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屍生島奇譚 発生 校庭

 因みにこの後も1200字から2500字程度の話が続きます。このペースが嫌だという方、勝手に進めてしまって申し訳ありません。

校庭に全校生徒を誘導することは叶わなかった。トイレの個室で吐き続ける者や水道の近くで悶え苦しむ者、其処は正しく地獄であった。トイレや水道を見て回ったがまだ人が何人か残っている。吐いている子供を無理矢理連れ出すわけにもいかないので、暫くは自分も此処で待機しようとしたが、生徒のもがき苦しむ様を眺めるのは辛かった。充血した目に苦しそうな捩れた表情、痙攣する四肢と口唇を震わせながら黄土色の吐瀉物を吐き続ける。数人は喉や顔を掻き毟りながら暴れるように叫んでいる。途轍もない悪臭が立ち込める校内で礼輔自身も呼吸が辛くなった。廊下に汚らしく吐かれた跡が見えた。消化され切っていない内容物と胃液が辺りを濡らしている。時々倒れ込む生徒に大丈夫かと声を掛ける事もあったが、返事をする元気も体力も無いのだろう。

 トイレの個室に閉じこもったまま出てこない子供を説得しようと扉をノックするが、返ってくる反応はどれも苦痛から出る悲痛な喘ぎばかりで、まともに返事した生徒は一人もいなかった。其処へ駆け込んできた中年の男性教師に目をやると、礼輔は仰天した。青白く血の色を喪失した肌と、股間に残る失禁の後、異臭を纏ったその姿に数歩引いた。自分の先輩にあたる教師の金沢である。教師用の給食にも混入していたという事だろう。

「大丈夫...ですか?」

 礼輔の返事に真面に答える事も無く水道に吐きつける金沢を見ていられなかった。普段は行儀よく穏便な男でこの様な醜態を晒したことは一度も無い。その金沢を我慢できないほどに追い込む名前も知らない病原体の存在に礼輔は震え上がった。

「葉山...君、先に校庭に...」

 これが教師、金沢が放った最後の声であった。 

「はい」

 怯みながらも返事をすると礼輔は改めて自分の教室と佐伯の教室を巡回し、急いで校庭に出た。

「全員揃うのは無理だ。佐伯君、病原体を特定するよりも先に避難と蔓延を防ごう。此処は仕方がないから、未感染の生徒と感染者を隔離して校庭で待たせておくんだ。」

「言われなくてもそうしている。これはまずい。さっき職員室の放送機器から流したが、もう俺等以外の教師も全滅していた。」

「未感染の生徒は何人位?」

「5人しかいなかった。原因の食材、料理は例のフルーツシロップだな。」

「食中毒じゃないのか。」

 これはもう半ば解り切ったことだが、原因としては若干意外だった。ウイルスが意図的に混入されていたのだろう。その為に液体が若干含まれているこのメニューが都合が良いのだろうと礼輔は予測した。

「ああ、いま感染していない人は皆それを食べていない。もしかしたら製造過程や運搬過程での異物混入かもしれない。他にも奇妙な物が幾つかあった。縮瞳が起きていた。」


 縮瞳は神経に作用する強烈な毒に冒された生物の症状の一つで、黒目、つまり瞳が極端に縮小し、視界が狭くなることである。

「他にも四肢の痙攣や嘔吐下痢、失禁があるところ見ると、フグ毒か、キノコの猛毒だな。」

 これは医学に精通していない礼輔にも解る。先程から症状を訴える児童は足が覚束なったり、喉を掻き毟ったりと通常の毒では見られないような症状を見せている。ただ、それでも早すぎる。明らかにそれらの毒よりも回りが早いのだ。佐伯もそれには気付いているようだった。

「大人に回るのも凄く早かったからよほどなんだろう。保健室か医院の中に特効薬は..」

 そう言いかけた礼輔を遮って佐伯はこう言った。

「何の毒かも特定出来ないまま下手に動けば悪化させる恐れもある。それにこの毒の正体が解らなくても、感染力と強さは今までで一番だろう。」

 礼輔は拳を握り締めた。苦悶の表情を浮かべる生徒の前で何も出来ずに立ち尽くす自分を嘆いた。それはきっと佐伯も同じだろう。意図的に使用されたと断言できる根拠はないが、これは細菌やウイルスの生物兵器かもしれない。

「せんせ...い。死んでいる?」


 この時初めて謎の病原体の感染者がさらなる異変を見せた。それは自分の生徒一人で体格の良い少年だった。ぴくぴくと引き攣らせていた体は動作を完全に停止し、倒れた丸太の様に動かないまま底に横たわっている

 しかし、礼輔は此処で不自然な事に気付く。おかしいと気付くのに十秒もかからなかった。死体の首元に奇妙な赤い斑点が描かれている。マジックやボールペンによる悪戯では当然ない。水疱瘡のような、それにしては大型な湿疹。

「何だこれ...?」

 その時だった。死んだはずの男子生徒の体が微かに震える。礼輔はかつてない恐怖を感じた。自分の体を刺す様な不思議な信号が急げと自分に伝えている。痛い程に伝わる恐怖から逃げる為の衝動。生理的な嫌悪感では済まされないほどの恐怖。目の前で動き出す死体から感じる邪悪な波動に戦いた。

「おい!どうしてだよ。」

 本当の恐怖は此処からだった。此処までは幕開けに過ぎず、まだこの時の礼輔は何も知らない。そして当然知る由もない。

 今作は全体的な長さから見れば短編程度ですね。

今回もお付き合い頂き有り難う御座いました。

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