第57話 真実
今日はハナとアルク様が魔物に会いに行くというから、シェリーを派遣した。
シェリーならば、そこそこ腕が立つし問題なく村を守るだろう。
アルク様がいるとはいえ、ハナは大丈夫だろうか、無茶はしていないだろうか。私が一緒に行けるなら行きたかった。でも私が行けば王女様のハナへの扱いがもっと酷くなるかもしれない。無事に元の世界に帰ってくれるなら今のこの不安も耐えれるが。
バチン
邸の結界に式があたった。
「村からの返事だ。」
私はすぐに結界を緩めた、1羽の白い蝶が、部屋まで飛んできた。
私の手のひらに蝶が止まると、蝶はただの紙に戻った
「『ハナ様達は無事に村に戻って来ました』そうか良かった。」
私はその伝言を読んで心から安堵した。
安堵したのもつかの間で、
バチン
また結界に式があたった。
もしかしたらハナからかもしれない。シェリーに多めに式の紙を渡しておいて良かった。
私は結界を緩めようとした瞬間、部屋に虹色の蝶が舞いながら入って来た。その蝶は間違いなく私の式なんだとわかるのに、とても優雅に虹色の光りを周りに散らしながら私の手のひらに舞い降りた。
え?
結界をすり抜けた?
手のひらに舞い降りた蝶はその姿を惜しみなくただの用紙に変化させた。
『ウォル、私がこの世界に召喚された時の魔法陣を知っていたら教えて欲しい ハナ』
色気も何もない内容だけど、ハナが私を頼ってくれた。
それが何よりも嬉しい。嬉しすぎて今すぐハナに会いに行きたい。
そんな感情にずっと浸っていたいけど、私の式がハナの魔法色に染まっていた?その事が気になってしまう。
何故?私の式に魔力を少し入れなければ、飛ばない。それにしても、それだけでハナの虹色がつくだろうか。
まずい、王女様に見られていないだろうか。
城に王女様の様子を見に行くべきか?
しかし行ったら逆に怪しまれるかもしれない。
私がどうすれば1番ハナにとって、最適なのかを考えていたらまたしても結界が反応する
今度は式ではない
パキーーーン
結界が切れた?
次の瞬間目の前が金色で視界を遮った。眩しすぎて目を腕で覆った
「・・・・・・・・・なっなんだ!」
光りがスーーッと消えた後で
私の部屋に現れたのは、シェリーと・・・・ライト様?
「え?ライト様が結界をすり抜けて『瞬間移動』してきたのですか?」
私の結界をすり抜けるとは、勇者として、成長したんだろう。
「どうしてシェリーと一緒にいるのですか?シェリーは村にいたのですが。」
私の質問に2人は放心状態・・・・というか、想像外で返事に困っているように見えた。
「あ・・あぁ。俺は今日から王女の許可を得てアルク様の下で訓練する事になったんだ。」
「それで、シェリーを連れて来てくれたのですか?」
「すまない。本当は玄関先に『瞬間移動』したつもりだったんだが、手違いで邸内に入ってしまった。」
「それはかまいません。ライト様は魔力を高められたのですね。私の結界をすり抜けるとは、勇者様しかできない事です。」
その言葉にライト様は驚いた顔をした。
「・・・・・・そうなのか?」
「えぇ、私の結界を破った人は今まで1人もいません。」
ライト様は驚いた表情をしたまま固まってしまった。
なんなんだ?成長を褒めたつもりだったが、様子がおかしい。
「ライト様、お茶でも飲んでいって下さい。」
ライト様はハッと我に返り、
「いや、すぐに村に帰る。ウォル、またな。シェリーも」
今までずっと黙っていたシェリーが
「全てご報告をなさって下さい。」
「あぁ」
ライト様は魔法陣を出して『瞬間移動』で目の前から消えた。
シェリーはライト様がいなくなった瞬間に膝をつき、メイドではなく、影の使者として報告する
「主、重大事件です。結界を頑丈にお願いします」
シェリーに言われ、いつも以上に頑丈な結界を邸に張った。
「どうした?」
シェリーは躊躇なく答える
「ハナ様が本物の勇者様です」
「は?」
「間違いありません。その事実はアルク様しか知らないようです。そしてハナ様は『奥義』を習得しています。お二人の会話ですので、間違いありません。」
シェリーは誰よりも耳がいい。魔力で聴力を最大限で聞く事ができる。周りに魔力を使っていることがバレなければ隣の部屋での会話も普通に聞き取れる。
そのシェリーが言うから間違いない。
「ハナが勇者様?嘘だろ?・・・・・・」
シェリーは何も答えない。
私が自問自答しているのがわかっているから。
次の指示待ちをしている。
「ハナが勇者なら、ライト様は勇者じゃないのか?だったら何故私の結界を越えれたんだ?」
「恐れながら、発言いたします」
「何だ?」
「私達がここにライト様の『瞬間移動』で戻って来たのではありません。私達をハナ様が『物質移動』で送ったのです。主に心配かけたくなくて、玄関先に送る予定だったのですが、初めての魔法で手違いで部屋の中になったのかもしれません。」
「ハナが勇者・・・・・だから、私の式が虹色に染まったのか。」
ならば、ハナのお願い事は、魔王を倒す何かに関係する事なのかもしれない。
「シェリー!王女様のところに行く。シェリーはまた村に向かえ!村の外から中の様子を確認してくれ。アルク様に気づかれないように。」
「はい。承知しました。」
私が部屋を出ようとすると
「ウォルト様!お待ち下さい」
シェリーがメイドとして、話しかけて来た。
「ハナ様がウォルト様に贈り物があります。預かって参りました」
シェリーは袋に入った物を差し出した。
「中身は『ミサンガ』というものらしいです。ハナ様の世界の物らしく、手首か足首に願いを込めてつけると願いが叶うそうです。願いが叶う時、それは切れるそうです。」
ハナが私のために?
「ありがとう」
私は泣きそうになりそうな気持ちを抑え、ハナからもらったミサンガを袋から出した。
「素晴らしい」
私はすぐに腕につけた。
「ハナが無事に、元の世界に帰れますように」
そう言って私は腕につけたミサンガにキスをして自分の魔力を込めた。
必ず願いが叶うように・・・・・




