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10 禁忌①



 もう1つの顔は隠れてたみたいで今まで見えなかったがこうして近付いた事で分かってしまった。1つは狼の顔。そしてもう1つは猫の顔だ。顔が2つ。こんなのあり得ない。


「あれー?やっと気付いたの?」


  その事に気付いてもらえたのが本当に嬉しいようで喜ぶチェルノ。すごいでしょ、なんて子供が親に褒めてもらいたくて言う様に話しかけてくる。


「キメラ……。」


「せいかーい!賢いねぇ。そうだよ、これはキメラ。僕が作ったんだ。」


  更に笑みを深くして話を続けるチェルノ。


「…本当は顔3つにしようと思ってたんだけどね、お嬢さんに邪魔されちゃったなぁ。合成する為の魔法陣書くの大変なんだよねぇ。あと少しだったのに。」


  顔3つ…?まさかこいつ魔物を2匹くっつけただけでなく、連れ去って来た令嬢ともくっつけようとしたって事?そんなの人の道を外れている。

  信じられない。合成は禁忌魔法であり、そもそもそう簡単にできるものでもないのだ。それを1回は成功させて更にもう1回やろうとしたのか。


「頭おかしいんじゃないの。」


「わぉ!それ褒め言葉!!」


  狂ってる。人の命を何だと思っているんだ。人を憎いと思ったのはこれが初めてだ。

  令嬢の手を取り檻の中から出る。間に合って良かった。手を強く握る。驚きや怒りが溢れ出しそう。許せない。


「あらら?もしかして怒ってるの?まぁ一応失敗しちゃった事になるわけだけど、失敗してもまた挑戦しなきゃダメだよね。僕、諦めがすごく悪いから。」


  何を言っている、と言おうとしたがそれはできなかった。

  隠れてたであろう新たな2人の敵が現れる。そしてあろうことか、魔物の鎖を外した。


「な、なにをっ!!?」


「何をって、それは見てからのお楽しみだよ!」


  楽しくなってきた、そう呟くチェルノ。

  魔物は鎖が外れた事にすぐ気が付き、檻から一歩一歩踏みしめる様に出てくる。


  令嬢を後ろに庇いながら、魔物を見る。まさか、今から3つ目の顔を作ろうとしているの?いや、それにしては魔法陣が見つからない。

  私から離れないで、と後ろに居る令嬢に言う。返事が無いが魔物から目は反らせない。


「さて、ショータイムだ。」


  チェルノの独り言をきっかけに魔物が動き出す。こっちに来るか、と思い構えるが魔物が向かった先は鎖を外した2人の男だった。


「お、おいっ!!何でこっちに来るんだ!?」


「た、た、たすけてくれ!!!」


  男2人はチェルノに助けを求めるが、チェルノは笑う。


「ここまで協力してくれてありがとう。ばいばい。」


「っぎゃぁぁああーー!!!!」


  ザシュッ バキッ


「ひっひぃぃ!来るな来るな来るなー!」


  バキバキッ


  それは一瞬だった。

  一瞬で大の大人が血しぶきをあげて死んだ。悲惨な姿に思わず口に手を覆い、目を逸らす。目を逸らしてもなお、男達を食べる音が聞こえてくる。とてもじゃないけど見てられない。守る人が居なければ冷静さを保てなかったかもしれない。


  ひどい。仲間だったのに。何故こんな酷い事ができるの。

  後ろに居た令嬢は嗚咽をあげながら座り込んでしまう。


「あーあ、もう終わっちゃったんだ。つまらないねぇ。」


「…つまらない、って……仲間だったんじゃないの!?」


「仲間?ううん、違うよ。ただの餌だよ。」


「…えさ……。あんた人の命を何だと思ってるのよっ!!」


「だから、さっきから言ってるでしょ。キメラの餌だよ。せっかく時間かけて作ったキメラの為にも、新鮮な餌を用意しなきゃね。」


  親は子供の為にごはんを用意するでしょ、それと一緒、とチェルノは言う。

  もう何も言葉が出てこない。会話すればするだけ、チェルノの口からは碌でもない言葉が出てくる。もう、うんざりだ。聞きたくない。


「も、もう嫌だ…何で私がこんな目に合うのっ……?帰りたいっ…ひっく。」


  目の前で男が喰われる所を目撃してしまって、虚ろになってしまう。

  よろり、と立ち上がると、彼女はフラフラと扉の方へ向かってしまう。


「っちょっと待って!今動いたらっ!!」


  魔物に標的にされてしまう、その言葉は魔物の声にかき消された。


  いつの間にか男達を食べ終えた魔物はギロリと彼女を見据える。その目がだんだんと獲物を見つけた目になり、向きを彼女の方に向けた。

  彼女は気付かない。ふらり、ふらりとヒールの音を鳴らしながらゆっくりと扉の方へ歩いてく。

 

  やばい、と駆け出す。魔物もすごい速さで駆け出している。間に合え。

 

「ネロ・クスィフォス(水の刃)!!!」


  魔物が飛びかかったところを水の刃で受け止める。水の刃の硬度を上げ、刃を氷の様に硬くする。


「…うっ。」


  魔物はすさまじい力のかかった爪で押してきつつ、狼の方の顔でこちらに噛み付こうとしてくる。すんでのところで避けるが、その拍子で牙に付着していた男の血が頬にびしゃっと飛んでくる。

  水の刃で両手を使ってしまっている為、手がふれない。 力勝負だとやばいかもしれない。


「お嬢さん、頑張れ〜。あ、でも言い忘れたけどそのキメラ、肉体改造してるから。」


  気を付けてね、と言う言葉が合図かの様に押してくる力が強くなる。ムキムキと、魔物の腕が太くなった。


「っきゃぁぁあ!!」


  やっと今の現状に気づいた様で、叫び出す。真後ろに私と魔物がいたことで、尋常じゃなくパニックを起こす。

  こちらを眺めながらその場に座り込んでしまう。


「っに、にげて!!早くしないと、もう、おさえてられないっっ!!」


  私の必死の声も彼女には届かない。目を見開き、涙を流し、固まっている。


「立ってっ!!!」


「…む、むりよ…あ、あしが、うごかないの……。」


  ジリジリと押される。このままじゃ本当にまずい。目の前には魔物、後ろには令嬢。どうする、どうする…?

  必死に持ち堪える間にも魔物の力はどんどん強くなる。



 

  更にぐっ、と強く押された時、後ろからとても優しい声が聞こえてきた。





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