魔法実践
「ハルキ?なにしてるの?」
足音とともに聞こえてきた聞き覚えのある声に振り向くと、そこには太陽の光を浴びて光る金髪をたなびかせたミエルが興味深そうにこちらに向かってきていた。
「属性魔法の練習をしようとしていたんだが、上手くいかなくてな。なんとか固有魔法は使えるようにはなったんだが」
「……固有魔法を使えるようになるのに何年も掛かる人は少なくないんだから、相当早いと思うわよ?というか属性魔法より固有魔法の方が難しいわよ?」
どうやら固有魔法の方が難しかったようだ。
「固有魔法は説明があったからな。それで、どうやって属性魔法は使うんだ?」
「そうね、属性魔法はそれぞれのイメージとそれにあった詠唱や魔力によって成立するの。だから、人によって魔法の性能や威力は違うから、他人が教えてもあまり意味はないのよ」
ミエルは少し肩をすくめて答えた。
「そうか……ミエルはなんの魔法を使えるんだ?」
「私?私は風魔法よ。基本的に1人1属性だしね。ハルキは雷魔法だっけ?」
「ああ」
「じゃあ、属性は違うけど私の魔法を見せてあげる。参考程度にはなるかもしれないし」
「ああ、頼む」
ハルキの言葉に頷くと、ミエルは誰もいない庭の端にある木の方向を向いた。
そしてそちらに右手を掲げると、言葉に魔力を乗せて詠唱を始める。
『風よ、我の魔力を糧としここに鋭き刃を顕現せよ』
すると、風が手の先に集まり始める。
何もしていないのに集まるその様は、はたからみると不思議な光景だった。
………この世界ではこれが当たり前なのだが。
次第に周りの風が強くなってきた時、ミエルは最後のキーとなる言葉を発する。
『〈ウィンドカッター〉!!』
すると視覚で見えるほどに集まった風の刃は、一直線上に進んでいき、その先にある木にぶつかった。
すると、木を風の刃が音を立てながらに深く抉っていく。
次第に抉れる範囲がでかくなっていき、風がやむ頃には木の半分が抉れている大きな傷ができていた。
「どう?」
振り返ってハルキを見るミエルはどこか自慢げな雰囲気を宿していた。
「これは……凄いな。これが魔法か。ありがとう、参考になった」
「ええ、これくらい平気よ」
そう言っているが、ミエルはどことなく体が力んでいるような気がした。
ハルキはそれに気がついたが、魔法にはそれほどの緊張が必要なのだと思い疑問には思わなかった。
「ともあれ、イメージが大切なのか……」
ハルキは先程のミエルの魔法を思い出しながら、自分の魔法について考えてみる。
雷魔法は、非常に使える者が限られてくる魔法なので、(光魔法や闇魔法ほどではないが)その分魔法の威力は必然的に強くなっている。
だから、イメージがしっかり固まっていないと暴発して周りに被害がでる可能性があるのだ。
だが、ハルキには地球にいた頃に見ていた漫画やアニメの知識がある。
イメージに関しては他の者より数段上のことを考えられる自信はある。
(雷…か。確か雷を収束させて一直線に放つものがあったな。最初のイメージはこれでいいだろう)
1つの魔法を思い出したので、それにイメージを固めることにした。
そして頷くと、後ろにいるミエルに視線を向ける。
「ところで1つ聞きたいんだけど、詠唱って長い方が良いのか?」
「詠唱はあくまでもイメージを固めるために唱えるの。だから、簡単な魔法は短めの詠唱で良いんだけど、強力だったり、複雑だったりするとどうしてもながくなってしまうのよ。凄い人だと省略詠唱とかもできるらしいけど……」
「そうか、じゃあ最初は短めにするか」
そう言うと、ハルキは先程のミエルが削った後のある木に右手を向けた。
手の先に集まっていくハルキの魔力に反応して、辺りに雷の火花を散らせる。
そして、おもむろに口を開けて、魔力の込められた言葉を発する。
『撃ち抜け〈白雷砲〉』
紡いだ言葉は、それだけ。
だが、そんな短い詠唱とは裏腹に、雷を帯びた強大な魔力の本流が放たれた。
それは、先程のミエルの魔法よりも、速く、太く、そして強い力だった。
一瞬で木に到達した雷の咆哮は、そのまま木を呑み込んだ。
雷の余波がこちらに流れてきて、ミエルの体を少し痺らせる。
だが、ハルキは全く堪えた様子ではない。
そんなハルキに驚いたミエルが動けるようになる頃には、木はもう跡形もなく消え去っていた。
それどころか、後ろにあったもう1本の木も無くなっており、さらにその後ろにある木に大穴を開けてやっと止まっていた。
「……え?」
ハルキは、思わぬ威力に目をいつもより開いていた。
さすがに驚かずにはいられなかったらしい。
「……ええと、短い詠唱だと威力はそんなに強くないんじゃなかったか?」
後ろにいるミエルに問いかけると、ミエルは半ば唖然とした様子で答えた。
「そのはずだけれど……あまりにもイメージと魔力が強すぎて詠唱よりも威力が通常より強くなった、てところかしら。ハルキ、今魔力どのくらい流した?」
「全然。全体の魔力の5分の1くらい」
「……」
そのまま2人で沈黙する。
ミエルは確かに物凄い魔力量だというのは理解していたが、これほどまでだとは思ってもいなかったのだ。
ハルキは、そもそもこの世界の基準が分からなかったのだ。
だが、ミエルの魔法と自分の魔法を比べて初めてその異様さに気づいたと言えるだろう。
改めてその凄さを噛み締めていると、後ろからまた足音が聞こえてきた。
「今、物凄い音が聞こえましたが、何かございましたか?」
「ソフィア……いや、なんというか、改めてハルキが規格外なのが分かったというか……」
「……ああ」
ミエルの見ている方向を追って見ると、納得したように頷いた。
「ハルキ様の魔力は膨大ですから。これくらいなら当然の結果かと」
「そうなのか……」
「そうなのでございます」
そんななんとも言えない空気でハルキの魔法練習は終了したのであった。