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のほほんカタストロフィ  作者: 銀朱の羊
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プロローグ

小説家になろう初投稿です。ちゃんと投稿できるかな……(・ω・;;)?

「ふぁ……新年度だってのに眠いや」

 澄み切った青空の下、声変わりに失敗したかのような少年の可愛らしい声音が響く。

 声の主の姿は、黒く艶やかな髪をレイヤーにカットした少年だ。顎の先まで伸びた横髪の隙間から見える顔の輪郭は、精巧に造形された美術品のように繊細な小顔。細筆で引いたかのような柳眉が飾るのは大きく見開かれた琥珀色の瞳。

 身長が百六十センチに満たないその体は細く華奢で、男子学生のブレザーを着ていても少女のように見える。だがその胸は見事にぺったんこで、正真正銘の美少年だった。

「お早う茜~」

「ふわっ、わわわっ!?」

 自転車を支えて道路で立ち止まっていた美少年、葉山茜(はやまあかね)の背後から近付きぽふんと抱き付いてきたのは、彼と似通ったデザインのブレザーを着た少女だった。

「いっ、いきなり後ろから抱き付くなよ瀬奈!」

「昨日14Daysで助けてくれたからー、そのお礼」

 背後から茜に抱き付いた少女、飯塚瀬奈(いいづかせな)は抑揚の無い平坦な声で茜に返事をした。茜と同じ高校に通っている同級生で、幼い頃からの馴染みの少女である。

 瀬奈の顔立ちは平凡で、ボブカットは似合っているがギリギリ美少女と言える感じだ。感情表現も乏しくいつもマイペースな性格でどこか神秘的。しかし彼女が持っている最大の凶器は、高校二年生の段階でDカップまで成長したそのおっぱいである。

 今も背中に豊満なおっぱいが押し付けられていて、茜は顔が真っ赤だ。

「イヤホン付けてれば茜の背後を取るのは余裕」

「ぐぬぬっ、人の弱みに付け込みやがってぇ。早く離れろよっ」

 瀬奈と茜が話をしていると、不意に自転車のブレーキ音が響く。

「ったく朝っぱらから茜を挑発してんじゃねえ、瀬奈。といっても、お前ら二人が抱き合っていても全然嫉妬できねえな。まるで百合だぞ?」

声が聞こえて茜と瀬奈が振り返ると、茶髪を手櫛で掻き上げ呆れ顔をした不良が自転車から降りてきた。身長が百七十センチを超えている、少々目付きが悪い少年である。

「源氏、それって僕にとって最上級の侮辱なんだけど……」

「ちったあこき下ろしたっていいだろ。茜は全校女子にモテてんだからよ」

 茜をこき下ろした彼の名は中野源氏(なかのげんじ)。保育園時代からの茜の親友だ。

 その茶色の髪は天然なのだが、保育園の頃からそれを誰も信じず、他の子供の両親は彼の親が染めさせたのだろうと陰口を叩いていた。そのため誰も源氏と遊ぼうとはしなかったが、家が近所だった茜だけは源氏に普通に接して一緒に遊んでいた。

 小学生の頃になると源氏に突っ掛かってくるガキ大将がちらほら出てきたが、その際茜も加勢して大喧嘩をしたこともしばしば。しかし中学高校と進学すると源氏は背も伸び、体格も良く喧嘩慣れしていたために学校の番長の烙印を押されてしまう。

 それでも華奢な茜と対等の友人関係を維持していたために問題児といった印象も薄れていくのだが、そのたびにナンパ男に絡まれた女子生徒を助けるために喧嘩を起こしていたために結局不良で番長で恐ろしいという烙印を押されたままである。

 とはいえ女子生徒を助けるために喧嘩を吹っ掛けているので源氏の隠れファンの女子は意外と多い。

「源氏もあたしに抱き付かれたい?」

 などと瀬奈が爆弾発言をすると、

「「いい加減それやめろよっ」」

 茜と源氏は声を揃えて瀬奈を叱り付けた。プルプルと弾力があって豊満な瀬奈のおっぱいは、二人の男子にとっては非常に危険だ。

「いい加減離れろよ、瀬奈。さっさと学校行くよ」

「はーい」

 茜に言われて瀬奈は離れ、自転車を出すために自宅の車庫へ無表情で歩いていく。学校へ行く前に仲良し三人組が集合するのは、茜と源氏の家の中間にある瀬奈の自宅前だ。

 するとそこへーー。

「お兄ちゃん、源氏先輩、おはようございます」

 茜と比べてもさらに一回り幼い少女が歩み寄ってきて、男子二人に声を掛けた。

「よう、加藤。おはようさん」

「あのさ穂乃香、僕のことをお兄ちゃんって呼ぶのやめてくれない?」

 源氏は見知った後輩に挨拶を返したが、茜はジト目で抗議を述べた。

「嫌ですっ。茜先輩は私に輸血して命を救ってくれた大事な人なんですから、だから私達は血を分けた兄妹なんですっ! け、けけけ結婚はできますけど……」

 茜の要求をきっぱりと断り、しかし最後に結婚云々を尻すぼみで口にした少女の名前は加藤穂乃香(かとうほのか)。茜達より二つ年下の、中学三年生の少女だ。

「まったく、なんで血を提供したこっちが特定されるんだ!」

「お前さんらの血液型がRH-O型だからだろが。これだけ近所ならバレて当然だろ?」

 茜は病院に無駄な抗議をしたが、源氏が言ったように茜と穂乃香は極めて稀な血液型、RH-O型の血液の持ち主だった。

「茜先輩がいなかったら、私はダンプに轢かれて小学校の時に死んでましたから、だからお兄ちゃんは私のヒーローなんです!」

「うっ……」

 そう言って穂乃香はくるりと回って微笑んだ。茜はその可愛らしさに息を飲む。

 穂乃香のロングヘアは太陽の光を吸いとったかのような純白だ。小学生時代の大事故のショックによって髪の色素が抜けてしまったが、今では天の使徒のような清廉さを穂乃香に与えている。

 三日月型の綺麗な蛾眉の下にある純真無垢な黒目が黒真珠のように煌めき、形が良くもちょこんとした小鼻と、桃色の唇が若い活力と慈愛を滲ませている。顔の輪郭は美しいがまだまだ幼さを残し、反面ウエストのラインは細く男の保護欲を刺激するようにくびれている。胸は発展途上のBカップだが、天使のように愛らしい少女である。

「鍵ー、家の中だった」

「せっ、瀬奈先輩!」

 瀬奈がのんびりとした表情で車庫から出てくると、穂乃香は一気に緊張した。そして、

「わっ、私は瀬奈先輩には負けませんからっ!」

「ん?」

 穂乃香の何度目かになる瀬奈への宣戦布告。だが当の瀬奈は何事かと男子二人に視線を向けた。

「女殺しの茜大先生に聞け、瀬奈」

「ぼっ、僕は中学生なんて興味無いしっ」

「ほ?」

 源氏は茜に脇を肘で突いて笑い、茜はしどろもどろで答えた。瀬奈は首を傾げて頭上に疑問符を浮かべる。

「じゃ……それじゃあ行ってきます! 先輩達もお気を付けてっ!」

 宣戦布告が不発に終わった穂乃香は顔を真っ赤にして走り去っていった。彼女が通っているのはこの近所の中学校であり、茜達が通うのは隣接する市の高校だ。

「んじゃ修羅場は回避されたってことで、俺らも行くか」

「はぁーーー、困った後輩だ」

「おー」

 源氏が場をまとめると、茜と瀬奈はそれぞれ返事をして三人は自転車に乗った。

 正直なところ茜と源氏が好きな女の子は瀬奈だ。だが男子二人は、この幼馴染みという関係を壊したくないために自分の気持ちを押さえている。いや、正確には瀬奈がどちらを選んでも恨みっこ無しと協定を結んでいた。

「そういや茜、お前さ話題になってるあの動画見たか?」

「なんの動画? まさかまたテロの犯人が撮った射殺動画なんて悪趣味なの見てるの?」

 源氏と茜はたわいもない話をしつつ、自転車を漕いでいく。

「ちげーって、車の事故で胸が潰れてんのにやたらと暴れ回ってる奴がいたんだってよ。コメントじゃ不死身の人間とか書き込まれててすげー賑わってんだ」

「くおらっ! 事故に巻き込まれた人に失礼だろ! 肖像権とかどーなってんだ?」

「学校着いたら見てみろって、明らかに心臓近くが潰れてんのに生きてるなんざ、マジで奇跡だって」

 源氏は興奮気味にまくしたてたが、茜は悪趣味だと嫌な顔をする。

「それより僕はあれだな、三月にほとんどの国で死者が零から数人だったっていうネットニュースの方が凄いと思うな。日本でも月間の死者が零人だったって」

「んなもん、統計取ってりゃたまにあるだろ。それより瀕死でも暴れられる人間の生命力の方がすげーって」

 源氏と茜が益体もない話をし、その二人の後を瀬奈がぼーっとしつつ追い掛けていた。三人にとって普通の、平和な日常風景だ。

 だが、そんな平和がもうすぐ終わることを三人は知らない。

 源氏が見た動画、茜が見たニュース。

 それは兆し。

 人類が築き上げてきた文明が崩壊する直前の、世界の軋みだった。

 源氏が拡散した動画を見付けた頃、大国アメリカでは既に騒乱の火種が各地に飛び散っていた。

 茜が見付けたネットニュースが記載された頃には、中国の病院では致命傷を負ったはずの重症患者で溢れ返っていた。


 この日より一週間の後。令和二十五年、四月十日。

 世界は、カタストロフィに直面した。

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