第35話 伝わらない思い
毎日のように、城に通い詰めて何とかライト様を形には出来たが、奥義は習得出来ていない。
しかも文献にも明記されてはいなかった。
ただ「奥義にて討伐」と記されているだけで、何の参考にもならない。
元から勇者様は奥義を持って召喚されて来たのでは?
ただライト様は何もわからないと。
ハナはいろんな特殊能力をもらっていたから、ライト様もあるはずだが、『ハナを守る力』
だけだったら?ハナを守る時のみ発動するのならば、話しにならない。
ハナを危険な場所に連れて行かなくてはならない事になる。
それだけは避けたい。
「ウォル?」
ライト様は不思議そうに私をみる。
「ウォル、何かあったのか?」
「いえ、奥義がわからない以上実践が有効ですが、無意味な殺生はハナが許さないでしょう。しかもハナがアロニーの村に行ってからは、魔物が出なくなったですし。嵐の前の静けさのようで、不気味ですね。」
「ウォルの言うとおりだ。ウォルがアロニーの村から出るときに魔物が出たんだろう?その魔物はアルクさんが倒したんだろうか?」
「そう聞いていますが、実際に見ていませんし。ハナがどう思ったのかが気になります。」
「そうだよな。俺はめっちゃ怒られたからな。」
「ハナがずっとあの村にいるのなら、ハナはアルクさんに怒っていないんだろうし。抜け殻のように生きているなら、あんなに活発に雑貨販売はしないだろう?」
ハナが作ったと思われる、ボワソン公爵家の行商の雑貨はシェリー以外に頼んで必ずどこであろうと買いに行ってもらっている。私が直接買いに行きたいが、アルク様が許さないでしょうしシェリーも顔がバレているから、買いに行くだけでも気を使う。
でも苦労して買うだけは、ある。
ハナが頑張ってる気持ちが伝わって来るし、価格が良心的だから、平民ウケがいい。何より私が嬉しい。
ライト様と会話をしていると後ろから声がした。
「ライト!ウォルト!訓練は順調ですか?」
王女様の声だった。私は慌てて、振り向き片膝をついて敬意を表した。
アリス王女様は少し悲しい顔をしていた。
「ウォルト、今ここにはライトとウォルトと私しかしいません。もっと気を楽にしたらどうですか?」
「いえ、王女様に不敬な態度を取る事を許される立場ではありません。」
2人のやり取りを見ていたライト様が大きなため息をついた。
「ハァー・・・・。ウォルはもう少し、羽目を外していいんじゃないのかな?俺がいるから話せないのなら俺ちょっと席を外すから。少し2人で話せよ。」
はぁ?嘘ですよね?2人きりとか嫌ですが
「ライト様気を使わなくて結構です!!」
「すぐ戻る!気になる気配が門から感じるから!俺が戻るまで、王女を見てろよ!」
そう言うと、周りに話しが漏れないようにライト様は、指で円を描き、私と王女を囲うように結界を張った。
クソ!余計な事を。
ライト様は側近のルイス様と門へと向かった。
私は立ち上がって王女を見た。
「あなたをこんな風に見るのは久しぶりですね。」
アリス王女様は何か期待した瞳をしている。顔がほんのり赤くなっていた。
私もむやみに王女様を怒らせるつもりはない。ただ私に何も期待しないで欲しい。ただそれだけ。
「ウォルト、また昔のように私とお茶をしませんか?」
期待させるのは逆に、失礼だと思った。
「昔のようだったら、アルク様も一緒でないと私は同席しませんが。」
「ウォルトと私はもうすぐ婚約します!親睦を深めませんか?」
これ以上女性に誘わせるのは、男として最低かもしれないが中途半端な優しさは、もっと相手を傷つける。
「婚約は流れました!国が決めた心のない婚約を私はしません。昔から言っていますが、私には心に決めた女の子います。その子にこの先会えなくても、私の心はその子の物です。」
「陛下が父が、決めた事です!民が願っています。」
「では、私の抜け殻と婚約されるのですか?心は王女様に渡せません。それに、私にとって王女様とアルク様は理想なお二人でした。能力だけで、優越をつけるのが最初から嫌でした。」
「違う!初めて合った時から私はウォルトしか・・・・・・」
私は自分に口に人差し指をつけて
シーっとした。
王女様は気づかないうちに、ポロポロ涙がこぼれていた。
私は軽くため息をついて、
「これが最後の優しさだと思って下さい。」
私はハンカチを王女様に渡して、頭をポンっと撫でて、
「ごめんね。アリス・・・・・何度言っても何をされても私の気持ちは、変わらないよ。」
そう言って、
ライト様がかけた結界を私は簡単に解除した。
王女様の涙は止まらないんだろうな。
その時、ライトが珍しい客を連れて来た。
「アルク様!!」
思いがけない客に私は驚いて、咄嗟に質問しまくった。
「ハナは?ハナは村に残してきたのですか?危なくないですか?護衛を派遣しますか?イヤ、私が行きます!」
「おい!ウォル落ち着けって。」
ライト様が動揺する私をなだめる。
「ウォルト殿!!!何故王女様が涙を流しているのですか?」
アルク様は怒りで怖い顔になっていた。
「ウォル!?何したんだ?」
ライト様も呆れ顔になった。
「2人には関係ありません。これは、私とウォルトとの問題です!2人は気にしないで下さい。」
王女様はハンカチで涙を拭き、いつもの王女様の顔に戻った。




