領主との面会
すみません、今回ものすごく中途半端です。
不快な思いをさせたら申し訳ないです……
「もう。2人とも私を置いて会話しないでよ」
2人だけで話しているのが不満だったのか、ミエルは頬を膨らませながらハルキとソフィアの間に入ってきた。
そんな様子を見たソフィアは母親のような暖かい笑みを浮かべていて、その表情からは、我が子を見守るような印象 を持たされた。
だからハルキはどうしても自分の亡き母のことを思い浮かべてしまった。
「ハルキ?どうしたの?」
「……いや、なんでもない。それにしても、俺はミエルに連れてこられたわけだが、まさかお嬢様だとは思わなかったな」
昔のことを考えていた思考を強引に追いやると、誤魔化すように気になっていたことを口にした。
幸い、ミエルには違和感を持たれなかったようで少し申し訳なさそうな表情をした。
「私が貴族だって言ったらハルキが畏まっちゃうかと思ったのよ……私に普通に話してくれるのはお父様くらいだもの……見た感じ同い年っぽかったし」
「ダランベール家は小さい村の領主ながらも、れっきとした貴族です。ご主人様の娘であるお嬢様と同じ立場で接していただける機会は少ないかと」
「分かってるわよ……」
どうやらこの少女は、あまり畏まられるのは好きではないらしい。自分のことを言わなかったのもハルキと同じ立場で話したかったというのが大きいようだ。
それと、父親だけで、母親の名前しか出てこなかったことから、何らかの事情があることがされていることから、何らかの事情があることが分かった。
おそらく村のあの様子も関係しているのだろう。
何があったのかは今は聞くべきではないハルキは感じたので詮索はしなかった。
「そうか……じゃあ、これからもこんな感じで話してもいいか?あいにく敬語は得意ではないんでな」
「えっ……」
「だめか?」
そう聞くとミエルは激しく首を横に振った。しばらく事態を呑み込めていなかったようだが、次の瞬間には凛とした表情に戻っていた。
「もちろんいいわよ」
「そうか、じゃあ改めてよろしくな、ミエル」
「っ!?……ええ」
ミエルは余程嬉しかったのか、表情の奥が笑っているのが、ハルキにも理解できた。
「ありがとうございます」
ソフィアは嬉しそうなミエルを見ながら、ハルキにそう言ってきた。
「気にするな。ただ、その行動をしなかったことで後悔したくないだけだ」
ソフィアを見ると母親を思い出してしまうので、少し目を逸らしながら返した。
感情が分からなくなってしまった今でも考えてしまう。
……そもそも自分が絵を描いていなければあんな事故は起きなかったのではないかと。
そんな思いのハルキを理解したわけではないだろうが、ソフィアはメイドである。人の表情は誰よりも見ている。
ほとんど表情を動かさないハルキの顔が悲しそうで、それでいてどこか悔しそうな表情になったのを分かったのはソフィアだったからだろう。
それを知ったソフィアはメイドとして無視はできなかった。
「…左様ですか。しかし、あまりご自身だけで抱え込んでいるとお身体に影響します。ハルキ様もお気をつけください」
「……そうか」
ハルキは少し驚いた様子だったが、返した言葉はそれだけだった。しかし、ソフィアにはその言葉には今までの言葉とは違う何かが込められていた気がした。
「いえ……さて、ではこれからタール村の領主であるお方と会っていただきたいのですか、よろしいでしょうか?」
「ああ、問題ない」
「かしこまりました。改めて、ダランベール家にようこそいらっしゃいました。こちらでございます」
「ハルキ、行きましょう」
「ああ」
こうしてハルキはダランベール家の屋敷に足を踏み入れたのだった。
◆◇◆◇
「よく来たな、異世界人。ソフィアから話は聞いてる。俺はタール村の領主を勤めているガンス・ダランベールだ。よろしくな」
ダランベール家の屋敷にある応接室で待たされていたハルキに名乗ったのは風格のある男性だった。
四十代に見える男性、ガンスは、きらやかな金髪をなびかせて髭を生やしていた。この世界の基準は分からないが、ハルキから見ると簡素とも言える服装をしているその姿は、貴族というよりも将軍を連想させた。
簡素と言っても、所々にさまざまな装飾がされていることから、決して貴族が着てはいけない服ではないのだろう。
「ハルキ・アズマヤです。こちらこそよろしくお願いします」
そのままガンスをジーっと見つめているのは失礼なので、ハルキは名前を名乗った。
ハルキを興味深そうに眺めていたガンスだったが、しばらくすると後ろにいたソフィアに視線を向けた。
ソフィアはそれだけでガンスが何を考えているのか読み取ったらしく、頷くとハルキに眼を向けた。
「…………?」
ソフィアと眼が合うと、先程も感じたような違和感が襲ってきた。ソフィアの方を見ると、ソフィアはまた少し驚いていたため、ハルキは首を傾げた。
そんなハルキを見ていたガンスは面白そうな表情をしながら、もう1度ソフィアを見た。
「ソフィア、やはり?」
「はい、ハルキ様は異世界人であるため、何をされたのかは気づいていないようでしたが、私の眼で見られたことには気づいているようです。先程よりもかなり魔力を隠蔽して見たはずなのですが」
「……それは確かか?」
「はい」
「ほう、さすが異世界人ってところか」
2人だけうんうんと納得して、ハルキにはよく理解できない話を始めてしまった。
「…なんなんですか?」
「ん?……おう、すまない。少し羽目を外しすぎたようだな」
ハルキが怪訝そうな顔をして訊ねると、ガンスは自分達が身勝手なことをしていたと気づいたのか、少し気まずそうに笑った。
「いえ……それで?」
「ああ。実はソフィアは特殊な固有魔法を持っていてな。眼を合わせた者のステータスを調べることができる魔法なんだ。すまんな、本当は教えてから使うべきだったんだが……」
言葉を濁すガンスを見てハルキは理由を察した。
いきなり異世界人と名乗る見知らぬ者が来たのだ。警戒しないはずがない。下手にソフィアの固有魔法を教えればどうなるかは分かったものではないのだろう。
逆に言えば、ソフィアの魔法がなければガンスはこうも簡単にハルキに会おうとは思わなかっただろうが。
「いえ、こちらに非があるので、そちらが謝る理由はありませんよ。魔法やステータスとかも気になりますが、その前にこの世界のことを教えてくれませんか?」
「おお。そうだな」