とある丘の頂上で
魔法練習を終えた次の日、ハルキは1度だけ通ったタール村へ来ていた。
村をもっと見てみたいというのもあったが、ハルキはもっと別のことが気になっていた。
(この前のように怖がられる視線は感じない、か。やはり、あの視線はミエルにだけ送られているのか?)
今ハルキは村を適当にぶらぶらと歩いているが、村人からは、訝しげな視線は時々送られるが、恐怖といった感情のこもった視線は送られてこない。
つまり、この前村に初めて来た見たことのない男よりも、村の領主の娘であるはずのミエルの方を怖がったのである。
(だが、領主の娘となれば、村の人ともそれなりの交流をするはずだ。武力政治を行っている訳でもないのに、どうしてあそこまで怖がられる必要が……)
心につっかえが残るようで悶々とした気持ちになってしまう。
そんなことを考えながら歩いていると、気づいたら開けた丘のような場所にたどり着いた。
丘の頂上には、大きな1本の木が立っており、鳥はその木で体を休ませながら、綺麗な音色を奏でている。
見ているだけで絵になる光景が広がっていた。
当然そんな場所にたどり着いたハルキが何も感じないわけがなかった。
「…………」
無言でスケッチブックを取り出そうとした。
が、すんでのところで手が止まる。
木の根元に小さな子供がいたのだ。
髪が短くて分かりにくいが金髪の可愛い人形のような少女である。
背丈は小さく、まだ6歳ほどだろう。
少女は背中を向けているので表情は分からないが、なにやら木の上の方を見上げていた。
と思うと、たまにジャンプして、歩いて、見上げて、となにやら不可解な動きをしていた。
ハルキは少し迷ったが、何となく少女の様子が気になったので、絵を描きたい衝動を抑え、丘を登り始めた。
近づくにつれて、少女が何を見ているのかが分かった。
木の高い所に小麦色の麦わら帽子が引っ掛かっていたのだ。少女はそれを見て、ジャンプして、また見て、とずっと同じことを繰り返しているが、麦わら帽子はかなり上に引っ掛かっているため、届くはずもなく、少女は下で右往左往していた。
そんな集中している少女はハルキには気づいた様子もなく、間近にきても気づいた様子はなかった。
仕方がないので、ハルキは先に声をかける。
「うう~、どうしようどうしよう……」
「おい、どうした?」
「ぅわきゃ!?」
後ろから声をかけると、少女は奇妙な声を発して跳び跳ねた。
反応がいちいち面白いなと思わず考えるハルキであった。
「あ、あああなたいつからそこに居たんですか!?」
「今」
「……な、なんだそうなんですか、驚かさないでください……」
そう言うと何やら安心した様子だったので、いたずら心をくすぐられた気がしたハルキは一言付け足した。
「ぴょんぴょん跳ねてるの、可愛かったぞ」
「!?み、みみ見てたんじゃないですか!!」
「いや、ここに来たのは今だけど、下から見ていたのは今じゃない」
「い、意地悪ですぅ!!貴方は意地悪ですぅ!!」
「ははは」
「無表情で笑っても誤魔化せてないです!!」
そのあとも、よく分からない感情に動かされるように、しばらく少女をからかい続けた。