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15 歓迎会③

 

「じゃあ解散な!皆気をつけて帰れよ!」


  隊長の掛け声でぞろぞろと帰って行く隊員達。互いに、お疲れ、また明日、と声をかけてから散っていく。

  隊長は第1小隊のエギル隊長と一緒に二件目へ行くらしい。まだ飲むのか。


「ルナ大丈夫?ちょっと飲み過ぎちゃったわね。」


「だいじょーぶれす!えりさんこそ、はやくいかないと!」


  エリさんはこの後、予約していた商品が入荷した、との事でメインストリートの南側まで行かないといけないらしい。なんでも3ヶ月待ちの本が入荷したとかで、今朝興奮しながら話してくれた。エリさんはこう見えて読書家らしい。


「でもこんなルナを置いて行けないわねぇ。」


「だいじょーぶれすってば!はやくしないと、ほんがしまっちゃいますよ!」


  せっかく3ヶ月も待ったのに、私の為に我慢するなんて絶対ダメだ。エリさんを納得させる為必死に説得をするが、酔っていて頭が上手く働かず、意味不明な事まで言ってしまう。もどかしい。エリさんはまだうーん、と悩んでいるのでどうしようかと思っていると、後ろから声がかかった。


「エリさん、ルナは僕が面倒見るんで行って大丈夫ですよ。」


「ん?りおん?」


「本当に?それなら一安心だわ。」


  リオンの登場にようやく納得したエリさん。少し名残惜しそうな顔をしたものの、また明日ね、と行って本屋へと向かった。その足取りはすごい速かった。迷惑かけなくてすんで本当に良かった。


  エリさんが行った方向を暫く眺めていたら、おい、と呼ばれる。


「ったく。飲み過ぎなんだよ。」


「えへへ。」


「えへへじゃないから。ほら、行くぞ。」


「はーい!」


  なんかこうしてリオンと2人で歩くのも久しぶりだなぁ、と感傷に浸ってしまう。昔はよく手を繋いで歩いたっけ。いつからだろうか。手を繋がなくなったのは、こうして一緒に帰らなくなったのは。

 そんな事を考えていたら、前から歩いてきた人としてぶつかってしまった。


「わっ!ごめんなさい!」


「おっとごめんよ。おー、お嬢ちゃん可愛いねぇ、一杯どう?」


  ぶつかったのは全身筋肉ムキムキのいかつい顔のおじさん。ぶつかった事に対して怒鳴るかと思いきや、その逆で一緒に飲まないかと誘ってきた。手でお酒を飲む仕草をしてウインクしてくる。見た目に反してなかなかお茶目な人だ。


「ぶつかってすいません。この子僕の連れなのでお断りさせてください。」


  そう言ってリオンは私を引き寄せた。リオンの胸に顔が密着しているこの距離に少しドキドキしてしまう。ドキドキ…?ううん、これはお酒飲み過ぎの動悸に違いない。


「そりゃあ残念。」


  筋肉おじさんはまた機会があれば飲もうぜ、と手をあげて去っていった。本当にいいおじさんで良かった。しつこくない所がまた好感が持てる。

  今の一件で頭が冴えてきたのでふぅ、と息をつく。そして今の状況を思い出し、ちらっとリオンを下からのぞく。のぞき見た瞬間にリオンと目がばっちりと合った。


  その目には不機嫌さが滲み出てた。


「あの、リオンさん?」


  無言の睨み合い(正しくは一方的に睨まれてる)が続く。その間もリオンは引き寄せた私を離さない。無言のこの状況がなんだかもどかしくて耐えられなくてそわそわと目線を彷徨わせてしまう。

  するとリオンはため息をついた。


「たちの悪い酔っ払いかよ。いちいち色んな所で誘われてんなよ。」


  不機嫌丸出しのままそう言われる。


「今のはちょっとぶつかっちゃっただけじゃん!」


「だからたちが悪い。良い人だったから良かったものの、気をつけろよ。お前女なんだから。」


「…え!もしかして…心配、してくれてるの?リオンに女扱いされたの、初めてかも!?」


  普段から私をからかってくるリオンらしからぬ発言に驚いてしまう。

  でも女扱いしてくれた事が嬉しくて、にやけてしまう。ようやく私の事を女だと認めてくれたみたい。私も成長したって事だね。良かった良かった。


「女扱いなんて、昔からしてるっつーの。」


「………え?なんて言ったの?」


  一人で感傷に浸っていたせいでリオンが呟いた言葉を聞き逃してしまい聞き返すも、答えるつもりはないらしく、リオンは引き寄せていた腕を離し、私の頬をギュッとつねる。


「いひゃい(痛い)。」


「…間抜け面。」


「もー!!」


  リオンはわたしの間抜け面を見て無邪気な顔をして笑う。こんな事、前もあったような気がする。


  でも、リオンとはこんな感じのほうが落ち着く。ふざけ合いしてた方が私達らしいというか。あ、でもそれはそれで悲しいかも。リオンは女性に対する対応は完璧だ。なのに私にだけこんな感じ。やっぱり女ととして見られてないのかも。


 最後のシメとばかりに、ギュッと一段と強く頬をつねってからリオンは手を離した。頬は真っ赤になってるに違いない。なぜ最後強くしたの。


「いったいなあ、もー。」


  赤くなった頬をさすりながらリオンを睨む。リオンはというと反省するそぶりもなく、微笑んでるような、どちらかといえばほくそ笑んでるような顔でこちらを見つめている。その目がいつもより優しい気がして、すぐ目を逸らしてしまう。


  なんで私がこんなに焦らなきゃいけないんだろうと思う。なんでだろう。今日はおかしいみたい。お酒のせいだろうか。そうだ、きっとお酒のせい。


「は、はやく帰ろう!」


  他にかける言葉が見つからなくて、リオンの返事を待たずに歩き出す。


「ルナ。」


「な、なに?」


  歩き出してすぐ呼ばれる。決して大きい声ではなかったが、昔からずっと側で聞いてるその声は、人混みの喧騒に紛れる事なく私の耳に届いた。


「そっち逆。」


「はっ!」


  そうだ、こっちは今来た道だった。どんどん顔に熱が集まっていくのが分かる。自分からさっさと歩き出したのに、すごく恥ずかしい。


  絶対馬鹿にしてるに違いないリオンの顔を見ないように正しい方向へ歩こうと踏み出したら、目の前には街灯の柱。ぶつかるすんでのところで腕を引いてもらったみたいで、激突せずに済んだ。


「さっきから何してるの。馬鹿なの?」


「……馬鹿でけっこうです……。」


  ここまでくると恥ずかしさを通り越して、自分自身に呆れてしまう。どうぞ馬鹿でもアホでも何でも言ってください。ああ、もう早く帰って寝たい。そして今日の事は忘れよう。ふかふかのベッドの事を考えると少し足取りが軽くなった気がした。


「…本当に目が離せない。」


「んー?リオンはやくー!」


「はいはい。」





  その後は他愛もない話をしながらリオンは私を寮まで送ってくれた。リオンは王族護衛の仕事をしている第1小隊に所属している為、城に寝泊まりしているので今から城に戻るらしい。なんか面倒をかけちゃったな、と思い改めてお礼を伝える。


「別に。その辺で行き倒れても困るし。」


「はいはい。どうせ酔っ払いの馬鹿ですよ。」


  べー、と舌を出す。こうなったら開き直ってやろうと思う。気にしたら負けだ。


「ふーん。馬鹿って自覚してるんだ。頭いいじゃん。」


  馬鹿って言っておきながら頭がいいとは。なんだがよく分からないが、そろそろまぶたが落ちてき始めた。限界が近いらしい。ふわぁ、とあくびがでた。


「明日寝坊するなよ。」


「…うん。がんばる。……送ってくれてありがとね。」


「……ああ。」


  最後はあっけなく別れを告げた。お礼をしっかりと言った事だし早く部屋に戻って寝よう。リオンの言った通り、寝坊しないようにさっさと寝よう。

  ちゃんと起きれますように。



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