11 禁忌②
私に後ろから覆い被さる様にして両サイドからすっと手が出てくる。身長差があるせいで包み込まれてる気分になる。まるで大切に守られているような気分になってしまいなんだか落ち着かない。
「一緒に押すぞ。」
何故彼がここに居るのか、なんて考えるのもすぐやめる。そんな事あとで聞けばいいから。今は目の前の魔物に集中する。
押され気味だったのも、後ろから支えてくれると同時に、一緒に押してくれているおかげで押し返すことができた。ふわ、っと優しいにおいがした。懐かしいその匂いにすごく安心した。
ぎゃん、と魔物は床に転がるように倒れるが、また襲いかかろうと牙を剥いて襲ってくる。押し返した事で出来た傷なんか痛がる素振りも見せずに猪突猛進に迫って来る。
でもさっきまでとは違い、私も1人じゃない。もう負ける気なんかこれっぽっちもない。
「一気に仕掛けるぞ。」
その言葉を合図に手をかざし、2人同時に渾身の魔法を放つ。
「ネロ・アペイロン(最大出力)」
「フォティア・アペイロン(最大出力)」
水と炎が混ざり合って魔物に攻撃する。水の苦しさと炎の熱さに魔物は耳を塞ぎたくなるくらい悲痛な呻き声を出しながら倒れ、そのまま動かなくなり生き絶える。
「そ、そんな…。僕の最高傑作が…。こいつが居れば、王国の騎士団だって……。」
チェルノはうつむく。自分の計画がダメになり顔面蒼白になりなから床に手をつく。
王国の騎士団をなめないでもらいたい。たった1匹の魔物にやられるような騎士団じゃない。
だが、私もまだ弱い。もっと強くならなきゃ。
その後、他の第1小隊の隊員が来てチェルノを連行していった。チェルノは特に抵抗はしなかったが、去り際こちらを見て、君の綺麗な顔が歪む様は美しかった、なんてセリフを言い残して連れて行かれた。はい、気持ち悪い。
そして魔物、もといキメラは重要証拠として魔物討伐担当の第9小隊に引き渡すことになった。
部屋の外で待ってもらっていた令嬢2人も無事に保護されたみたいで報告を受けた。3人共特に怪我も無く済んで本当に良かった。ただ精神的なダメージを受けているので戻ったらカウンセリング等必要になるだろう。
事件は解決した。
そう、解決したのだが今新たに問題が起きてしまった。それは私目の前に居る、一緒に戦ってくれた人、もといリオンの事だ。明らかに不機嫌である。
「あ、あのリオンさん…?」
恐る恐るリオンに話しかけるものの、ギロリと睨まれてしまう。あれ、なんで睨まれてるの私。一緒に戦ってくれてた時は優しかった気がするのに、気のせいだったのかな。
はぁ、とため息を吐き腕を組み直してこちらを見てくるリオン。やけに騎士服が似合ってるなぁと、ぼーっと考えてしまう。視線を感じるけど明らかに怒ってるよね。怖くて目を見れないけど、この雰囲気に耐えられない。
思い切って伺うようにリオンを見つめると、もう一度盛大にため息を吐かれる。よし、ここは何事もなかったかのように話そう。
「と、ところで、どうやってここが分かったの?」
「お前が吹っ飛ばした奴からここの事を聞き出したんだよ。時間が無かったから実力行使で無理矢理。」
「ご、拷問って事…?」
「……。」
「……鬼…。」
「うるせ…。」
私がお茶会の場で吹っ飛ばした男が役立ったみたい。それはそれで良かったんだけど、さすがリオンと言うべきできなのか。味方にいながら敵に回したくない人ナンバーワンだ。
「それにしても、結果的に無事だったから良かったものの、敵と一緒に転移するなんて無謀過ぎる。」
「だって、とっさにあれしか思いつかなかったんだもん。」
「……はぁ。このバカ。」
確かに冷静に考えると無謀だったと思う。今回は敵が弱かったから何事も無かったのだ。
それでもバカ、と言われた事にムッ、としてしまうと、両頬をギュッと鷲掴む様に片手で掴まれてしまう。
「むぎゅっ。」
「アホヅラ…。」
「わひゃってるならはなひてよぉ。」
私の間抜け面を見て笑うリオン。はいはい、どーせ間抜け面ですよーだ。
鷲掴みにされてるが決して痛いわけではなくむしろ、優しく触られてる様な感じに何故か落ち着かなくなる。
「は、はやくはなひてよぉ。」
頬を掴んでいるリオンの手を掴みながら、身長差的に覗き込む様に下から見上げると、リオンは何に驚いたのか少し固まり、そのまま手を離してくれた。痛かった、なんて大げさに頬を撫でていてもリオンは何も言ってこない。はて?いつものリオンと違う。
「お前のその…「城に戻るぞー。」
第1小隊の人が呼びかけるが、リオンの声を遮るような声量だった為、聞き取れず聞き直す。
「え?今なんて言ったの?」
「なんでもない。……戻るぞ。」
そう言ってすたすた先に歩き出してしまう。その様子をぼけっと見送ってしまうが、言い忘れた事があった。
「ねぇリオン!」
私の呼びかけに足を止め振り返ってくれるリオン。
「助けてくれて、ありがとう。」
手を振って笑顔でお礼を伝える。お礼はちゃんと伝えなきゃね。リオンには本当に助けられた。すごく心強かったし、いつも冷たいせいか、なんだか嬉しかった。
リオンは何か変なものでも見たように目を開きまた固まる。リオン?と言うと何でもない、と言ってまた歩き出してしまった。なんだかいつものリオンとは違って余裕が無く見える。
去って行く横顔には片手が添えられていて、その隙間からはほんのり赤い頬が見えた気がした。




