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1 入隊式

 

  本日は騎士団の入隊式の為、新人騎士団員はイキシア王国にあるオリンピア城の王の間に集められている。先程から国王のありがたいお話を聞いているが長い話はどうも苦手。学生時代を思い出してげんなりしてしまう。


  学生時代といってもほんの数日前の事なのになんかもう大分前の事のように感じるのはなんでだろう。話、早く終わればいいのに。


  ーアイテル・ルドベキア国王。


  たくましい筋肉に豪快なひげ。勇ましい銀髪。その反面、顔に刻まれるのは男の勲章の傷、ではなく笑みによってできる深い皺。一見して国王たる威厳がある面立ちなのだが大変人柄が良い為、人の良さが雰囲気に溢れ出てしまっている。それでも一国王、身体的な強さも精神的な強さもある兼ね備えているので国民からの支持はとてつもない。勿論私もとても尊敬している人の1人だ。


「……それでは諸君、君達の働きを期待しているよ。」


  とまあ考えているとようやく国王の長い話も終わり、そして次にあるのは待ちに待った配属先の隊の発表だ。


  イキシア王国の騎士団には各10隊の隊があり、それぞれ隊ごとに担う役割がある。

  第1小隊は名誉ある王族の護衛、第2小隊は城の警備といった風に役割が違う為、それぞれの能力に応じた隊へ配属されることになっている。自ら選ぶことはできないので新人隊員にとっては気が気ではない時間だ。




「では今から君達の配属先を発表していく。私は団長を務めているアレウス・グラジオラスだ。1度しか言わないからよく聞いておけ。」


 ざわざわ


  団長が自己紹介した途端周りは落ち着かなくなる。あの人が有名な鬼の騎士団長アレウス・グラジオラス。まさに見た目通りの通り名である。


  あの人に嫌われたら殺されるぞ…なんて声が周りから聞こえてくるがそれも冗談ではなくて、以前新人が怒らせて半殺しにされたという話は学生時代、有名な話だった。


「それではまず第1小隊。リオン・ブバルディア」


  誰よりも先に名前を呼ばれた男。その事が誰よりも優秀である事を証明されたも同然。さすが首席で卒業した優等生。剣も魔法も知識も完璧でまさに優等生だ。特に魔法は本当にすごかった。実習で対戦した時は何度負けたことか…


  リオンとは幼馴染で、彼は昔から文武両道であった。それに加えツヤツヤの銀髪に長身、女の子に優しいとくれば、女の子にモテないわけが無い。そんな長所しかないような奴だけど私にとっては気に入らない。だって女の子に優しい…はずなのに。基本女の子なら誰に対しても優しい所しか見たことがない。…私以外には。なぜだか知らないけれど私には冷たい。それが気に入らない。だって男の人には優しくされたい。


「第3小隊、ルナ・フリージア」


  とまあ、そんな願望を考えていたら呼ばれたみたいだけど、え?聞き間違いじゃないよね?だって第3小隊って色んなことをオールマイティにこなす隊なはず。それこそ優秀な人が入るとこじゃないの?

  それに第3小隊は毎年入る新人が第1小隊に次いで少ない。そんな隊に配属されるなんて少し恐れ多い。とんでもない所に配属されてしまったかもしれない。



  そうして新人全員の配属先が発表された。この後は入隊を記念して歓迎パーティが開かれるらしい。

  優しい王様だなぁ。




 ーーー




「あの…」


  歓迎パーティーの始まりの挨拶の後、すぐに話しかけられる。


「はい?」


  首をかしげて続きを促す。話しかけて来たのは緑髪の同じ新人騎士。たしか学生時代隣のクラスの人だった気がする。うーん、名前までは知らないや。なんか顔が赤い気がするけど熱でもあるのかな。それになんだかうっとりしてるような感じ。風邪?


「も、もしよければ僕と「こんなとこに居たんだ。」


  話を遮るように私に話しかけて来たのは幼馴染のリオン。なぜか私と緑髪の彼の間に入ってくる。


「この子に何の用?」


  何の用って。何故リオンが聞くのよ。なんとなく威圧的に聞くもんだから話しかけてきた緑髪の彼はいたたまれず何でもないです、と言い去って行った。え、用があったんじゃないのかな?なんだったの、と思いながら去って行った彼を眺めていると視線を感じたのでそちらを向くと深い青と目が合う。その目がなんだか少し冷たいような気がしてびくっとしてしまう。


「な、なに…?」


「…別に。物好きもいるんだなぁって思って。」


「え?物好き?何の事?っていうかいつも訳の分からない事ばっかり言うよね。この前だっていきなり会話中割って入ってきてなんだかよく分からない事言うし。」


「…はぁ。」


「な、なによ、ため息なんてついちゃって…。」


「…………お前って本当に馬鹿。鈍感娘。」


  馬鹿とはなんだ馬鹿とは。リオンってば本当に訳が分からない。普段冷たかったり馬鹿にしたりするのにこうして急に間に入ってきて会話の邪魔をする。嫌な感じ。それに鈍感娘って何が鈍感なのよ。こう見えて空気読むのは上手いんだから!


「馬鹿って言う方が馬鹿なの!」


  いつもいつも馬鹿にする。仏の顔も3度まで、なんて言葉があるけど、3度どころか会う度ときたらそろそろ不愉快だ。今までこの訳の分からない嫌味を聞いてあげてた自分を褒めてあげたい。拍手喝采である。


「はいはい。悪かったな。」


  リオンはその長い指で、私の膨らんだ頬を突くから、ぷっと間抜けな音が出てしまう。その情けない音に毒気が抜けてしまう。それが可笑しかったようでリオンは心底可笑しそうに笑う。その顔はやたら整っていて、その甘いマスクにみんな堕ちてしまうのかと、先程までの怒りを忘れて冷静に納得した。


「いつまで触ってるのよ。」


  しばらく私の頬をツンツンしてたのでいい加減離してと言う。だって周りの視線が痛いのだよ。特に女の人の視線が。大方リオンのファンであろう人達からの視線なんだろうけど変に注目されても嫌である。ほら、やっぱり私は空気読めるんだから。決して鈍感じゃない。でも女の人だけにとどまらず男の人も見ているのは何故だろう?なんだか皆恨めしそうにしているし、リオンてばまさか同性からもモテるのか?こいつ何者?さすがに引いてしまう。



  それからは卒業以来会ってなかった友達と話したりしてたらあっという間に時間は過ぎてもうお開きの時間になった。




 ーーー




  歓迎パーティも無事(!?)に終わり寮に帰った。騎士団は緊急事態に備えていつでも出動出来るようにほぼ全員が寮で暮らす事になっている。ただし王族の護衛の第1小隊のメンバーは王族に近い方がいいという事で城に住む。


  今までずっと一緒に居たリオンともこれでもう頻繁に会うということはなくなるだろう。小言なんかも言われなくなるからすっきりする。


  寮は各自個室になっており、シャワールーム、トイレ、キッチンなど一通り揃っているので快適だ。ちなみに女子寮と男子寮は離れている。

  黒い騎士服を脱ぎ、皺にならないようにハンガーにかけ、ベッドに横になって一息つく。目を瞑ると思い出すのはパーティ解散間際の出来事。

 



 ーーー




「リオン様とはどういう関係なのですか?」


  肩を叩かれ、振り向きざまに見た明らかに嫉妬を含んだ顔。あぁ、またか。こういう事は今までにもあった。穏やかな口調と裏腹に目が全然笑っていない。イキシア王国の騎士団にはセントラル魔法学校以外の所からも来ている人がいる為、リオンや私の事を知らない人もいる。大方、この人はこの短時間でリオンに惚れたのだろう。あいつの甘いマスクに引っかかったわけだ。勝手にやってくれればいいのに私を巻き込まないでほしい。リオン様って、様付けなんて。王族でもないただの一般人なのに。というかリオンの事は私の方がずっと前から知っているのに、こういう風な態度をされるのは正直嫌な気分になる。でもそんな事言ってしまったら後々めんどくさくなりそうなので言わないけれど。


「リオンと私はただの幼馴染ですよ。」


「あら、そうだったのですか。」


  一安心した、とホッと息をついているのは彼女だけではない。彼女と同じ様にリオンに引っかかった人達も遠巻きに私達の会話を聞いていた。あいつ一体何をしたの。


  でも気になるのは女の人達だけではないって事。なぜか男の人達も安堵の息をついている。何故男の人まで……あいつ本当に何をしたの!?


「ルナー!」


  よく知った声が聞こえて笑みがこぼれる。


「ヴィーナ!!どこ行ってたの?今日はもう会えないかと思ったよ!」


  大親友のヴィーナに会えた事が嬉しくて満面の笑みでぎゅっと抱きつくとヴィーナも答える様に抱きしめてくれる。あぁ、柔らかい。羨ましい。

  ヴィーナ・ヒース。綺麗な赤髪に素晴らしいプロポーション。欠点は口が少々悪く、ガサツな所。でも面倒見がよく私を可愛がってくれるお姉さんみたい。私やリオンと同じセントラル魔法学校出身の私の大親友。同じく騎士団に入隊したのにさっきからずっと姿が見えなかったから探しちゃったよ、と言えば新しい恋を探してた、えへへ、なんて言うから相変わらずだなぁと思う。ヴィーナは恋多き女だ。


「それにしても相変わらずねぇ。」


「あー、リオンの事?相変わらずファンを作るのが早いというか、最早それさえも才能だよね。」


「本当に。でもリオンだけじゃなくてさ。」


「…え?他にもリオンみたいなやつがいるの?気づかなかった。」


「…貴女も相変わらずねぇ。自覚無しっていうのも怖いわぁ。」


  これだからモテる奴は…とぶつぶつ言ってるヴィーナ。少し怖い。


「ところでヴィーナは第5小隊に所属になったんだよね。あーあ、一緒だったらよかったのに。」


「ほんっとに!私の可愛いルナが私の知らないところで変な男に引っかかるんだって思うと…」


  拳を握りしめるヴィーナ。


「…変な男って…ヴィーナってば相変わらず妄想癖すごい。」


「妄想じゃなくて、予想よ!変な男に話しかけられても無視しなさいね!分かった!??」


「…はいはい。っていうか変な男なんて騎士団には居ないでしょ?仮にも国の騎士団なんだし。」


「まぁ、そうなんだけど。とにかく!もじもじしてて頬を赤らめて話しかけてきた奴は全員変な男よ!」


「…それって調子悪いんじゃない?熱があってフラフラしてるんでしょ。そんな人を無視するだなんて薄情じゃない。」


「……出た天然自覚無し。」





 ーーー




  それから別れるまで永遠と、ヴィーナの恋愛話を聞かせられ、疲れ切ったとこが現在である。今日は長い話をたくさん聞いたのでとても疲れた。


  明日からはさっそく所属する隊に合流することになってるから早く寝なきゃ、どんな人達がいるのかな、なんて考えているうちに私の意識は閉ざされた。





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