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屍生島奇譚 救援 仲町

 実際緊急で通報したら、何処の誰がどの位の速さで駆け付けるのでしょう。お世話になった事もないのでここも想像です。

「君達が無線を使って広島に連絡を送った...」

 如何にも堅物そうな船から降りてきて警官がこう言った。礼輔がこれに応える。

「はい、先程の無線を送りました葉山と申します。」

 すると、警官は顔を顰めて、生徒と教師二人の顔を睨んだ。

「はっきり言って先程の無線の内容は私にはよく理解出来んかった。君の緊迫した声を聴いた本部がとりあえず出せと言ってこの船を送ることを命じた。」

 その声には礼輔たちに対するあからさまな不信感が込められていた。礼輔は自分が無線で放った説明の一言一句を思い出し、その説得力の無さを改めて恥じた。

「ええ、無線で全てを伝えるのはあまりにも難しい事です。」

 一先ず落ち着いた声でこう答えたが、ここで状況が変わりそうにない。

「実際の所、この島の状況を見ていただいた方が早いのです。百聞は一見に如かずとも言いますから、町の様子を観察しましょう。当然私も同行します。ただ、子供達と佐伯と言いますが、この男は船内に入れて下さい。」


 その後いくらかのやり取りがあったが、結局佐伯も警官も船内の人達もこれを承諾し、警官は礼輔とともに街に出ることにした。無線で暴徒という言葉を使ったのが効いたらしく、彼は拳銃を構えながら慎重な足取りで街に足を踏み入れた。

「気を付けて行けよ。ああ、それと自己紹介がまだだったな。俺は広島警察の...正式名称は長い。まぁ特殊部隊所属の笹沼、笹沼浩嗣という。」

 佐伯の声が背後から聞こえた。子供達も黙って此方を見ていた。安心、不安、絶望、その表情一つ一つは何を表しているか解らなかった。全てを表しているようにもどれも違うようにも見えた。警官の後を同じくらい慎重な足取りでついていく礼輔は少し振り返って精一杯の笑顔を見せると、必ず帰ってくると小声で呟いた。


 礼輔と警官、笹沼は島の町の方面に向かってゆっくりと歩いていく。静寂に包囲された町は微妙な生活感と虚無感が入り乱れ、不可解な空気が流れていた。その時背後から大きな瓶を持った男、感染者が近付いてきた。此方を確認すると、走って向かってきた。瓶を振り上げ、笹沼の頭部に叩きつけようと思い切り振りおろした。それを交わした彼は素早く感染者を締め上げ、礼輔に対し、此奴が暴徒かと聞いた。礼輔は頷いた。

「おい、何しとんだ。」

「お前を...殺しに来た。仲間を求めている。」

「此奴、何わけわからないことを言っていやがる。」

 笹沼は顔の異常に肥大化した斑点を見てそいつが普通の人間でないと解ったらしい。人を襲う時点でもう普通ではないのだが。

「あまり、そいつに近づかない方が良いですよ。そいつは元人間、つまり今は人間じゃない。」

「意味が解らんが、此奴が普通じゃないのは分かった。」

 笹沼はすぐに感染者の頭を強く殴り、気絶させた。

「この変な斑点はなんだ。頭がおかしいタトゥーか何かか?」

「いえ、感染者に現れる、奇妙な発疹です。」

「そんなのが有り得るか、発疹というのは、もっと医学的な理由で自然な形で皮膚に現れる。こんな大きくなるのは...」

 笹沼は礼輔の意見に反論した。常識的に見ればそれが当然だが、この時の礼輔に感染者を常識から判断する目は残っていないかった。今日起きた一連の事象は常識という観点が通用するものではない。

「こんなもんは信じねぇ性質なんでね。」

「私もそうですよ。だけど、ここまでの事があって一般的な知見が通用するとは到底思えない。」

「他にもいるという事だな。」

「当然です。私はこの斑点、今は便宜上赤いウイルスと呼びましょう。これに関して簡単に説明します。赤いウイルスは人間に経口感染します。そして、一回はノロウイルス感染症のような症状が現れる。潜伏期間はほぼないと言っていい。そしてその数分後には一度死んだような状況に陥る。しかし、此奴が再び起き上がる。人外の化物と化して人を襲い始める。一定の知能は残るようだが、判断能力や理性は失われ、人間を殺すことや自分の仲間を増殖させることしか考えなくなる。」

「増殖とは?」

「簡単です。新たに経口感染、つまり、感染していない人間に強引に接吻をするのです。唾液や血液にウイルスが混じっているのかもしれません。そうやって人から人に移していくのでしょう。」

「それで今そのウイルスにやられたのは」

「先程の五人と私以外は生存者が確認できていません。こうやってパンデミックした理由は給食のメニューにウイルスが含まれていたからです。町に広がっているのは井戸水や地下水の給水管にウイルスを混入させたからと予測されます。」

「ゾンビってことか。」

「正確には違うと思います。知性が失われていませんし、人間が生きている状態でその化物になりうる。」

「生きていながら、人間の精神を強奪し、支配する病原体が人間の手によって意図的に播かれたとなれば、それは生物兵器使用で一大事件だ。今は君達の意見を信用するしかないから、この論理を正しいものと仮定するが、これが事実であれば、国家的犯罪がこの瀬戸内の島で行われたことになる。」

「ええ、ここまで体験しておきながら俄かには信じがたい事です。ウイルスが人間の精神を浸食するなど狂犬病や脳炎以外はあり得ないことですし、それをこうやってバラ蒔くような人間にも全く心当たりがない。」

「さっき聞いたが、携帯の基地局も破壊されていて、その破壊がこの日に合わせて起きたとなれば、それはますます疑いが強まる。」

「急いで撤退するぞ、何と言ったか...」

「葉山です。」

 そんなことはどうでもよいのだが、二人はすぐに元来た道を戻る。


 感染者が礼輔と笹沼の前に立ち塞がる。

「え...ああ...ええ...ああ、食い殺す。」

「コロ...ス」

 くそと笹沼は舌打ちを鳴らした。同時に下がっていろという合図を礼輔に出した。

 拳銃の安全レバーを引き、一番前に出てきた感染者の頭に狙いを定める。乾いた銃声が夕焼け空に響く。続けて二発が他の感染者の身体を射抜く。さらに近寄ってきた感染者を蹴り飛ばし、続けて体に三発撃ち込む。

相手がダウンしたのを確認すると、笹沼は礼輔についてこいと合図を出し、先程の船への道を急いだ。



 島というのは閉鎖された空間の代表格です。近年はそれも電波で繋がろうとしている。今回は地理的な条件で勝手に島を作って考えました。これがどう生きたか、実際のところよく分かりません。

 今回もお付き合い頂き有り難う御座いました。

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