第44話 特殊能力
私は愕然としたけど、それは帰れないと思ってしまったから。
あの夕日が見える高台に2度と行けないかも。お父さん、お母さん、それに友人達に2度と会えないかもって頭をよぎった。
愕然とするには十分な内容だったと思う。
『奥義・・・・・・』
何よそれは!
自分達に関係ない世界に来て、この世界の為に雷斗は頑張って、それでも未来に今、希望が見えないなんて。
「雷斗は訓練をこのまま続けるの?」
「ハナ?そのつもりだけど、そうしなければ俺は強くなれない。」
「雷斗、文献にも載ってない。この世界の人間が誰も奥義を知らないのに、どうやって奥義が備わるの?そんな状況をだらだらと過ごしたくない。早く元の世界に帰りたい。」
アルク様は凄く不思議そうに私を見る。
「ハナさんは何か考えがあるのかな?」
雷斗には言いたくなかったけど、
「魔王が魔物を生み出しているって聞いた。魔王を早く倒さなくてはどんどん魔物が増えるんでしょう?それこそ害のない魔物さえもどんどん退治されてしまう。時間がかかればかかるほど、罪のない生き物が殺されてしまう。」
雷斗は言いづらそうに
「それはそうだけど、奥義がなければ、魔王の森にさえ行かせてきたもらえない。実際、魔物にやられた人間がいるのも事実だよ。」
「わかってる。人間も同じ、罪のない人達が魔物にやられてしまっている。恐怖に終わりがないないなんて知ったらみんな絶望してしまう。私もウォルの家で、魔王について少し勉強したから。『何も聞こえなければ』私もどんどん魔物を殺して行く事に抵抗がなくなっていったかもしれない。」
「何も聞こえない?」
雷斗はその言葉を拾った。
「雷斗は勇者として頑張っていたから。あんまり話したくなかった。雷斗には私の言葉が届かないって思ったから。それにあの王女と基本的に合わないし。」
アルク様は悲しそうな顔をする。
「ハナさん。本当にすまない。でも王女様は国を大事にしている。そのために自分の気持ちも押し殺して来たのも事実なんだよ。」
「そうだろうけど、最初は雷斗に全く会わせてくれないだけじゃなくて、私を城からポイって追い出すつもりだったんだよ。ウォルが拾ってくれなかったら私は今頃どうなってたか。」
「ハナ!そうだったのか!?ウォルの家に行ったと、わかっていたが・・・・」
「えっと、ごめんね雷斗。心配させる言い方は大げさだった。私は多分どこでも生きて行ける。あの時ウォルが拾ってくれたおかげで、自分の魔法に気づけたし、ウォルの家は凄く居心地が良かったの。しかも、この村も大好き。みんな優しくて、ちゃんと働いてお金も頂いてるんだよ。」
「ハナさん、お金も最低限度しか頂いてないでしょう!ハナさんの商品ならもっと利益は出せるし、今も貴族の方からたくさん頂いたお金も必要以上はすぐに孤児院や医療施設などにすぐに寄付しているし。」
「んー。だって、私が貯蓄しても使い道ないし。雷斗とすぐに元の世界に帰るから、生活する上で必要なお金だけあれば十分です。」
私はニコッと笑った。
アルク様は欲のない私にいつも心配する。
「女性なら綺麗な服やアクセサリーを買いたくないのかな?」
アクセサリーはこのピアスで十分だし。
「服は裁縫魔法で、好きな洋服作れるからいらないですよ。」
「ハナは、裁縫魔法?っていうのが使えるのか?」
そろそろ限界かな?雷斗に特殊能力について話さないといけない。
私は真剣な顔つきになる。
「雷斗はこの世界に来る時に、もらった特殊能力は『ハナを守る力』だったよね?」
「あぁ。」
アルク様が驚いて
「え?勇者様の特殊能力はハナさんを守る力なのですか?」
「そうだけど、アルクさんは何かわかるのか?」
「いえ・・・その内容だと・・・・・」
アルク様は考え出した。
「雷斗、私もこの世界に来る時に特殊能力はもらってるの。」
「うん。ハナは何をもらったの?」
「私は、『共通言語・体感対応・ウイルス拒否・ギフト』をもらった。」
「ギフト?」
やっぱり雷斗にギフトはなかったんだ。
「好きなものもらえたんだと思う。その時に考えてた事が魔法になった。『生活魔法INFINITY』生活に関するものなら何でも魔法になるの。」
「それで、裁縫かぁあの道標もだろ?」
「うん。そして一番驚いたのが、共通言語ってこの世界の言葉だと思っていたんだけど。」
私は凄く言いづらかった。これを知ったら雷斗は魔物が倒せなくなるかもしれない。
でも話さなければ、きっと何も始まらない。
「私は魔物の言葉がわかるし、魔物と会話できるの」
「え?・・・・えーーーーーーーー!?」
そうなるよね。
「それアルクさん知ってた?」
「はい。それに・・・・・ウォルト殿も」
「でも、雷斗入れてその3人しか知らない。」
雷斗は難しい表情になった。
「本当は雷斗が王都に帰ってからアルク様に話そうと思っていたんだけど・・・・・・さっき村に来た魔物とも実は話したの。」
「ハナさん!なんて危険な事を。次に話す時は私と一緒にと言ったよね!?」
「アルク様ごめんなさい。でも、鉱山に魔物達が向かってたし、それに気になる会話を魔物達がしてたから、つい話しかけてしまったんです。」
「気になる会話?」
「魔王の話しをしていました。しかもその魔王は私が思っている魔王のイメージと違ったんです。今までの歴史は魔王が悪い生き物だから倒したんですよね?」
「あぁ。人は襲われ町や、村は崩壊していったと文献では残されている。」
「その事実を否定しませんし。魔王を倒さなければ私達は帰れない。魔王を倒すって事はこの世界の人達にとって、私達にとっても最善な方法だと思う。それしか選択肢がないと思っています。」
私は少しためらって
「でも私は魔王を知りたいのです。明日また今日あった魔物と会う約束をしました。食料をあげると。明日、アルク様一緒に森についてきてくれませんか?」
「はぁー!?」
「え!?」
雷斗とアルク様は驚いた表情をしていた。




