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屍生島奇譚 異変 校内①

 連続投稿の方法がよく分からないのですが、今日中に全て投稿します。もう書き上げてはあるので、先の二編の様に停止したりはしません。

 礼輔が此処に赴任して彼是もう一か月になる。予定が綺麗に整列するメモ帳のカレンダーを眺めるとこの30日間を振り返る。最初は戸惑ったこの島の特性や食糧事情は2週間を過ぎたあたりで慣れた。気候は元々瀬戸内海の出身であるから、困惑しなかったが、島民の数人が標準語や広島弁と懸け離れた日本語とも思えない方言をするのは今でも慣れない。広島の中でも都会の方で育った彼には四国の方言やそれ以外の癖は理解の限界がある。ただ、島民性は比較的陽気で接しやすい。担当する子供や島の人間の中に特段問題があると感じた点もない。自分が独身なこと以外は人間関係で困らない。ただ、安穏とした日々は今日、終わりを告げる。あまりにも残酷で凄惨な形で迎えた悲劇は予兆も無く突然始まることになる。


 いつもと同じように4時間目の理科を終えると、校長室に向かった。島の学校は大変規模が小さいので、教員は校長室と区切りの無い職員室で食事をする。全校でも70人を超えない。実際の所、70人を超えれば、結構多い方だ。10年前の広島市の政策は中々、奮闘した方だろう。島の環境も随分変わったらしい。当時の島を知らない礼輔からすればどうでもいいことだが。この給食も広島市の給食センターから送られる物で作られている。実際に調理するのは校内で専門の職員がいる。頻繁に食糧船が行き来するので、給食のバリエーションも充実している。


 礼輔は給食室に食缶を取りに行く。職員室とラウンジに運ぶと、彼はもう一つ残っている仕事を思い出した。今日は庭の塵を広島に送る日だ。その為の船は今日の昼に島を訪れる予定だ。定期船なので週2で来るのだが、これも最近始まったシステムらしい。そして食事を始めた生徒、他の職員の代わりに礼輔が出しに行った。これには南の港を利用するので高台にある校庭を降りるだけである。最早習慣化したことなのでこれに戸惑ったりはしない。自分の学級に先に食べているよう指示し、急いで塵を出しに行く。古びた軽トラックを唸らせて荷台に塵を積んだ。


 塵を出し終えた礼輔は軽トラックを走らせて、高台を駆け上がると、校庭の裏の駐車場に止めていると、養護教諭兼教員の佐伯雅孝が声を掛けてきた。手には彼が広島から拘って買っているタバコがある。小学校に吸うのは辞めておけとあれほど言ったが、彼は若干の依存症らしく、昼食前のこの時間は必ずと言っていいほど吸っている。教育の現場に相応しくないことは彼も承知しているが、自分のなけなしのストレス解消だと言って辞めないのだ。

「ゴミだしお疲れ。葉山君」

 右手を挙げて合図をしながら佐伯が近寄ってくる。

「佐伯君はまた一服かい?」

 佐伯は礼輔の2歳上の島出身の男性で養護教諭の資格も持っている。そしてこの学校の学級の一クラスの担任と兼任している。フレンドリーで付き合いやすい彼は島に慣れなかった頃の礼輔にとって有難い世話を沢山焼いてくれた。2歳上だが、礼輔は先生、さんと敬称を付けず、~君と呼んでいる。

 窓に手をかけ、呻くようなエンジン音の旧式のサンバーを止めながら礼輔は答えた。

「まあまあいいじゃないか。此処は生徒も保護者もいないからね。」

「君自身の身体を案じてこれを言っているのに、此処の島民で喫煙者は君と定期船の皆川さんだけなんだよ。」


 しかし丁度、その煙草も燃え尽きたらしく、佐伯は煙草の火を消して今定期船に捨てたばかりのサンバーのゴミ箱に捨てた。


 二人も職員室に入って自分達の給食を御盆ごと持って、各々が担任しているクラスに向かう。異変は此処で起こった。

「先生!ヤべぇ。あいつ、吐いた。」

 クラスメートの一人の声がする。昼食を戻したという事だろう。礼輔は食中毒を考えた。

「大丈夫なのか。今何処にいる。」

 ここに赴任して初めての戦慄に礼輔は驚いた。しかし、ここで事態は終わらなかった。

「まじぃ、こっちも二人ゲロしていやがる。」

 佐伯の声に礼輔は思い当たる節があった。前にいた広島の学校での牡蠣による集団食中毒である。海産物による給食食中毒というのは地方でたまにあることだが、もう症状が出始めているという事は毒の回りが非常に速い。前回は昼休みを終えたころに気付いたのだが、今回はもう吐いたという。吐いた子供は小柄で華奢なので、毒の回りが早かったのかもしれない。だが、隣の学級でも同じ症状を訴え、吐いているという事は相当毒が強いのだろう。吐いたのが血でないだけましだが、これは明らかに異常だ。

「皆、今日は給食を絶対に食べるな。吐ける奴は外に行って吐いてこい。」

 いつもより語気を強めて高難易度の要求を突き付ける。まだ食べてない奴は給食をそのままにしておけとも言った。これは後で調査が入った時の事を考えての事だが、それは随分後になる。さらに佐伯と礼輔は指示を続ける。

 しかし、この注意は聊か遅かった。既に全員が食事に手を付けている。

「トイレが一杯になったら庭で吐け。今元気な奴は他のクラスと職員室にも伝えろ。」

この命令は大人は毒の回りが遅い人もいるからだが、もう先に佐伯が知らせたようだった。

「おい、葉山君、おかしいぞ。普通は強い毒でももう少しかかる。それに今日は海産物の無いメニューだ。」

「気付いているよ。吐瀉物に触れないように、離れて。」

 佐伯との会話と生徒への指示を交互に行う。これほど慌ただしいのは久しぶりの事だ。

「いや、揮発や充満に用心するなら校庭に避難だな。そして保護者にも緊急連絡網だ。」

 佐伯も礼輔も携帯電話での対応に追われる、予定だったが、

「繋がらない。」

 礼輔は自分の拍動が速くなるのを感じた。

「こんなことは今まで無かったから、基地から切られているんだろう。こうなればもうお手上げだ。」

 佐伯は深刻な表情で言う。。今日が普通じゃないことはこれで分かった。

「何にしても異例すぎる。此処までくればもう誰かが故意にやっているとしか思えない。」

 それは二人の経験と知識から見ても明らかだった。背後で聞こえる嘔吐の呻きが更に礼輔を動揺させた。

「大丈夫か...」

「何か気持ち悪い。」

「なんか怠いよ。」

 次々とクラスメートが異常を訴え始める。隣のクラスも状況は同じだろう。時々幼稚な悲鳴や倦怠感に唸る声や音が聞こえた。

「皆、早く非難して。」

「急げ!校庭に出るんだ。」

 このような時に迅速な行動をとるのは鉄則だが、それも追いつかない程に生徒の体調不良が多い。我慢しろとは言えないのは、数年前に自分も牡蠣に中ったことがあり、その苦しみを知っているからだった。礼輔は唇を噛んだ。

「何が起きているんだ・・・」




 今後は前書き、後書きに近況や予定投稿日に関する情報が無いので、かなり省略します。

今回もお付き合い頂き有り難う御座いました。

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