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絵描きさんのぶらり旅  作者: 弓瑠斗
異世界下見編
3/16

少女との出会い


「とりあえず、ここから移動するのが先決なんだろうが……」


春樹はそう一人呟くと、目の前にある大樹を見た。

今まで見てきた木々には無い、見た者を威圧する力が、この大樹には込められていた。


そんなものを見つけて易々と見逃せる春樹ではない。

「これを描かないなんてもったいなさ過ぎる」


そうと決めれば行動は速かった。

地面に置いておいたスケッチブックを開いて、そこに転がっていた鉛筆を拾って座り込んで大樹を描き始めた。

普通の人が見たら大口を開けて呆然とする程の速さで、大樹を描きあげていく。


だが、この速さは春樹にとっては普通なのだ。むしろ遅いと言っても良いだろう。

速く描こうと思えばそれこそ一瞬だ。


ただ、そうやって描くのは自分がなんとなく嫌なので今はゆっくり確実に描いている。


そのまま1分ほどして、この大樹を描きあげた。

「……よし」

今度は先程の絵とは違ってなかなかの出来だった。

やはり、夢中になって描いた絵の方が自分から見ても上手く描けるものだ。


木々の細かい所まで描くのにそれなりの時間が掛かってしまったのが、少し心残りではある。

それでも人のレベルを越えている程度には速いが。


だが、この世界の木の構造は理解したので、次はもっと速く描けるだろう。


「……上手いのね」

そう考えていると後ろから声を掛けられた。

振り返ると、そこには綺麗な髪の少女が春樹と絵を見下ろしていた。


歳は春樹と同い年だろう。僅かな光りをも反射して輝いている金色の髪に同じく金色の眼は、薄暗い森を明るく照らしているようだった。


着ているワンピースは仕立てがとても良く、少女の美しさを更に際立たせていた。


「あら、驚かないの?気づいてた?」

「いや、今気がついた。いつからいたんだ?」

そう聞くと、少女は首を傾げて考えたあと、答えた。


「1分前?凄い速さで描いていたから、しばらくずっと見させてもらったわ。というか、今気づいたのによく驚かなかったわね?」


「そういう感情は持ち合わせていないんでな。だが、1分も前からいたのにはさすがに驚くぞ」

1分前ということは、春樹が絵を描き始めた頃にはもういたということなのだ。


さすがにそんな前にいられていたと思うと少しゾッとする。危害を加えようと思えば加えられていたのではないだろうか。


少女が良心的だったことに心から感謝する。


「そんなふうには見えないわよ……」

そう言うと少女は少し呆れている様子で首を振った。だが、そんな仕草でも綺麗に見えるのは少女の華やかさのお陰だろう。


「ところで、なんでこんな場所にいるの?ここはそれなりに危険な場所よ?」


思わずその言葉をそのまま返したくなったが、とりあえず質問に答えることにした。


「……なんでだろうな」

「なんでだろうな、て……答えになってないわよ」

「いや、自分でも気がついたらここにいたんだよ。そのままどうしようかと思ってたらあの大樹が目の前にあって、思わず熱中して描いていたら」


「私が来たということね……よくそんな状況で絵を描こうと思ったわね……」

「それは、まあ……」

少女は驚きを通り越して更に呆れてしまったようだ。


確かに、あの状況で絵を描こうと反射的に考えてしまった自分には疑問を感じ得ないが。


「その髪……貴方もしかして異世界人?」

「異世界人、か。多分そうだろうな。今目の前にある光景は全てが非現実的だ」

「それって私のことも?」

「そんな綺麗な金髪は、俺の世界にはいないからな」

「そうなの?金髪は普通にどこにでもいるけど。というか、私から見たら貴方のような黒髪は見たことがないわよ?」


どうやらこの世界では黒髪は大変稀少らしい。聞いた話だと、黒髪は異世界人の象徴だとか。

そうなると、これからいろいろと面倒だな。


また、さらに聞くと異世界人は数は少ないが、確かに存在しているらしい。

勇者として召喚することもあるため、そこまで珍しすぎるわけでもないという。


「その様子じゃ異世界人っていうのは間違いなさそうね。行く宛がないのなら近くにタール村っていう私が住んでいる村があるんだけど、うちに来る?」

「……いいのか?」


こっちにとっては願ってもいないチャンスであるが、思わず確認せざるを得ない。

「ええ。じゃあ早速行きましょ」

そう言うと、少女は春樹の手を掴んで立たせた。

それなりに力が強かったので驚きつつも立ち上がると、少女の後をついていった。


歩いている途中に、少女は後ろを振り返った。


「私、ミエル。ミエル・ダランベール。貴方は?」

「……春樹。東矢春樹 」

「ハルキね。どっちが家名なの?異世界だと言い方が違うんでしょ?」

「ああ、そうか。東矢が家名だよ。となると、こっちじゃハルキ・アズマヤと名乗った方が良いな」

「そうね。じゃあよろしくね、ハルキ」


そう言ってくる少女、ミエルは、心がないハルキから見ても輝いていて、それを羨ましいと思えるほど美しかった。



とりあえず初日なので、ここまで更新します。

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