26 夢の先は
病には種類がある。
体の病と精神的な病。
急に鼓動が早くなったり、些細なことで顔が熱くなる、この症状は一体どんな病だろう。
ーーー
体が重い。
風邪の様な症状が続き、早く治したいが為に今日はお休みをもらい、怪我の多い騎士団の為の、所謂騎士団専用のお医者様の所へ来た。ここのお医者様は怪我から病気までなんでもみてくれるので、なんともありがたい。
コンコンとドアをノックし、返事があったので中へと入る。ここには初めて来たので緊張してしまう。優しい先生だといいなぁ。
「どうされましたか?」
そんな淡い希望は目の前の光景を目の当たりにして音を立てて崩れ落ちた。
くるっと回転する椅子を回してこちらに向かい合った先生を私はよく知っている。
「リ、リオン?……い、いつからお医者様になったのっ?」
彼はリオン・ブバルディア。私の幼馴染であり、魔法学校の友人でもあり、おまけに騎士団の同期であるリオン。そんなリオンが白衣を着て、私の前に座っている。
騎士団の制服も悔しいがとても似合っていたが、白衣姿も正直悪くない。本人には絶対に言わないけれど。
「そんな事はいいから。で、どうしたの?」
そんな事はいいって、相変わらずの態度にいつもだったらムキになって返してしまうが、お生憎今の私にそんな元気はない。
それに何でもできるリオンならお医者様にでも簡単になってしまうんだろう、と何故かすんなりと納得してしまう。頭の片隅では変だと感じているが、事の流れに逆らう事ができず、私はここに来た理由を説明し始めた。
「最近ずっと体が重くて。風邪だと思うんだけど、なかなか良くならないの。」
咳も鼻水も出ない。自分で言ってみて、風邪じゃないんではないかと思い始めてきた。何か病気だったらどうしよう。
「…じゃあ診察するか。」
よいしょ、と身を乗り出してこちらに近づくリオン。その顔は心なしか楽しそうに見えて、ドキッとしてしまう。…ドキッ?
異様な胸の高鳴りに心がざわつく。これは一体…。
って、近い、近い、近い!
「ちょ、ちょっと、近くない…?」
「近くない。診察なんだからじっとしてて。」
目と鼻の先にリオンの顔があり、慌ててしまう。診察ってこんな近い距離だっけ?こんな近くて診察なんて出来るのだろうか。
あまりの近さに離れて、とリオンの胸を押すも、奴は動かない。びくともしない様子に、男と女の力の差を見せつけられてるかのような気持ちになってしまい、顔に熱が集まる。
一拍置いて、勝手にそんな気持ちになってしまった事が恥ずかしくなり、更に顔に熱が集まった。
さっきから自分がおかしくなってしまったみたい。いつもと違う。これもきっと体の不調のせいだ。そう思う事にする。
「…顔が赤い。」
「こ、これはそのっ、な、なんでもないの!なんでもないから!」
「何でもなくて、こんなに赤くなる訳がないだろ。」
そうリオンは言ってこつん、と額と額を合わせてくる。目を見開き絶句するも、恋人同志がするような甘い行動に、こうした事にまったくもって慣れていない私は固まってしまう。
ただでさえ近かった距離がゼロになってしまい、もうめまいがしてきた。
離れて欲しいのに、何も言えずにただただ顔を赤くしてしまう。茹でたタコもびっくりしてしまうくらい真っ赤であろう。
なんともまあ滑稽な姿だ。
それにしても人の顔ってここまで熱くなるだろうか。あまりの恥ずかしさに顔が爆発しそうなくらい限界が近づいてきた。
「……も、もう、だめ…。し、しぬ…。」
「…は?ルナ?」
「しぬしぬ。もうだめ…。」
こんなの我慢できない。
もう一度リオンを押し返そうとリオンの胸に手を当てると、リオンはその手を取ってきた。
「…死ぬな。」
「…っ!」
そんな顔で見ないでよ。リオンのそんな悲しそうな顔見たくない。いつもみたいに馬鹿だなお前は、って言って笑ってよ。
「ルナ…。お前が居ないと、俺は、」
ーーー
「……はっ!!」
ばっと飛び起きてまわりを見渡す。ここは寮の自室であり、病室ではない。
目の前にリオンは当然居ない。
「…ゆ、夢…?」
そもそもなんなんだあの夢は!
通りでリオンが医者ってなってもおかしいなんて思わなかったわけだし、額と額で熱を測るなんて無意識にそういう願望でもあるのだろうか。
それにしてもよくもまあ、あんな恥ずかしい事をしてくれたものだ。普段のリオンだったらとても有り得ない。夢で本当に良かったと思う。
とりあえずなんかの病気になったのではなかったのでほっと息を吐くも、胸にもやもやしたものが残る。まだ心臓がバクバクしてる。
普段なら絶対に見せない様な悲痛な顔。そんな顔を向けられていた事を思い出して、胸がきゅうっと捕まれた気分になる。
あんな顔して死ぬな、なんて言われてきゅんと来ない人が居るのだろうか。もうはっきりと認める。きゅんってした。
押しても動かない男ならではの力強さとかもうダメ。夢の内容を思い出してしまい両手で顔を覆い悶える。
力強さとか、男と女の違い弱いを見せつけられるのに弱いのかも。胸が苦しい。
寝転がったまま足をバタバタさせてみてもこの胸のときめきは止まらない。
こんな夢を見てしまったのもきっと疲れているからだ。まだ起きなければいけない時間ではないのでもう一度布団を被り無理矢理目を閉じるものの、脳裏に浮かぶのは夢の事。
きゅん
「…〜〜っ!」
結局眠る事は出来るわけがなく、ゆっくりと時間をかけて支度をして仕事に向かった。
最後の言葉、リオンは何て言おうとしたのだろう。




