12 帰還と過去
「ルナぁーー!!」
無事に帰還し、ドレスから騎士服に着替える。やっと脱げた。帰る途中、色んな人にドレス姿をジロジロ見られるから落ち着かなかった。なんかおかしかったのかな。
そして報告しようと戻ると、がばっと勢いよく抱きしめてくるエリさん。心配したんだから!とおっとりしている彼女らしからぬ勢いに驚いてしまうが、それも私を心配してくれての事だと思うと胸があたたかくなる。
「すいません、エリさん。心配かけちゃって…。」
「いいのよ、あなたが無事だったんだから。それにあなたのおかげで今回の事件は解決した様なものだしね。」
「…いえ、結局最後はリオンに助けられちゃいましたので私は特に何も。」
「そのリオンを突き動かしたのはあなたなのよ。うふふ。」
「えぇ?」
思わず間抜けな声を出しちゃった。リオンを突き動かす?いやいや、ないない。
信じられない、なんて顔をしていたらエリさんに見られて笑われてしまう。
「とりあえず!あなたのお手柄だって事!あなたがいなければ、連れ去られた令嬢達がどうなっていたのか分からないわ。それに彼女達だってあなたへとても感謝していたわよ。」
「本当ですか?それは良かったです。」
ーーー
報告書諸々はエリさんに教えてもらいながら終え、一息つく。騎士団は体を動かす事だけが仕事ではない。事務仕事なんかもたくさんある。その中でも報告書の作成が大半を占めている。ペンを置き、手を前に出し伸びをしているとエリさんに聞かれる。
「そういえば、キメラと戦ったんでしょう?」
「はい。狼と猫の魔物のキメラでした。キメラは魔道書の絵でしか見た事がありませんでしたが、酷いものでしたね…。あんなものを作り出すなんてあの男、どんな神経してるんだか…。」
「みんながみんな善良な人間ばかりではないものね。善があればどこかに必ず悪も存在するわけだけれど、今回のチェルノって男の様な純粋な悪意が一番恐ろしいのかもしれないわね。」
「確かに。チェルノは自分のする事が悪だなんて、かけらも思っていませんでした。仲間をキメラの餌なんて…。」
「理解できないわよね。」
「はい。理解できないし、したくもありませんね。…魔物が絡むと碌でもないですね、本当に最悪です…。」
「…魔物と何かあった事あるの?」
魔物の話をしていたせいで思わず言葉に熱がこもってしまった。でも、もう昔の話だ。隠しているわけではないので答える。
「…昔、両親と一緒に居た時に魔物に襲われたんです。両親は魔法は使えなかったので、為すすべなく殺されてしまいました。」
ーーー
※10年前
「ねぇねえ!収穫祭楽しかったね!食べ過ぎちゃったぁ!」
「ええそうねルナ。お母さんも少し食べ過ぎちゃったかしら。どれも美味しかったわね。まぁ一番食べてたのはお父さんだけどね。」
「あははは。間違いない!いやー、やっぱ祭り事はいいなぁ。また来ような。」
「うん!!」
その日は町で日頃の作物の無事を祝う為に収穫祭が開催されていた。収穫されたばかりの野菜や果物を使った料理がたくさん振る舞われていた。
たくさん食べてお腹も気持ちもいっぱいだった幸せな帰り道、突然事件が起きた。
「…ん?」
「ルナ、どうしたの?」
「なんか今変な音がしなかった?」
変な音がしたと思ったその瞬間、目の前に現れた一匹の生き物。全身黒い毛並みに赤い目。
「魔物っ!!?」
「く、くそっ!なんでこんな所に!!おい、ルナを連れて先に逃げろ!!」
「あなたは!?あなたを置いてなんかいけないわ!」
「すぐ行くからっ!早くっ!!!」
父はそう言って、私達を逃すまで自分が魔物を引きつけると言った。
母は泣きながら私を抱き抱える。大丈夫、大丈夫よ、と何回も言った。私は怖さから震えが止まらず、上手く走れなかったが母がなんとか引っ張りながら走ってくれた。
ガサガサ ぐるるる
必死に逃げて、逃げて、けれどもすぐに追いつかれてしまった。
「…え、なんで…。じゃ、じゃあ、あの人はっ…。」
魔物の口には血がべっとりと付いてた。それをペロリと舐めた時、魔物の口に父が着ていた服の切れ端が付いている事に気付いてしまった。
私は必死に母にしがみついた。
母はすぐさま私を後ろに隠した。いやだ、いやだ、こわい。
魔物の声が近付いて来た瞬間、強い衝撃を受けて私は吹っ飛んでしまい、木にぶつかり意識が朦朧としてしまった。薄れゆく意識の中、最後に見たのは母の倒れる姿と、私めがけて襲ってくる魔物との間に突然現れた銀の髪の後ろ姿だった。
そして目が覚めた後、両親が死んだ事を聞かされた。
ーーー
「そんな事が…。」
「その後は暫くリオンの家にお世話になったんですけど、少しして両親と過ごした家に戻って祖父母とかの助けを借りながら過ごしてました。魔物に襲われてからトラウマになってしまいまして…。でも今では吹っ切れたので全然大丈夫なんですけどね。」
「辛かったわよね…。」
「当時は辛くてたまらなかったですけど、時間が解決してくれました。それに目標が出来ましてそれを糧にしてここまでこれました。」
「目標?」
「はい。魔物に襲われた時、私を助けてくれた人を探してお礼が言いたいんです。」
「手がかりはあるの?」
「はい!その人は銀髪でした!」
「……ルナちゃん?…銀髪の人なんてこの世界にはごまんといるのよ…?」
見つけるのは厳しいんじゃない?と聞いてくるエリさん。そうかもしれないけど、絶対見つけたい!
「あと、これは曖昧なんですけど、腕が光ったんですよね。何かが太陽に反射して。多分バンクルかなんかを着けてた気がするんですよね。」
「……気の遠くなる様な手がかりね…。」
うーん、やっぱりそうですよね。
「命の恩人の方の話は一先ず置いといて………今まで本当に頑張って来たわね。ルナはすごく強いわ。ルナに何かあったら私をはじめ、この隊の人間はみんなあなたを助けるから。」
そう言ってエリさんは私をギュッと抱きしめてくれた。すごくあたたかくて、もう何年も前の出来事でもう吹っ切れたはずなのに、胸がきゅっとなった。
「エリさん、ありがとうございます…。私、エリさん達と同じ隊に入れて本当に良かったです。」
「私もよ。ルナみたいないい子私達は大歓迎よ。」
そう言って笑ってくれたエリさん。本当に優しいな。
魔物を見てから、自分では気付いてないつもりでいても、心のどこかではひっそりと辛いという気持ちがあったみたい。それをエリさんが優しく溶かしてくれて、じわぁっとあたたかさまで広げてくれた。特別大きい事をしてくれたという訳ではない。ただ、深い愛情で包み込んでくれた。
「それに、あなた可愛いしね。うふふ♡」
ただし、深い愛情の中には、慈愛と恋愛2種類の愛情があるもよう。




