが今は魔王なんだ?目の色も赤く、纏っている空気も明らかに魔王なのに、何故俺たちの世界の制服を着ているんだ?」
私は雷斗の質問には答えず
しーっと人差し指を唇にあてた。
拓哉さんに振り返って
「拓哉さんの前の勇者様は拓哉さんが魔王を継承した後、元に世界に帰ったのですか?」
私が1番知りたい事
雷斗の顔はどんどん青くなる
「継承・・・・・」
「多分、確かめる事はできないけど、『奥義』を発動した後、間違いなく魔法陣が浮び、光の中に消えて行ったよ。」
「そうですか、拓哉さんは怖くないですか?」
「怖くないと言ったら嘘になる。もしかしたら、元の世界に帰れないかも、同じ時間に戻れないのかも、会いたい人に2度と会えないのかも。いろいろ考えたよ」
「500年の間は眠りにつくのですか?」
「あぁ、そうみたいだね。500年経っている自覚はないけど、この世界を魔物を使って確認したけど、全く違う世界のようだったよ」
「私がここにたどり着くまでに、召喚されるまで数年、召喚されても数カ月かかりました。その間ずっと魔物を抑えてくれてたのですね」
「でも、僕の精神はもう限界を迎えそうだった。君達が間に合って良かった」
「魔物はどうして生み出されるのですか?」
「僕の中にいるコアが封印を解こうとして、力が発散されると近くにいた動物達が魔獣として変化して行くんだ。だから、なるべく抑えていたし、魔物達にも言葉が通じるなら人間に近づかないように教えて来た。でもそれでも人間を襲う魔物は生み出されるんだ」
拓哉さんの赤い瞳はとても悲しそうになった
「拓哉さんは前の勇者様とお話し出来ましたか?」
「そうだね。僕は早く『奥義』を理解できたから話す時間は作れたけど、僕の前の勇者は10年かかったみたいで、もう魔王に自我はなかったそうだよ」
横で聞いていた雷斗は顔面蒼白になっていたが、今は目が充血して今にも泣きそうな顔になっている
「お願いだ!ハナ!わかるように説明してくれないか・・・・・・・・・」
「隣の男の子に何も言わなかったの?」
「言えば、何か変わりますか?この無限ループが終わらないのでしょ?」
「ハナ、『奥義』とは?」
「『奥義』は私のこの身で魔王を封印する『極封印』を取得したの。ウイルスに強く体感対応のこの体にしか封印できないほどのコア。」
「君はどうして、魔王が前勇者だと思ったの?」
「文献には勇者は元の世界に帰ったとあったので、きっと魔法陣が出たと思ったんです。でも500年後必ず復活する。極封印を覚えた時にコアが恐ろしいウイルス体だとわかったんです。なので、元の世界に帰ったのは、前々回の勇者様で、今の魔王は前勇者なんだと。確証はありませんでしたが、ビンゴですね」
「ハナ、俺にはわからない。ハナは500年後に魔王になるのか?」
雷斗の瞳から涙が出て止まらない
「拓哉さんが今封印してくれている魔王の核を500年封印してくれた。でも500年で勇者の魔力は切れる。魔王の核が徐々に体を乗っ取って行くの。そうして魔王は誕生するの。新しい勇者が次に封印する。私は500年後に魔王になる」
「嘘だろう。この世界の人は何をしているんだ!勇者を召喚して、次の魔王を生み出してるだけじゃないか!」
「君の言う事は、もっともだね。だけど誰もこのコア・・・核に触れない。そして前勇者だと気づけば
、攻撃さえ出来なくなる。次の勇者を召喚しなければ、この世界の人は1人もいなくなる。世界が滅亡する」
「僕は滅亡を選ばせたくなかった」
拓哉さんの赤く鋭い瞳と私は目があった。私も同じ気持ち
「私もです」
「だから、アルク様やウォルを連れて来なかったのか?じゃあ俺は?俺が魔王になる!」
「雷斗は魔王になれない。わかるでしょう?『極封印』を取得できないし、核に触れた瞬間雷斗の体はウイルスに侵され、死んでしまう」
「俺にハナが魔王になる瞬間をただ見ているだけなのか?」
「拓哉さんから核を取り出した瞬間魔法陣が出るのなら、拓哉さんは元の世界に帰れる。でも一緒に雷斗を返したら、拓哉さんの時代に行くかもしれない。だから一瞬私に取り込む前に雷斗にコアを攻撃して時間を1分でいい30秒でもいい時間が欲しい。拓哉さんの魔法陣をみたいの、雷斗が帰る魔法陣を作るから。時空を越える物質移動を発動してみせる。その時間を作って。ある程度の魔法陣はウォルから教えてもらってるの」
「俺だけ帰るのか?嫌だ!絶対に嫌だ!」
「大丈夫!うまく行けば、私は500年この世界にいるけど、次の勇者が来てくれれば、私も雷斗と同じ時間に帰れるはず!雷斗と一緒に帰った事になるじゃない?」
「そういうことじゃ・・・・・・」
扉が
バンっ!!!!!
と開いた。
3人が一斉に扉の方を見た
え?
「ウォル?」
「ハナ・・・・・・嘘だといってくれ」
そこには気力のないウォルが立っていた
「何で?ウォルがここにいるの?どうやって来たの?迷いの森は抜けれないはずでしょう?」
私の質問は聞こえないようだった。ウォルはただ私だけを見つめて、私の側に近寄って私を抱きしめた。
「ハナ・・・・・」
「ウォル・・・・・・」
ウォルどこから聞いていたの?




