24 掴めない手がかり④
「大分暗くなってきちゃったね。」
昼間は賑やかだった町並みも日が落ちていくと共に静かになっていく。少し前まで綺麗だった夕焼けもその面影をなくし、辺りは静寂に満ちている。
私とヴィーナは第5小隊の執務室へ戻ろうとしたところ、空間が歪むという不思議な現象に巻き込まれてしまった。そして不思議な現象が起きた始まりの場所、広場へと戻された。ならばもう一度、と町を出ようとするものの、何かに行く手を阻まれてしまい、町の外へ出られなくなってしまった。
その時からだ。
もしくは広場で男の子に会った時からと言うべきなのか、おかしな現象に気付き始めたのは。
まず、町の人達へ話を聞いても言葉は通じるのに話が噛み合わない。まるでどこか別の世界に迷い込んでしまったかの様だ。
次に、行方不明のエイレネさんとその母親であるホーラさんの家の事。オグマさんと一緒に行った時、確かにホーラさんの家の木に花が咲いていたのだ。綺麗な赤い花が咲いている木を目印にして来たのに、先程行ったらその花は蕾に戻っていたのだ。花が落ちた状態ではなく、間違いなく咲く前の状態だった。
色々と考えてはみたものの、これらに対して私達は首を傾げる事しか出来なかった。
もうすっかり日も暮れてしまい、これ以上は何もできないと判断して宿を取る事にした。夕食をとり、軽く湯浴みをし、隣り合う2つのベッドの片方に倒れこむ。
報告もせずに為す術もなくこうしている事や、不思議な現象にあってしまっている事がとてももどかしい。何も出来ない、と改めて実感してしまう。もっと力があれば、こんな事にはならなかったのだろうか。そんなマイナスな事ばかり考えてしまう。マイナスな考えを止めるかのように溜息をつき、隣のベッドを見る。同じようにベッドに横たわったヴィーナだが、彼女は何故かすっきりとした顔をしている。
「ヴィーナ?やけにすっきりした顔してるね?」
「そうかしら?……ルナ、今はとにかく休みましょう。たくさん寝て、朝すっきり起きて、そうしたらまた今後の事考えましょ。悩んでも分からない事は分からない!割り切りましょ。」
そう言ってヴィーナはお休み、と言って布団にもぐる。ヴィーナの言葉を聞いて強張っていた肩の力が抜けたような気がする。ヴィーナがいてくれて本当に良かった。気楽といえば聞こえは悪いけれど、ヴィーナのそういうところに何度救われた事か。
ありがとう、そう心の中で呟く。そしておやすみ、と返して私も布団にもぐった。
「ルーナ!」
「…ん。」
「ほら、起きて。朝よ?」
「んー、…。」
まだ寝たい、という意味を込めてヴィーナをベッドの中から覗く。寝起きで焦点が合わず反応が遅れてしまうが、だんだんと覚醒してきた。
「寝起きですらこの破壊力…。恐ろしいわ……。」
朝日を後ろにヴィーナが呼びかけてくる。どうやらぐっすり眠っていたみたいだ。ヴィーナに起こされて渋々体を起こす。ヴィーナに朝起こされると学生時代の事を思い出す。よく起こされてたっけ。
ヴィーナとは寮の同じ部屋ということもあって、毎朝起こしてくれていた。元々寝坊とかするタイプではなかったけど、ヴィーナのおかげで一度も朝授業に遅れた事がない。まるでお母さんの様な安心感だ。
あくびと共に体を目一杯伸ばすと眠気も少し飛んで行く。
「…はふぅ。ヴィーナ、相変わらず早起きだねぇ。」
「何故か目が覚めちゃうのよ。…あ、お婆さんみたいって思ってないでしょうね。」
どうやらヴィーナは自分が早起きなのを気にしているらしい。早起きなんていい事なのに、昔そのことで付き合っていた人にからかわれた事があるらしい。まったくもって意地が悪い男だ。それ以来ヴィーナは気にするようになってしまった。でもそんな事を気にしてしまうヴィーナは正直可愛い。
いつまでもこうしてるわけにもいかないので、ベッドから出る。
「今日は何か手がかりになるような事があればいいけど。ヴィーナ、早いとこ仕度して出かけよう。」
「そうね。とりあえずまた広場に行くしかないわね。」
「…あの男の子にもう一度会えればいいのに。」
「ねえルナ。私気付いちゃったんだけれど…。」
「なに?まさか、何か手がかりが分かったの!?」
「…広場で会った男の子、可愛い顔してたわよね。あれは将来化けるわよ。」
「もうっ!そういうところばっか見て!!」
「ルナだってそう思うでしょう?あれは相当なものよ。私がもう少し若ければ…。」
「…ぷっ。もう、ヴィーナってば。気が抜けちゃったよ。ふふ。こんな時でもやっぱりヴィーナはヴィーナだね。呆れたのを通り越してすごく頼もしいな。」
「あらやだ、今頃気付いたの?何事にも楽しんだもの勝ちよ?ルナも私を見習いなさいな。」
ヴィーナ持ち前の能天気さのお陰で、和やかな雰囲気が流れる。私達は本当に厄介ごとに巻き込まれているのかと思うくらい今は平和だ。
そして私達は気持ちを切り替えて、宿を出た。
ーーー
「…とは言え、何をすればいいのかな…。」
現在、何が原因でこうなってしまったのかが分からない為、手がかりを探そうにも探せない状況に2人で途方に暮れてしまう。まず初めに男の子が居た広場に来てみたけれど、特に異変は無し。
「手がかりが何も無い状況だから、手当たり次第にいくしかないよね。昨日と同じ事になるけど、またホーラさんの家に行ってみよう。」
「そうね。賛成。」
「…やっぱり赤い花、咲いていないね。」
「ええ。とりあえず、ホーラさんを呼んでみましょう。」
「そうだね。」
呼び鈴を鳴らした。
すると中からホーラさんが出てきた。
「すいません、度々来てしまって。もう一度お話、聞かせてもらえませんか?」
そう告げると、何故か不思議そうな顔をするホーラさん。少し考えた素振りをした後言った言葉に、私達は固まった。
「あら?誰かと間違えていませんか?貴方達と会うのは初めてだと思うけれど。」




