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とりとめのない覚醒夢シリーズ

テノヒラノウエノ

作者: 秋月

 空を見れば、輝く星がちりばめられた果てのない天井が見えた。私が子供の頃に光って、今届いている光の欠片たち。見上げれば見上げるだけ幾百幾千と姿を変える星々。最近はもう、あまり綺麗な物は見れない。それこそ、ドがつく田舎か、山にでも登らなければ見れないのではないだろうか。最近は特にそうおもう。


 と、いう所で。私はふと気がついた。"何故私はこんな所にいるのだろう"と、疑問に思ったのだ。どうやら寝転んでいるようだったが、どうして此処にいるのか覚えていなかった。そこで、私は上半身だけを起してみた。周囲をぐるりと見渡した。――平原と言うには、少し高い。丘とでもいうべきだろうか。


 芝生の様な背の低い草が山ほどはえている丘に、私は座っていた。花は一輪として見えない。風で草が揺れたが、私は風を感じてはいなかった。


 ゆっくりと体を起す。静かに立ち上がった私は、ゆっくりと周囲を見渡した。私が立っている場所だけがポッコリと丘になっていて、それ以外は野原となっている。風が流れる音が、静かに平原と丘に響いていた。此処は何処だろうか。薄暗闇の中、星と月の明かりだけを頼りに見渡していく。だが、何も見えない。私以外、誰もいないようだ。


 結局どうしようもなく、また丘に転がって天空を見据えた。星が所狭しとばかりに燦然と煌めき、空へ縫い付けられた月が煌々と瞬いている。一瞬、ほうき星が流れて行くのが視界の端で見えた。


 どうして、こんな場所にいるのだろう。私は、また同じ問いを繰り返した。何もする事がなければ、最初に戻ってくるのは当然なのかもしれない。またほうき星が静かに流れた。次々と夜のカーテンを横切っていく流星たち。それをみて私は興奮し、思わず「流星群だ」と呟いた。


 切り裂かんばかりに盛んに飛ぶ流星。そういえば、星に願い事を三度言えば叶えてくれると言う御伽噺を本気で信じていた事があった気がする。童心に返って、という訳ではないが。私は何となく、願い事を三度呟いてみることにした。しかし、願いも何もあった物ではない。浮かんでくるのは"お金がほしい"、"楽したい"なんて、ぞくっぽいことばかり。この美しい星を穢すのも嫌で、結局刹那的な願いにすることにした。


 私は呟いた。殺風景で美的なこの場所に「話し相手がほしい」。そう三度願った。無論、願いなど叶うわけはなく、私の言葉をかき消すように星が流れ続けた。まぁ、そうだろうな。と、諦め気味に大きく息を吐いて、妙な声を上げながら大きく伸びをした。


 大の字に大きく寝転んだ私に、それが見えたのは幸運だったのかもしれない。ふと空を見直した時、一つの流星が私の元に向かってきているのに気付いた。あわてて立ち上がり、何も考えていない頭で受け止めようと、両手を長く伸ばした。


 その瞬間、瞬きすら許されない一瞬の内に、眩い輝きが私の手に飛び込んできた。薄暗かった平原にキラキラとした煌めきが降り注ぐ。その明るさでさながら昼の様になった平原は、私が掌を見つめるうちにそのうちにみるみるとその光を失っていった。


 しかし、私の掌の上の煌めきは失われていなかった。次第に収束していった光の元は、何というのだろう。妖精、と言った感じだった。ピクシー、と言う奴だ。四枚のトンボの様な羽がはえていて、短めの金髪。掌に乗る姿は可憐その物。眩い煌めきはいまだ彼女から発されていた。


 私が呆然と彼女を見つめれば、彼女も私を見つめ返してきた。そして、擬音にするのならにぱっ、と言うべき無邪気な笑みを浮かべた。穢れのない、純粋な笑顔だった。


 しばらくして、掌に腰かけてパタパタと足をばたつかせる彼女に、話しかける事にしてみた。掌を顔の近くまで挙げると、彼女がキョトンと首をかしげた。


「君は、一体?」


 んー、と言う声が聞こえ適そうな仕草で彼女は指を顎に当てた。彼女がみじろぎするたびに、キラキラと光る粉がパラパラと舞った。


 しばらくして、細い指が空を指した。流星群は何時の間にか消えうせていたが、その代わりに彼女が指している物がよくわかった。月だった。あれ? と私も月を指差して聞くとうん、と言わんばかり深く頷いた。改めて、月を見上げる。綺麗な弧を描く三日月だ。彼女は月の精とかいう奴なのかもしれない。


 そんな事を考えていると、彼女がクイクイッ、と袖を引っ張った。何かな、と思い、私は振りかえった。すると、彼女は袖を引っ張っているのではなく、ボタンが気になっているのだという事に気付いた。特に特別な事はない、樹脂だかプラスチックだかで出来ているような平凡なボタンだ。


 何故気になっているのだろうと私が首を傾げると、彼女はパタパタと羽を(せわ)しく動かして、私の頭の上に着地した。そして、私の寝癖がおおい髪の毛をいじくり始める。好奇心旺盛なのかな。私の寝癖がおおい毛は、別に金髪なんてこともなく、普通に真っ黒の、艶もない髪の毛だ。けれど、彼女はなにやらざわざわといじくっているようだった。


 結局、彼女の成すがままに任せていると、何時の間にか自分の短い髪の毛が三つ編みにされている事を知った。満足げに、そして誇らしげな笑顔で私の顔の前を飛ぶ彼女に、私も思わず顔をほころばせた。


 疲れていた。いや、この夢の事ではなく、私自身が。どこか歩き回ったり、忙しなく動きまわったりと肉体的な疲労や、単純作業を続ける事や、幾らやってもよくならない自分の頭と、精神的な疲労まで。結構溜まっていた。けれど、彼女をみていると、どうでも良くなって来た気がした。


 そっと指を差し出すと、そこにぐでー、っと垂れ下がった彼女をみて、ますます微笑みが深くなった。何を悩んでいたのだろうな、私は。そんなことを考えてしまうほど、彼女は無邪気だった。


 ふと気付くと、私は掌の上に彼女をのせていて、彼女はスヤスヤと寝入ってしまったようだった。無理もない。あれだけはしゃいでいれば眠たくもなると言う物だろうから。左ポケットにあると気付いた手ぬぐいを軽くのせてやれば、眠りながらゆっくりと笑顔を浮かべた。私も、一層笑みを深くした。


 星が私たちをみている。三日月形に欠けた月が、まるで笑顔を浮かべているように見えたのは、私の偶然ではなかったと思う。


 起きた時、掌に光る彼女が眠っている気がしたのも、きっと思い違いではなかったはずだ。見えこそしないが、きっと彼女は今も、私の掌の上で眠っているのだろう。その顔に無邪気な笑みを浮かべて。

ふとすると、落としてしまいそうでちょっとこわいですねw

多分、そろそろおきていると思うんですけどね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 見えこそしないが、 「テノヒラノウエノ」と続くのですね。 [一言] こういう書き方は初めて読みました。 可能性のある手法ですね。
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