屍生島奇譚 発信 基地①
前作の反省を受け、適度に段落を変えています。もう一度言いますが、これは習作で私は執筆スタイルが定まっていません。
この漁港と基地に踏み込むのは、礼輔にとって初めての事である。すぐに場所は解ったが、船の停泊所が意外と広く、防災基地に辿り着くまでに少しの時間を要した。生徒を抱えた礼輔は直ぐに息が切れてしまったが、此処でバテる訳にはいかないと、すぐに持ち直し、再び走り始めた。周囲に感染者が見える。
「済まない、降ろすぞ。」
礼輔は軽トラックの荷台から持ってきた鉄パイプを構えて、赤い発疹が浮かび上がったその顔面を横向きに殴る。相手に攻撃の隙を与えまいと、続けて顔を地面に押し付け、二回鉄パイプで殴る。
続けて襲いかかってきた背の高い感染者には鉄パイプの使い方を変えて対応した。槍のように構えて突き放すと、続けてジャンプと振り下ろしを組み合わせて、高い脳天を攻撃した。
更に背後から襲撃してきた数体には横向きに殴り飛ばすと、顔に蹴りを入れ、更に鉄パイプで殴打する。戦闘になれず、攻撃のフォームが定まらないが、礼輔は確実に強かった。火事場の馬鹿力だけではない、的確で瞬間的な判断力が常人を超える素早さを生み出している。剣道の技術も応用し、生徒を守ろうと奮闘する。
一行は周辺に人影が見えない事を確認して再び走り始めた。防災基地に着くと、礼輔は生徒に行動分担を命じた。二人には基地の周辺で哨、更にもう二人には近くの防災倉庫から食料の運び出し、もう一人は消耗が激しいようなので基地の中で座らせておいた。当の礼輔自身は中の防災用無線から本島の警察に直接呼びかける作業と、信号灯の発射ボタンを探す作業を同時に行っていた。
その時、休んでいた生徒がこう言った。
「先生、信号灯の発射装置なら其処のガラスケースの中の白い装置だよ。もう一つは呼びなんだけど、後でもう一回押すかもしれないからとっておいて。後無線を繋げるときのマニュアルが其処の机の奥の引き出しに入っているからそれを使った方が良いと思うよ。」
「お、おう、有難う。でもなんでそんなこと知っているんだ?」
小学生にしては詳しすぎると礼輔は思った。
「まあ、ここで御爺ちゃんが働いていて小さい頃に連れてきて貰ったからかな。でも、さっき先生が感染した御爺ちゃんを殺しちゃった..」
礼輔の手が止まった。何と言えば申し訳が着くのか、何を言えば言い訳として通るのか、抑々此処に言い訳という概念が許されるのか、礼輔には解らなかった。自然と涙が溢れてきた。思わず生徒の体を抱きしめる。
「くぅっ・・・・・・」
「良いんだよ、先生。もう御爺ちゃんと違った。」
「御免、御免なぁ...」
「今は皆の方が大切だよ。感染者のの仲間になれなんて御爺ちゃんが言ってきたことの方が辛かったよ。」
そう言いながら生徒の涙は礼輔のシャツを黒く染めていく。血よりも厚く感じるような涙がゆっくりと流れてきた。それはまるで礼輔の精神や贖罪すらも濡らしていくようだった。礼輔もまた同じように涙で生徒の服を濡らしてしまった。
信号灯を発射し終えると、同じタイミングで防災無線が通じた。
「・・はい・・・」
「至急応援要請!此方屍生島!至急救援請う。」
礼輔は必死に無線のマイクに叫ぶ。
「落ち着いてください。どうなさいましたか?それを教えてください。救援はもう要請しましたから。ね...」
相手が礼輔を落ち着けるように言う。何と説明すればよいか解らなかったが、礼輔はこう伝えた。
「住民の大半が暴徒化し、地元警察はもう殺されました。」
上手く説明したつもりだったが、事件を知らない人間から見ればどう考えても礼輔は可笑しい。
「どういう事ですか?貴方は一体誰ですか。」
礼輔は声を漸く落ち着かせて、答え始めた。
「私はこの島の教員の葉山礼輔です。」
自己紹介後すぐに相手から質問が来た。
「では、先程の暴徒化というのは具体的にどの様な状態なのですか。」
礼輔は答えに戸惑った。これを説明すれば無関係者は自分を狂人と思うに違いなかった。ゾンビのような病気って何だよと返されるに決まっていた。
「住民の殆どが狂犬病の様な状態に罹っていて人を襲ったり、殺したりしていくんです。」
狂犬病で集団感染などとんでもない言い方だが、状況はそれに近いと礼輔は思った。
「?・・・どういう事ですか?」
伝わるのも伝えるのも難しく、礼輔の言語力では限界があった。
「正確に病原体を特定できたわけではないのですが、これはある種類の病気だと思うんです。」
ますます事態をややこしくさせないよう、落ち着いて答えている積りではあるが、やはり、この事態を説明しろという方が難しい。礼輔の頭も冷静ではいられない。
「申し訳ありません。説明できなくて。ただ緊急事態であることは明確なので直ぐに救援をお願いします。救援に来ていただければ私の言っていたことの意味も解ってくると思います。」
それだけ伝えると相手の管制官も静かになって
「解りました。あと15分だけそこで耐えて下さい。健闘を祈ります。」
とだけ言った。
この連続投稿の作業は意外と負担ですね。私はこのような作業がどうも苦手です。
今回もお付き合い頂き有り難う御座いました。