試作その1話
カーテンを閉め切って、テーブルに置かれたランタン。 カーテンの前に佇む女性の背に流れる髪。 背中からでもわかる、豊満な体。 カーテンを閉める一瞬、薄着に浮かび上がる、乳房のシルエット。 「それじゃあ、はじめよっか。」 カーテンを締め切り、振り返ったその顔はほのかに上気し、部屋の一面どころか、三面を埋めているのでは、とすら思える棚に手をかける。
うきうきと、ランタンを手に、引き開けたその棚には。
「ジャングルで筋肉ダルマに打ちのめされた怪物が十年後の大都会に! ギャング! 警察! コスモスとカオスの銃撃戦に!! 新たな狩人が襲いかかる! プ●デター2!!」
「やつらはすでに繁殖を始めていた! 調査なんてやめろと言ったのに!
ノス●ロモ号の惨劇から生き残り、トラウマに苦しむ●プリーは宇宙海兵隊とともに消息を断った植民地におりたつ! エ●リアン2!!」
「やつらは絶滅していなかった! さらなる擬態新たな生態! 彼らは人になろうとするのか、人を食い尽くそうと言うのか! 彼のク●ノス、ヘ●ボーイの監督が描いた遺伝子操作怪物スリラーの続編!! ●ミ●ク2!!」
そんな、「あら、お隣さん。 どうしたの、一人? お母さんは……、そう、一人でお留守番なんて、えらいね。 いいもの見せてあ・げ・る うふふ」って言われて、ついてきたのが間違いだったのか。
少年は唸りを上げる冷房によらない人が人に覚えることもある薄ら寒さに、少し、ほんの少し、出口を振り返った。
「あ! ヒーロー物がいいかなあ!! 不朽の名作! ヌークです! ロボこ…。 どうしたの! あ! お茶入れようね!!」
ドタドタと、お姉さんが歩くのに合わせてフローリングがたわむ。 ああ、ビデオ棚のせいで、床が弱っている。
そんな、思考がよぎる。 あっという間に、逃げたほうがいいのでは、という少年のためらいは、打ち砕かれた。 鍵を閉め、チェーンがかけられる。 台所との仕切りカーテンが
マンションがイマイチ古いせいで、えらく高い位置にチェーンがついており、こっそり外しての脱出は……。
「よかった! 麦茶冷えてた!」 ドンと置かれた、濁った2リットルピッチャーと、紙コップ。
さらに並べられる、ポップコーン、マシュマロ、コーラ、オレンジ。
その向こうに、どっかと座す女性の……。 慌てて目をそらすものの、お姉さんはすぐに立ち上がり、決めたとばかりに、背伸びして一枚のケースを取り出す。
「プ●デター2」
慣れた、慣れすぎた手付きで、トレイに載せられ、飲み込まれていくディスク。
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少年の、夏が始まる。 奇しくも、物語の舞台も暑い、暑いロサンゼルス。
硝煙と血煙渦巻くあのオープニングににんまりとするお姉さん。
そんなことはつゆ知らず。 差し出された麦茶に、恐る恐る口をつける少年。
お姉さんが、ランタンを消しペンダントライトを切る一瞬、目を背けた少年の目には……。
そんなことを吹き飛ばす 惨劇の映画が少年を襲う!
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「明日も…… いいもの見せてあげるからね。」
つい、うなずいてしまった少年……。
終わり。