魔界通販
バレンタインデーに親戚の女子児童からもらった、ホワイ○ロリータとともに、湯気のたつブラックコーヒーを味わう。
右手でパソコンマウスを操作する。
カフェインで覚醒した状態で、情報の海にダイブをつづける。
真夜中だというのに、贈りものを探している。
相手はもうすぐ中学生になる女の子だ。さまざまなチョコレート菓子があるなかで、わざわざロングセラークッキーを選んで買ってきたという、既成概念に捕らわれない、腹黒いロリータだ。どんな意図を込めたのかは知らないが、こちらの反応をみて満足そうに笑っていやがった。
性根の歪んだ相手とはいえ、こちらは大人だ。
ホワイトデーを楽しみにしている、少女の期待を裏切るわけにもいかない。
幼さをのこした可愛いらしい女の子が、必死で作り笑いを浮かべるような素敵な返礼品を探しているのだが、難しいものだ。
白○恋人では、鼻で笑ったうえで堂々と受け取り、おいしく口にするだろう。
難敵だ。
「北海道を旅したうえで、現地からホワイ○ロリータを送りつけてやろうか?」
悪くはないが、神経を逆なでする程度では勝利といえない。
もらってうれしいものを用意したうえで、素直に喜べない状況をつくりたい。
そのためならば多少の出費も覚悟しよう。
「とりあえず、十二歳の女の子が欲しがりそうなものを探そうか」
お高いスイーツ程度では、ふつうに喜ぶだけだろう。
それは許さん。
○
いきなりパソコン画面が真っ暗になった。
いつからか雪国の情報をながめていたのだが、変な広告をクリックしたのだろうか。
『ようこそ、魔界通販へ』
変なサイト名が赤い文字で表示された。
マウスが反応しない。
『ここに訪れることができるのは選ばれた者のみ。
邪な欲望を満たしたい貴方へ、素敵な商品をご紹介しましょう』
文章が流れている。
雰囲気的にアダルトサイトかもしれない。
『商品ナンバー666、カタストロフィⓈ』
いやエロサイトではないな。
栄養ドリンクみたいな小瓶がでてきた。
『効果は絶大です。これを一本飲んだなら──』
黒かった画面が、どこかの部屋の映像に変わった。
勉強机には制服姿の少女がいる。
女子高生だろう。
そばには若い男がいる。
『ちょっと暖房が効きすぎですね』
女の子がブラウス姿になった。胸もとのボタンも外した。
『少し、無防備だとは思わないか?』
『お兄さんなら問題ないですよね?』
『あいつとは違うが……俺だって、獣の本性は潜んでいる』
『あなたがケモノになるのなら、わたしはケダモノになりますが?』
『それは、どういう──』
『やりたいことをやるだけです』
若い男女の顔が近づいていく。
やはりエロサイトなのか?
唇がふれあう瞬間に、また画面が暗くなった。
『カタストロフィⓈを飲んだ少女は──』
そっちかよ。
『このあと大学生の頼れる男、同級生のモテ男、中学生の可愛い少年の三兄弟、およびダンディな父親と淫らな関係を築き上げ、一緒に仲良く暮らしています』
やりたいことを全部やりきったな。
すごい女だ。
『貴方の欲望を満たす、このカタストロフィⓈ。いまなら一本──』
いや、ひどい話だった。
途中だったが強制シャットダウンをした。
栄養ドリンクか精力剤かもわからないような商品に興味はない。
ホワイ○ロリータをひとつ口にいれて、冷めてしまったコーヒーを飲んだ。パソコンを再起動させる間に、暖かい飲みものを用意した。
○
商品ナンバー666.
666といえば獣の数字だ。
ここからヒントを得て、アイデアがうまれた。
前々から保護猫の世話に関心があった。いまひとつ踏ん切りがつかなかったのだが、やりたいことをやるのが人生だろう。
可能ならばホワイトデーの当日に引きとりたい。
ゲージに入った猫とともに、猫好きの少女に会いに行きたい。
そして猫のことには一切触れず、お高いスイーツを手渡してやろう。
大人の余裕の笑みとともに。